1兆円規模の社債返還が待つ楽天、赤字決算も三木谷氏「絶対の自信がある」--鍵はモバイル黒字化とAI

 楽天グループは8月1日、決算会見を開催。2023年1月から6月までの連結決算が1399億円の最終赤字であることが明らかになった。6月にKDDIローミングエリアでもデータ通信が無制限に使える「最強プラン」を開始し、新規契約者数や解約率に改善は見られたものの、黒字化にはほど遠い状態だ。

楽天グループ 2023年度 第2四半期決算短信より
楽天グループ 2023年度 第2四半期決算短信より

 ネット上には「楽天経営危機説」も叫ばれるなか、楽天グループ 代表取締役会長兼社長 最高執行役員を務める三木谷浩史氏は、「ボクはインターネットとかニュースとか見ないのでよくわからないが、経営には絶対の自信を持っている」と噂を一蹴した。

楽天グループ 代表取締役会長兼社長 最高執行役員 三木谷浩史氏
楽天グループ 代表取締役会長兼社長 最高執行役員 三木谷浩史氏

 今後の楽天グループを予測する上で、重要な鍵となってきそうなのが、モバイルの黒字化とAIだ。楽天モバイルでは損益分岐点を800〜1000万契約と見込む。最強プラン開始後、7月の1カ月で10万契約を獲得できたようだが、このペースを維持しても、損益分岐点である800万を達成するには30カ月、2年半の年月が必要となる。楽天グループでは2024年から3年間で1兆円規模の社債の返還が迫っており、残された時間は限られている。経営危機を乗り切るには、新規の顧客獲得のペースアップが必須と言える。

 一方でAIに関しては、ライバルであるソフトバンクに一矢報いた感がある。

 昨今の生成AIブームの火付け役であるOpenAIで最高経営責任者(CEO)を務めるサム・アルトマン氏と、誰が日本で最初に大型の提携話を成立させるかが注目されていた。

 6月中旬、ソフトバンクの株主総会に登壇した、ソフトバンクグループ 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏は「(アルトマン氏とは)長年の友人だ。毎日のようにチャットや、直接面談をしている。(生成AIで)ものすごい革命がおきる。その革命が日本にもたらせるが、その時、最大のパートナーになるのは多くのユーザーがいるソフトバンク、Zホールディングスだ」と胸を張っていたのだ。

 しかし、8月2日、ソフトバンクが戦略的な提携をしたパートナーは、日本マイクロソフトであった。マイクロソフトはOpenAIに出資をしている関係であり、ソフトバンクとOpenAIとの間に日本マイクロソフトが間に入ってしまったようだ。

 同日、OpenAIが日本での直接的なパートナーに選んだのが楽天グループであった。アルトマン氏と孫氏は友人関係のようだが、同じく三木谷氏とも友人関係であることは間違いない。そんなアルトマン氏が孫氏ではなく三木谷氏を選んだというのが驚きであった。

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 三木谷氏に「なぜOpenAIと提携できたのか。アルトマン氏を口説き落とせた背景になにがあったのか」を直接聞いたところ「すごく仲がいいというわけではない。正直言って、友達というくらいで、カラオケも一緒に行っているわけではないので。彼はもともとYコンビネーターというところでのパートナーだった」という。どうやら、三木谷会長の「仲がいい」という基準はカラオケを一緒に歌うかどうかが基準のようだ。

 三木谷氏は、提携できた背景は「個人的な関係」ではなく、楽天グループが持つ「データの豊富さ」「クライアントベースのネットワーク」「モバイルが持つエッジコンピューティングパワー」の3つだとしている。三木谷氏は「これだけ多岐にビジネスを展開し、リッチなデータを持ち、ポテンシャルのある企業は世界中を見ても、楽天グループ以外にはない」と胸を張る。

 楽天グループには、ペイメントやカードなどの購買データを所有する一方、楽天グループだけでなく、市場やトラベルなど90万社のビジネスパートーナーに向けて「AI as a Service」といったかたちで、OpenAIが持つ生成AIを提供することが可能となる。さらに、楽天モバイルのネットワークでは、基地局に近いエッジ部分にサーバーを設置し、そこにAIを置くことで、他社には実現できないAIエッジコンピューティングを提供することが可能となる。

 また、三木谷氏は「私たちは日本企業のなかでも一番国際的だと言える。ワールドクラスのAIエンジニアが楽天グループにいるので、(OpenAIと)共通言語で話ができるのも大きい」と語る。アルトマン氏が楽天グループを選んだ背景には、楽天が持つ「データ」「クライアント」「ネットワーク」という3つの要素が魅力的に映ったのかも知れない。

 その点、ソフトバンクグループも、ヤフーやLINEといったサービスは提供し、データやクライアントを保有しているものの、Zホールディングス傘下で経営統合が上手くいっていないという状況にある。IDの共通化も10月にようやく始まるなど、楽天グループに大きく出遅れている。

 OpenAIとの提携で、ソフトバンクに先んじることができた楽天グループ。このアドバンテージをモバイル事業の成功につながられるかが、次のフェーズの戦い方になりそうだ。

【8月16日11時30分修正】
一部誤字を修正しました。

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