ワーケーションを地域との「架け橋」に--ANAグループで加速する地域創生事業

 ANAグループで航空セールス事業と地域創生事業を担うANAあきんどで、「ワーケーション」を軸とした地域創生事業が加速している。業務委託という形で地方自治体からの要望も受け、自治体や地域事業者と二人三脚で取り組むケースが増えているという。

 ANAあきんど 営業統括室 地域創生部 企画チームでマネジャーを務める永田翔多氏と、総務人事部 総務・広報チームでマネジャーを務める阿久澤一恵氏に、取り組みの概要や地域創生への想いを聞いた。

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受け入れ地域側の思いに寄り添う

 2021年4月、ANAセールスの旅行事業をANA Xへ継承しつつ、社名を変更して再スタートを切ったANAあきんど。設立時から「地域創生事業」に注力している。

 背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大による社会の変化がある。ANAグループの主力である航空事業が大打撃を受け、新たな収益の柱を模索するなか、世の中的には場所にとらわれない柔軟な働き方や、地方への移住に対する関心が高まっていた。

 一方、ANAあきんどはもともと、前身のANAセールス時代から「ワーケーション」を切り口にしたツアー商品を提供。人々の行動変容や受け入れ側である地域の意識の変化にも沿う形で、地域創生事業がスタートしたという。

 「ワーケーション×地域創生」をリードする永田氏は、ANAグループのワーケーション事業は地域とともにあると語る。「地域の課題を、地域の皆さんと一緒に解決するなかで、地域の魅力を掘り起こし、地域と共に磨き上げて、地域のファン創出、そこに行く理由づくりに取り組む――それが、地域創生事業のミッションだ。交流人口、関係人口を拡大し、さまざまな方が地域を訪れて、地域が活性化され、私たちの本業である航空の搭乗も増えるという『三方よし』を目指している。ワーケーションは、そのための手段の1つ」と、ANAグループにおけるワーケーションの立ち位置を説明する。

 永田翔多:2008年、ANAセールス九州入社。熊本支店で航空券及び国内外旅行商品の代理店営業、法人営業を担当し、九州支社では九州全体を統括する立場で販売計画も担当。2021年4月からANAあきんど地域創生部で、「ワーケーション×地域創生」をリードする
永田翔多:2008年、ANAセールス九州入社。熊本支店で航空券及び国内外旅行商品の代理店営業、法人営業を担当し、九州支社では九州全体を統括する立場で販売計画も担当。2021年4月からANAあきんど地域創生部で、「ワーケーション×地域創生」をリードする

 また、ワーケーションに対する地域からの要望は高まる一方と続ける。「多くの自治体から、ワーケーションを活用した誘客誘致をしたいと相談を受ける」(永田氏)。そうした相談が寄せられる理由の1つは、ANAあきんどがANAセールス時代から地域に根ざした活動を続け、信頼関係を構築してきたためだ。ANAあきんどは、現在も全国に33支店を構え、地域密着でコミュニケーションを図っている。また、地域創生事業部には地域在住のサテライトオフィス社員も複数在籍しているという。

 広報担当の阿久澤氏は、「従来の良好な関係性を土台に、全国の支店で地域創生事業が加速している」と続ける。ただし、大きく変わった点もあるという。

 「従来との一番の違いは、航空事業への送客という短期的な視点から、地域の課題を解決するという長期的な視点に移ったところ。より深く地域に入って、地元の方との交流を通じて、受け入れ地域側の思いとしてワーケーションを進めていきたい。そこに着目した場合、課題解決のためにANAグループのアセットを生かして何ができるかを考えている」(阿久澤氏)

山口や愛媛で進む、ANAあきんどのワーケーション事例

 ANAあきんどが目指すワーケーションは、「地域事業者と都市部企業や都市部ワーカーなどとの『架け橋』になること」だ。地場産業などの地域事業者と、都市部を本拠地として活動する各分野の専門企業やエキスパート人材などを結びつけて、地域の課題解決や新規ビジネス創出を図ることで、地域にも企業にもメリットが得られる仕組みをつくり、地域への新たな人の流れを形成することを目指している。

 「山口型ワーケーション」は、その一例だ。ANAあきんどは、山口県からの業務委託を受けて、山口県でのワーケーションを広め、都市部と山口県をつなぐ事業を推進している。その中心となる施設が、「YY!GATEWAY」(ワイワイゲートウェイ)。山口県の玄関口、山口宇部空港の国内線ターミナルビル2階にあるコワーキングスペースだ。

 ここは、フライト前後にリモートワークができる施設というだけではない。ANAあきんど社員がコンシェルジュとして常駐し、山口でのワーケーションをきめ細やかにコーディネートしているのだ。県内にあるワーケーションに適した施設や、地域体験プログラムなどの情報を得られるため、利用者の満足度も高いという。

 ワーケーションプログラムの開発や、ワーケーションモニターツアーの実施も手がけている。例えば、ふぐの陸上養殖をしている山口県内の安藤建設で、ワーケーション来訪客との接点を創出。事業者の話を聞きながら養殖場を見学し、その後ふぐ料理を提供するきらくで実際に食べたり、料理人の想いを聞いたりできる、一連のプログラムを企画、集客から実施までを担った。

 「山口県で熱量を持って事業に取り組む方々の想いに触れることで、首都圏から訪れた方々のモチベーションが上がり、新しい発想が生まれてイノベーションにつながる。地域事業者との新規事業共創に発展する、といった化学反応も狙っている」(永田氏)

 地元の事業者と協働で開発したプログラムもある。例えば、本社を都内に置きつつ、IT人材を獲得すべく、山口県岩国市にサテライトオフィスを開設したメタ・インフォと、「人材育成と地域との交流活動」について学べるビジネス創出型プログラムを企画、催行した。

 愛媛県では、「親子deワーケーション」を推進するソトエの監修のもと、「愛媛・自然公園親子ワーケーション」を企画。普段は自然との関わりが少ない、都市部在住の親子を対象に、自然の中で生きることを体感し、SDGsについても学べるツアーを提供。もちろん平日は、大人は仕事に没頭でき、子どもには体験プログラムを用意しているという。

 「ANAグループはもともと航空会社。皆様に移動していただくのが私たちの事業である一方で、ANAあきんどには地域に住み、現地のことを五感で把握する人間が全国各地にいる。各地域の魅力を全国へ、世界へ発信していくことが、私たちの使命だ」(阿久澤氏)

阿久澤一恵:2006年、ANAセールス入社。大阪支店配属後、伊丹空港でのグランドサービスや、旅行商品のウェブ販売、変動型旅行商品ダイナミックパッケージの販売の担当を経て、関西支社に戻り旅行会社代理店営業や販売計画も担当。2021年4月からANAあきんど広報担当
阿久澤一恵:2006年、ANAセールス入社。大阪支店配属後、伊丹空港でのグランドサービスや、旅行商品のウェブ販売、変動型旅行商品ダイナミックパッケージの販売の担当を経て、関西支社に戻り旅行会社代理店営業や販売計画も担当。2021年4月からANAあきんど広報担当

2024年以降の飛躍を目指して

 ワーケーション事業の委託元である自治体には、ワーケーション来訪者人数、ワーケーション関連施設への来場者数、地域でのビジネスマッチング、ワーケーションサイトへの流入数、SNSへのリアクションなど、各地自体ごとにさまざまな目標数値がある。ANAあきんどはその自治体の目標に応じた達成手段を提案することで数値達成に向け、自治体と伴走しているとのことだ。

 2023年、ANAあきんどの「ワーケーション×地域創生」の取り組みも3年目を迎える。永田氏は、各地域との取り組みを量と質の両面でこだわっていく姿勢を見せる。

 「地域の方々や協業パートナーとも議論しながら、地域にマッチし、特色を生かしたワーケーションを共創する。新たなビジネスマッチングが生まれ、地域の課題を解決するといった事例を、いくつも積み重ねたい。この2年半でたまったノウハウを生かし、2023年度中にしっかりと土台を整え、24年度からは地域活性のスピードを上げる。交流人口や関係人口の拡大を目指したワーケーションから、ふるさと納税や家族旅行、さらに移住や定住など、その次につなげていきたい」(永田氏)

 阿久澤氏も、ワーケーションの先を見据えた展開を口にした。「ワーケーションは、地域の魅力をさらに発信する手段のひとつではある。しかし、地域の事業者とANAグループのソリューションの掛け算で新しい価値を生み出して物販につなげる、ANAグループと昔から関係がある各地の事業者、地域と地域間をつないでLocal to Local(互産互消)の新しい流れを生み出すなど、これまでにない人や物の流れの形成にもチャレンジしたい」という。

「ANAのワーケーション」推進(事業者向け)
「ANAワーケーション」(一般顧客向け)

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