韓国の水原(スウォン)にあるサムスンの敷地に建つ、何の変哲もないビルの中。それぞれのパーテーションでは、従業員が熱心にデスクに向かっている。頭上には葉の形をした日よけがあって、明るいオフィスの照明をいくらか和らげている。だが、これはメインのオフィスエリアの様子で、そこを離れて角を曲がると、職場の様相は一変する。
同じフロアに、半ば隠れるように続いているのが、サムスンの信頼性テストラボだ。同社は、全世界の無数にいるユーザーに向けて製品を出荷する前に、ここでスマートフォンに試練を与えている。ロボット装置が金属製の表面にスマホを落としているかと思えば、ウォータージェットが全方向から激しく水を噴射したり、専用の装置で超高温・低温にさらしたりしている。
これらはすべて、同社のスマートフォンが落下、水没、極端な気候などの過酷な状況に耐えられるかどうかを試す工程の一部だ。スマートフォンは高価な上、日常生活に必要不可欠なので、耐久性を重視して作られなければならない。そのため、この種の試験は極めて重要なのである。
サムスンといえば、信頼性の問題を抜きには語れない。2016年に過熱の問題で「Galaxy Note7」のリコール騒ぎがあったことはよく知られている。2019年にはレビュアーから画面破損の報告が相次ぎ、初代折りたたみスマホの発売が遅れた。2022年にも、内蔵バッテリーが膨張するという複数の報告が「YouTube」にあがっている。
米CNETなど複数のメディアは、サムスンのラボを訪問し、同社製品の負荷試験の様子を見学できる貴重な機会を得た。この見学会で、サムスンがスマートフォンの耐久性をどのように考えているかを垣間見ることができた。また、テスト自体だけではなく、サムスンがどのような状況を想定しているのかも分かった。これは重要な点だ。なにしろ、市場調査会社のInternational Data Corporationが発表した最新データによると、サムスンは全世界のどの企業よりも多くのスマートフォンを出荷しているからだ。
スマートフォンの耐久性というと、おそらく最初に想像されるのは、落としたときに無事かどうかということだろう。AllState Protection Plansが実施した2020年の調査によると、米国では、使用しているスマートフォンがどこかの時点で損傷したことがあるというユーザーが、1億4000万人にのぼったという。
サムスンのテスト施設では、スマートフォンを投げる、あるいはスマートフォンが割れる、粉々になるなど、あらゆる状況を試すたくさんの装置が稼働している。何度も落下を試すといった単純なテストだけではない。サムスンのラボでのテストは、画面やカバーガラスといった特定の部位に焦点を当てながら、さまざまな角度や高さから落としたときにスマートフォンにどのような影響が出るかを評価している。
そうした評価の1つに、タンブルテストという手法がある。回転する巨大な四角い箱にスマホを入れ、何度も何度も箱の側面に打ちつけられる状態を作り出す試験だ。さまざまな角度から衝撃を与えられた時に、どの程度の耐久性があるかを検査することを目的としている。
ラボの別の一角で鋼鉄製のボールを「Galaxy Z Fold」のディスプレイ上に直接落としているテストには身がすくんだ。衝撃を受けたとき、ディスプレイ、背面ガラス、内部部品にどのくらいの耐久性があるかを測定しているのである。
それほど派手な衝撃ではないが、低い位置からの落下試験もある。機械がスマートフォンを吸い上げ、低い位置から落下させるテストで、これはテーブル上でスマホが軽く弾かれた時の累積的な影響をシミュレーションしている。他のテストほど過酷には見えないが、ちょっと滑らせてしまったような場合でも、長期的に見たときにスマートフォンにどのような影響が生じるかをサムスンが考慮していることが分かる。
折りたたみ式スマホの場合、専用の特別なテストも必要になる。「Galaxy Z Flip」とZ Foldを、ロボットアームが何度も何度もほぼ一定のリズムで開閉するテストの様子を見学した。開閉サイクルを何回耐えたら合格になるかを尋ねたところ、信頼性テストチームの1人で、この見学を案内してくれていたメンバーが、ひと言こう答えた。「何回もだ」
平均的なユーザーが、通常の使い方で一定期間に折りたたみスマホを何回くらい開閉するかを把握するのが目的だ、と通訳を通じてその従業員は説明した。このような耐久性試験は、折りたたみ式スマホの場合は特に重要だ。ちょっとGoogle検索をしただけでも、Galaxy Z Flipの画面が破損したという話が、「Reddit」やYouTube、サムスンのコミュニティーフォーラムで、いくらでも見つかる。サムスンによると、Galaxy Z FoldとZ Flipは20万回の開閉に耐えるようテストされているという。1日に100回開閉したとして、およそ5年という計算になる。
筆者はテクノロジー製品のレビューを10年続けてきたので、IP等級、つまりスマートフォンの防水・防塵性能を表すスコアについて理解できているつもりだ。しかし、その等級の裏で実際にどのような試験が行われているのかはこれまで見たことがなかった。
サムスンの信頼性テストラボには、さまざまなレベルの耐水性を試す各種装置がある。IPX4等級に関するテストの一環として、同社のスマホにウォータージェットで水を浴びせる様子も見た。水の飛沫に耐えられるかどうかという試験だ。同じ部屋では、さらに厳格なIPX8等級をテストするために、そびえ立つ水槽の底にスマートフォンが置かれていた。
スマートフォンに耐久性があるかどうかを考えるとき、まず思い浮かべるのは落下や水没に対する耐久性だろう。だがサムスンは、スマートフォンのもっと細かい性能を評価するテストを他にいくつも実施している。ロボットがひっきりなしに充電ケーブルを抜き挿ししてサイドキーを押しているのは、USBポートとボタンを検査するためだ。Galaxy Z Foldのディスプレイ上に何度も「Sペン」を走らせて、その圧力が耐久性に影響しないかどうかも試験している。
サムスンのテストラボは、単に自動で負荷をかける機械があるだけではない。現実的な環境で耐久性をテストする専用スペースも用意されている。例えば、カフェ、公園のベンチ、レストラトンを模した状況でスマートフォンのカメラの性能を試す環境もある。
筆者が最も注目したのは、極端な温度への耐久性を評価するテストだ。世界中のさまざまな気候で正常に機能するように、極端な低温や、極めて高い湿度の環境にスマートフォンを入れておく専用の部屋がある。外から見る分には、特に変わったところのない金属とガラスの箱だが、中に入った途端に驚くほど急激に温度が変わる。実際に見学した装置の1つは、摂氏マイナス20度(華氏マイナス4度)に設定されていたが、さらに低温での試験も実施されている。
サムスンの信頼性テストラボを見学すると、同社の開発プロセスが垣間見えると同時に、新しいコンセプトが実際に製品化されるまでに長い時間がかかる理由も分かってくる。折りたたみ式スクリーン、丸みを帯びたディスプレイ、新しいSペンスロットなど、新たな部品や機能を追加するたびに、それらが過酷な環境でどの程度耐えられるかをテストしなければならない。「CES」で同社が披露した大胆なコンセプト、例えば横にスライドして拡張できるフレキシブルなディスプレイなども、最終的にはこのラボで評価されることになるのだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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