IOWN構想の核となる光電融合デバイスの今後--6月設立NTTイノベーティブデバイスが説明

 NTTが掲げる次世代ネットワーク構想「IOWN」を実現する上で重要な存在となる光電融合デバイスを開発・製造するべく、6月12日に設立されたNTTイノベーティブデバイス。同社は9月6日に、その設立に伴う記者説明会を実施し、光電融合デバイスの開発に向けた取り組みについて説明した。

 代表取締役社長である塚野英博氏は、まずNTTイノベーティブデバイスの特徴について説明。同社はNTTグループで光通信などに関連するハードウェアの開発・製造を手掛けてきたNTTエレクトロニクスに、NTT研究所の光電融合に関する部門をスピンオフして統合し、設立された企業となる。新会社といえど、グループ全体で1148人の社員を抱え、379億円の売り上げを上げている企業でもあるという。

記者説明会に登壇するNTTイノベーティブデバイスの塚野英博氏
記者説明会に登壇するNTTイノベーティブデバイスの塚野英博氏

 その上で塚野氏は、会社設立の最大の目的でもある光電融合がなぜ必要とされているかについて、半導体の集積回路の集積率が18カ月で2倍になるという「ムーアの法則」に、半導体の微細化や発熱、消費電力などさまざまな面で課題が出てきて限界が見えてきていることが背景にあると説明する。ムーアの法則の先を追及する技術の1つとなるのが、コンピューターの処理を電気よりも消費電力や発熱が少ない光に可能な限り置き換える光電融合だと話す。

光電融合は、ムーアの法則の先を追及する取り組みの1つとして進められているものだという
光電融合は、ムーアの法則の先を追及する取り組みの1つとして進められているものだという

 だが、光電融合をコンピューターの中に入れる、つまり薄く小さくするためには、大きく3つの技術的チャレンジがあるという。1つ目は光を通す「光導波路」を基盤に埋め込めるサイズで実現する設計技術、2つ目は光で通信する上で重要なケーブルの軸を合わせる調芯技術、そして3つ目が、塚野氏が「3種の神器」と話す3つのキーデバイスの開発である。

 具体的には、複雑な信号処理をこなす半導体「ロジックIC」と、ロジックICから受けた信号を増幅してデータを送る「アナログIC」、そして半導体に代わって光を出力する「シリコンフォトニクス変調素子」と「薄膜レーザー素子」の3つ。これら3つが光電融合モジュールの基本セットになるという。

光電融合デバイスを実現する上では3つの技術的チャレンジがあり、中でも「3種の神器」とされるキーデバイスが重要な鍵を握っているという
光電融合デバイスを実現する上では3つの技術的チャレンジがあり、中でも「3種の神器」とされるキーデバイスが重要な鍵を握っているという

 実際、NTTイノベーティブデバイスでは既に、このうちアナログIC部分を1つにまとめた第1世代の「COSA」(デジタルコヒーレント用光送受信モジュール)、ロジックICとアナログICを1つにまとめた第2世代の「CoPKG」(光・電子コパッケージ)といった小型のモジュールを開発している。

NTTイノベーティブデバイスが開発している光電融合デバイスも公開。右上が「COSA」、左上が「CoPKG」となる
NTTイノベーティブデバイスが開発している光電融合デバイスも公開。右上が「COSA」、左上が「CoPKG」となる

 そこで今後は第3世代として、2025年までに光エンジンを開発。こちらはロジックICとアナログICに加え、光回線の接続に用いるFAU(Fiber Allery Unit)を一体化したものになるという。サイズは第2世代までと比べかなり大きくなるが、第3世代によって本格的にコンピューターに光電融合を導入できる環境が整うことになる。

現在開発が進められている、第3世代となる光電融合の光エンジン。サイズは大きくなるが通信だけでなくコンピューターに導入できるようになるのが大きなポイントとなる
現在開発が進められている、第3世代となる光電融合の光エンジン。サイズは大きくなるが通信だけでなくコンピューターに導入できるようになるのが大きなポイントとなる

 また、2028年頃の実現を目指す第4世代では、シリコンフォトニクス変調素子や薄膜レーザー素子を内蔵し、なおかつ幅10mm、薄さ3mm程度にまでモジュールを小型化。コンピューターの内部にも光電融合を取り込めるようになる。さらに、2032年頃を目指すという第5世代では、光電融合モジュールを基盤に組み込めるサイズまでの小型化を目指すとのことだ。

第4世代ではモジュールのワンパッケージ化かつ小型化を実現、さらに第5世代では基盤に組み込めるサイズにまで一層の小型化が図られるという
第4世代ではモジュールのワンパッケージ化かつ小型化を実現、さらに第5世代では基盤に組み込めるサイズにまで一層の小型化が図られるという

 また、塚野氏は、将来的に「あえて言えばコンシューマーの領域まで光を導入していきたい」と話し、光電融合デバイスの適用先を広げることで事業規模を大幅に拡大させたいとの姿勢も見せている。長距離通信関連のデバイスは台数が少ないことから、その市場を対象にしているだけでは製造台数が少なくモジュール1つ当たりのコストも高くなってしまう。そこで対象をコンピューターに広げることで、製造台数を大幅に増やしコストを下げながらも、事業規模を拡大するのが同社の大きな狙いとなるようだ。

 実際、塚野氏は、第3世代の実現によりデータセンターや、いわゆる「GAFAM」などのハイパースケーラーへの導入を進め、第4世代ではサーバーや自動車などより台数が多いデバイスへの導入を見込んでいるとのこと。さらに第5世代以降でにはPC、さらにはスマートフォンといったコンシューマーも利用するデバイスへの導入も進め、規模拡大を進めたい考えを示している。

世代が上がるごとに通信からデータセンター、車、そしてコンシューマー向けデバイスへと対象を広げ、事業と生産の規模を大幅に拡大していきたい考えのようだ
世代が上がるごとに通信からデータセンター、車、そしてコンシューマー向けデバイスへと対象を広げ、事業と生産の規模を大幅に拡大していきたい考えのようだ

 その上で塚野氏は、売上規模を「早期に4桁億円」に引き上げることを目指すと説明。通信分野にとどまっていたNTTエレクトロニクスの売上規模が379億円であることから、第3世代で通信以外に向けたビジネスの基礎を作り、第4世代で大きく飛躍することによって「圧倒的に飛躍できると踏んでいる」と、塚野氏は話している。

 ただ、それだけのモジュールを製造するには工場が必要であり、そのためには巨額の投資も求められることとなる。この点について塚野氏は、大きな投資が必要になるのは第4世代以降になることから、自社単独で手掛けるのか、パートナーと協力して手掛けるかを現時点で決めている訳ではないと答える一方、それまで大きな設備投資は「単年度ではあまりない」とも話している。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画広告

企画広告一覧

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]