オンラインゲームの世界は、新たな収益の可能性を提供している。米国の男子高校生が「Roblox(ロブロックス)」というゲーミングプラットフォームで累計200万円以上を稼いだという話は、その典型的な例として挙げられる。
Robloxは、世界中の子供や若者に大変人気のあるゲーミングプラットフォーム。ここでは、ユーザー自身がオリジナルのゲームを制作し、それを楽しむだけでなく、公開することも可能だ。私自身も日々、ゲームの制作とプレイの両方を楽しんでいる。このRobloxは、スマートフォン(iOS・Android)やPC(Windows・MacOS)、Amazonデバイスを用いてプレイでき、ペットの育成からピザの配達、ミニゲーム、対戦型シューターなど、多岐にわたるゲームが楽しめる。
【過去の記事:メタバースで自作ゲームを公開、稼ぐことができる時代に--世界で人気の「Roblox」とは】
Robloxを利用すれば、自作したゲームで収益を得ることができる。ゲーム内通貨である「Robux」を用いて収益化し、有料のゲームを提供したり、アバター用のコスチュームなどを販売することで、ユーザーはRobuxを獲得することができるのだ。また、自作ゲームを公開するだけでなく、服や武器、アバターギアなどの仮想アイテムを制作し、アバターショップで販売することも可能である。
そこで今回は、Robloxを通じた収益化の方法や、メタバースの時代における重要なポイントについて解説していく。
2020年、グリニッジ高校3年生のJacob Korffさんは、冬休みの余暇を活用してRobloxでゲーム制作に取り組み、合計で200万円以上もの収益を上げた(参考)。彼はこれまでもRobloxを楽しんで遊んでいたが、実際にゲームを制作する経験は2019年に1つのRoblox用ゲームを制作したことがある程度で、日常的にゲーム開発を行っていたわけではなかった。
Robloxには独自のゲーム開発ツールである「Roblox Studio」がある。これを使用することで誰でもゲームを開発・公開し、収益化することができる。ただし、適当にゲームを制作して公開しただけでは、容易に収益を上げることは難しい。なぜならRobloxには多くのユーザーによって制作されたゲームが存在し、人気のあるゲームを制作することで収益を得ることができる一方で、全く利用されないゲームも多数存在するからである。それでは、Jacob Korffさんはどのようにして200万円以上の収益を上げることができたのだろうか。
彼がRobloxで公開したのは、「Aio’s Wraparound Difficulty Chart Obby」という障害物ゲームだ。Roblox内での障害物ゲームは通称「Obby」と呼ばれ、人気のあるゲームジャンルのひとつである。
この障害物ゲームを制作するに至るまで、Jacobさんは数カ月前からRoblox内で子供たちに人気のあるゲームを調査していた。その結果、障害物ゲームがRobloxのトレンドページで頻繁にランキングされていることがわかった。具体的には、以下の共通点を見つけ、これらを重要な指標として設定したようだ。
・同時プレイヤー数は40~140人以上
・19~22時の時間帯には利用者数が7万5000人以上
さらに、彼は独自に人気ゲームをプレイし、Roblox内で支持されているゲームについて、ユーザーの関心を引きつける秘訣に気付いた。そして、友人の協力を得ながら、レベルごとに難易度が上がる障害物コース「Aio’s Wraparound Difficulty Chart」を制作。300ものレベルを用意し、この工夫がユーザーの飽きを防ぐ要因だとKorffさんは述べている。
公開後、彼のゲームは同時接続者数80人、1日あたり15ドルの収益からスタート。結果として、同時接続者数1500人、1日あたりの収益は200ドルまで成長した。
実際、Korffさんの成功を彼の両親もとても喜んでいるようだ。現在Korffさんは将来のゲーム制作のために資金を貯めており、ゲーム開発は彼の永遠の趣味にもなっているという。
Robloxの世界では、子どもたちは非常に厳選したゲームを選ぶ。自身のゲームを成功させるためには、KorffさんのようにRobloxで人気のあるゲームを徹底的に分析する必要がある。そもそも子どもたちは、どんなゲームでも単に遊ぶわけではない。
Korffさんの成功事例を見てもわかるように、メタバースでオリジナルの空間やゲームを創造しようとする際に、何から始めれば良いか分からないという人も多い。また、メタバースブームのなかで、企業や自治体も自社製品のPRや宣伝、新規顧客の獲得にメタバースを活用する試みも増えてきた。
しかし、これらの試みの多くは、多額の費用と時間を投じても、ほとんど活用されない状態になっているように感じられる。これは、メタバースに対する「何でもできる仮想空間」といった誤ったイメージや、過度なトレンドへの反応が影響している可能性もある。メタバースに限らず、どんなサービスや製品においても、設計や要件定義、ユーザーストーリーの検討が重要である。
メタバースは、それぞれ異なる社会や文化が形成されている。ユーザーの属性もメタバースによって異なり、物理的な制約もプラットフォームによって異なる。これらの事実を無視して、企業や製作者が単方向の宣伝だけを行ってしまうと、メタバースのユーザーとの交流や記憶に残ることは難しく、ビジネスの成功やファンの獲得も難しいだろう。従って、メタバースを活用する際には、独自の価値を提供し、ユーザーのニーズに応える仕組みを構築することが欠かない。
ゲーム開発を行う際には、3Dモデリング、プログラミング、ゲームデザイン、物理学、数学などの知識が不可欠だ。Korffさんにとって、2020年末に「Aio’s Wraparound Difficulty Chart」の制作に費やした時間は、今後も特別なものとなることだろう。
ゲームの普及やメタバースの進化によって、大人たちは追いつけないほどの速さで、子供たちはデジタル世界に引き込まれている。以前は娯楽としてしか見られていなかったゲームは、いつの間にか日常に溶け込み、それが仕事や収益の源となる場合も珍しくなくなった。
特にRobloxでは、大人や企業が子どもたちに提供するのではなく、子どもたち自身が面白いと感じるものを創造し、他の子どもたちと共有して遊んだり、稼いだりするという独自の経済圏を構築する兆しを感じる。
現在のメタバースは、筆者から見れば「子供の自由な遊び場」のようなもの。この世界では、制作者の制約が解かれ、誰もが自由に創造できる場となっている。メタバースを単なる「遊びモノ」として設計するのではなく、それを「遊び場」としてデザインすることで、人々は自分のものを作り上げ、空間やコミュニティに影響を与え、その中で楽しむことができる。
【過去の記事:メタバースは「作る」が楽しい--モノではなく「遊び場をデザインする」考え方】
メタバースを「遊び場」としてデザインすることで、遊び方が多様化し、ユーザーは自らのアイデアで楽しむことができる。このようなアプローチによって、子供たちは実際に企画し、プログラムを書き、ゲームを設計し、収益を上げるという経験を、Robloxのようなメタバースで比較的簡単に得ることができるようになった。こうした経験から得られる価値は、大人も子供も同じである。むしろ、純粋に楽しみながら創造し、稼ぐ子供たちから、我々大人はもっと学ぶべきことがあるのかもしれない。
齊藤大将
Steins Inc. 代表取締役 【http://steins.works/】
エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究。バーチャル教育の研究開発やVR美術館をはじめとするアートを用いた広報に関する事業を行う。
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