2023年も、夏の甲子園が大いに盛り上がった。例年と異なる点としては、酷暑が続く中、5回終了後に体を冷却したり水分を取ったりする10分間のクーリングタイムが初導入されたことが話題となったが、もう1つ注目されているのが、応援の「盛り上がりが足りない」だ。人気となった理由と背景について見ていきたい。
「も、もり、もりあ、盛り上がりが足りない」
リズムに乗って全員で飛び上がりながら叫ぶ独特の応援。甲子園の応援といえば、吹奏楽部が演奏している様子が浮かぶが、2023年に目立つのは声によるコール。
茨城の明秀日立高校サッカー部の応援がTikTokで拡散されて広まったと言われている。TikTokで「#盛り上がりが足りない」は3610万再生の人気ぶりであり、実にさまざまな学校での「盛り上がりが足りない」コール動画が投稿されている。実際、少なくとも32校で応援として採用されている状態だ。
採用した学校の生徒は、「盛り上がる」「楽しい!」「一体感が味わえる」と好評だ。2022年まででは見られなかったこのような動きが、なぜ起きたのか。
似たようなコール、動きが見られる人気の応援として、「アゲアゲホイホイ」がある。「もっともっとー!」「アゲアゲホイホイ」「エッサエッサー!」などのコールがあり、全員で飛び上がりながら応援する点が似ている。
同応援は、兵庫県の報徳学園高校が始め、2017年頃から甲子園の応援曲として一気に広まったものだ。Belliniの「Samba De Janeiro」(サンバ・デ・ジャネイロ)という曲が元となっており、吹奏楽部の演奏に合わせて行う。
しかし、今回の「盛り上がりが足りない」は、「アゲアゲホイホイ」よりも広まりが早く、採用校も多かったという。
これは、県大会では吹奏楽部の応援が来ないことがあることも影響していそうだ。「アゲアゲホイホイ」は演奏が必要だが、「盛り上がりが足りない」なら演奏もなくいきなり取り入れることができるからだ。フレーズもとても簡単で誰でも真似でき、すぐに応援に参加できるのも支持を受けた点だろう。
過去の制限の反動もありそうだ。2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大で甲子園自体が中止となった。2021年は開催こそされたが、やはり感染防止の観点からスタンドに一般客は入れず、保護者や卒業生など1校につき2000人に限定するなど、学校関係者に限られた。大声での応援はできず、吹奏楽での応援も50人以内に限られた。2022年には一般客にも開放したが、観客の入れ替えはせず、ネット販売により全席指定で前売りとなっていた。
2023年は、新型コロナウイルスが5類感染症に移行となり、声出し応援ももちろん解禁された。2023年は2022年までの反動で、たとえば4年ぶりの開催となった隅田川花火大会も過去最多の103万人の人出だったという。国内旅行や海外旅行も増え、リアルへの回帰が強く見られる年となったと言えるだろう。
まるでフェスのような応援は、これまでの制限された夏を取り返そうという現れであり、「もっと盛り上がりたい」という若者たちの気持ちの現われなのではないだろうか。
今回の人気に、TikTokが大きく影響していることは間違いないだろう。「アゲアゲホイホイ」が流行した2017年頃にはTikTokはまだ「Douyin」という前身のサービスであり、TikTokは日本国内では2018年頃から10代を中心に広まっている。「アゲアゲホイホイ」流行は、“TikTok以前”なのだ。
一方、今回の「盛り上がりが足りない」はTikTok以後どころか“TikTok発”だ。そもそもTikTokは、AIでその動画を好みそうなユーザーのもとに表示されるため、短くキャッチーな動画はバズりやすい。
当事者である高校生たちが、TikTokで見た動画を真似して動画を撮影、投稿するのに慣れた世代という影響もありそうだ。当事者がTikTokユーザー世代だったこと、短くキャッチー、しかも時事ネタである甲子園という投稿されやすい要素が重なっていたことなどから、拡散されて広がっていったと考えられるのだ。
コロナ禍で利用が広がったTikTokの影響力はいまだ高い。今後も、若者中心に新しい流行を生み出していくのかもしれない。
高橋暁子
ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。
公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/
Twitter:@akiakatsuki
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