企業がVRやメタバースをどのように社内活用できるか考える

 2021年10月にFacebookが「Meta」と改名して同社は当時、メタバースを構築するための技術に今後1年間で100億ドルを費やし、この領域におけるより多くの機会を探求すると発表していた。ビジネスのためのメタバースはまだ進化中だが、この技術はソーシャルメディアからeコマース、そして不動産に至るまで、あらゆるものに革命を起こすこと可能性を秘めている。

 一方で、「メタバースが注目されているのは知っているが、社会や企業で具体的にどのように活用すればいいかわからない」という方も多いのではないか。

(unsplush)
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 以前、「メタバース×ビジネス--企業が新規サービスや取り組みを行うときに考えるべきこと」という記事にて、企業がメタバース参入する上で考えなくてはいけない事とそのガイドラインを具体的に紹介した。企業がメタバースで新規事業を企画する際は、ぜひ一度目を通していただきたい。

 今回は、企業はメタバースを社内でどのように活用できるのか、またそのユースケースについて紹介する。

企業によるメタバースの活用の可能性

Horizon Workroomsの様子
Horizon Workroomsの様子

 企業でもメタバースやVRの活用は広がっている。Zoomなどのビデオ電話サービスを使ったウェブ会議が日本でも一般的になったが、そこで注目されているひとつが、VR会議である。

 VR会議では、アバターを通して、相手がまるで目の前にいるかのように話すことができるため、ウェブ会議よりもより対面式に近い形での会議が実施できると期待されている。リモートワークという働き方が新型コロナウイルスの影響によって急激に進んだが、VRヘッドセットを使えば、同僚と同じテーブルを囲み、没入した環境で重要な事柄を話し合うことも可能である。また、会議が終われば、ヘッドセットを外して現実の世界に戻ることができる。

 メタバースは、ネット環境が整っている場所であればどこでも、誰とでも、リアルに近い環境で過ごすことを可能にする。この特徴は、顧客とのより良い関わり方につながり、他者とのコラボレーションを容易にするのではないだろうか。

 Metaが推進しているVR会議システム「Horizon Workrooms」は、通信環境が整っているなら、どこからも参加できる。VRゴーグルを持っていない人も、デスクトップがあればウェブ会議と同じように参加すること自体は可能である。

【過去の参考記事:オフィスと仕事はVR会議で進化--フェイスブックのVR会議室「Horizon Workrooms」を体験

 会議でアイデアを出した時に、相手が笑顔で受け入れてくれているという雰囲気の良い環境の場合、アイデアの数が1.5倍になったとの結果が出ている。これをVR会議に応用して、参加者のアバターを笑顔の状態にしておくと、それだけでも会議をより生産的にできる可能性を秘めている。

 しかし、VRは人によっては酔いやすい、ネット環境が悪いと落ちやすい、長時間VRゴーグルを装着していることがストレスになりうるなど、まだまだデメリットが多いことも事実である。特に女性の場合は、化粧が崩れるという恐れもある。

 さらに過去の記事でも述べたところだが、身体的な障害がある方にとっては、VRの活用がかえって難しくなってしまうことも十分考えられる。

【過去の参考記事:身体障がい者はバーチャル空間で自由に動けるわけではない--VR活用の障壁ともたらす光

 メタバースに対し「なんでもできる電脳空間!」というイメージを持っている方も多いので、企業がメタバースやVRを活用する際は、そのメリットとデメリットをよく理解した上で活用することを薦める。

企業の社員教育にメタバースやVRを利用する

 メタバースの最も明確で、最も広く適用できる用途の1つはトレーニングだろう。現実世界であれば、社員の移動費用や時間が膨大に必要となるが、メタバース上でのトレーニングであれば、その心配はない。また、オンラインビデオ会議でのトレーニングはコミュニケーションが一方通行になりがちだが、VRではより実践的でハンズオンな体験ができる。

 例えば、ノキアが行っている取り組みの一つに、「NOKIA LEARNING SPACE VR」というものがある。これはインストラクターの指導のもとで学ぶことができるVRである。最初に提供したプログラムは、Nokiaの機器の設置方法を学ぶものであり、参加者は、機器の開梱から電源ケーブルの取り付け、ラックへの取り付け、電源の入れ方、ソフトウェアのインストールまで、すべてのプロセスを経験することができる。そして、最後に認定証を受け取る。

 このトレーニングは、これまで物理的な空間で物理的なオブジェクトを使って行われていた活動を仮想化するだけではない。VRを活用したトレーニングは、さらに一歩進んで、見えないものをトレーニングのために見えるようにすることができる。

 例えば、現実世界では基地局から伝播する電波は見えないが、VRやARでは電波を見ることもできるため、研修生はアンテナのビームフォーミングなどの機能をより理解することができる。現実世界では高い想像力を要するトレーニング内容でも、VRやメタバースを活用すれば、より直感的な理解が進むのだ。

 Microsoft Meshでは、Hololensを使った複合現実を提供し、3Dコラボレーションとインタラクションで、オンラインビデオ会議よりも魅力的なフォーマットで異なる場所から、リモートで学習することができる。このようなARやVRによる会議支援を取り入れたハイブリッドモデルも、社員の研修やトレーニングに役立つだろう。遠隔地からの参加者でも、理論と実践を組み合わせたVRベースのトレーニングによって、社員の研修支援が発展していくことにも期待したい。

 ノキアやマイクロソフトの例以外としても、実習的な企業研修を仮想空間でアバターを使い実施することで、離れていても他の人と一緒に実習することが実現可能だ。例えば、お客さんにクレームされたとき係員がどう対応するか、といった社員のトレーニングについてもメタバースやVRは有効である。お客さんからのクレーム対応、外国人への対応、子供や障がいを持つ人への対応など、多様なシチュエーションを仮想空間に用意すれば、反復的でより実践的なトレーニングできることも魅力の一つである。

VR言語学習アプリ「Mondly」より
VR言語学習アプリ「Mondly」より

 アパレル分野では、仮想空間に実際の店舗と同様の店内レイアウトや商品展示を行い、顧客役と接客役でアバターを使い分けながら、さまざまなシチュエーションを設定して接客スキルを学ぶこともできる。他にも、英語を使った現場の研修や、プレゼンテーションの練習などに活用されている事例もある。

 研修に限らず、前述したアバターの効能も踏まえると、メタバースでのアバターを通した交流は、社員同士、あるいは社員と経営陣のコミュニケーションを活発にすることも可能だ。また、その際の被験者の行動パターンをデータとして保存しておくことで、よりパーソナライズされたVRトレーニングの実現も将来的に期待できるだろう。

VRChatで筆者齊藤が店員をロールプレイしていたときの様子
VRChatで筆者齊藤が店員をロールプレイしていたときの様子

社内向けにさまざまな試みがされているが、実用化はまだ先

 社内コミュニケーションの円滑化や、研修への活用による社員のスキル向上に向けて、VRやメタバースを社内で活用してみることは、さまざまな研究報告からも効果的と言えるだろう。しかし、障壁が多いのも事実である。

 初心者はVR酔いに陥ってしまったり、操作方法になれずそもそも使い慣れることに対するハードルも高い。一時的な試みとして、VRやメタバースを社内で活用する例はあるが、継続的に活用している例はまだまだ少ない。しかし、VRやメタバースが、現在のスマホやパソコンのように、仕事や日常で使うことが当たり前になったときには、むしろ仮想空間で働くことが常識、なんて世界になるのかもしれない。

齊藤大将

Steins Inc. 代表取締役 【http://steins.works/

エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究。バーチャル教育の研究開発やVR美術館をはじめとするアートを用いた広報に関する事業を行う。

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