2024年の輸送力は14%不足?--デジタル活用する「新スマート物流」普及に向け、河野氏ら登壇

 持続可能な物流を官民連携で目指す全国新スマート物流推進協議会は7月7日、「物流2024年問題に挑む〜加速する新スマート物流の取り組みと今後の可能性〜」と題し、第2回目となる新スマート物流シンポジウムを開催した。

 当日は、デジタル大臣の河野太郎氏が特別講演を行ったほか、国土交通省 自動車局長(物流・自動車担当)の鶴田浩久氏が登壇するなど、2022年に続き政府関係者がダイレクトにメッセージを発信したこともあって、300人以上の全国の自治体関係者や物流事業者が、リアルとオンラインで参加した。

 
 

「全国新スマート物流推進協議会」と

 2024年4月から、これまで猶予されていたトラック運転手の時間外労働にも、年間上限960時間の規制が課せられる。過去20年間で、道路貨物輸送事業の運転従事者数は30万人減少し、高齢化も進んで担い手不足が加速するなか、物流業界では昨今、EC利用の増加に伴う貨物の小多頻度化が進んでいる。

 しかし、トラックの積載率は、約35%から40%弱と低迷している。このままでは、配送効率の悪さが物流事業者の経営を圧迫し、配送効率の悪い過疎地域から物流弱者、買い物弱者、医療弱者、災害弱者といった新たな社会課題が引き起こされることが懸念されている。

 新スマート物流は、その解決策。物流事業者同士の「共同配送」と、トラックや配送ロボットなどによる「陸送」とドローンによる「空送」のベストミックスによって、ものの流れを最適化し、省人化と脱炭素化を推進する持続可能な地域物流インフラだという。

 各地の自治体と物流会社をはじめとする民間企業が協力して、ドローンをはじめとする最新テクノロジーを活用することにより、持続可能な物流網を維持する。自治体同士が知見を共有しながら国との連携も図り、全国どこでも安心して暮らせる地域社会を目指す――そういった目的で2022年5月に発足したのが、全国新スマート物流推進協議会だ。

 今回、第2回目となるシンポジウムを実施した同協議会は、立ち上げから2年目を迎えた。19の市町村と12の企業・団体が参加するほか、14の都道府県が活動内容に賛同して支援する賛助会員として参画している。ちなみに第1回目は、デジタル田園都市国家構想担当大臣を務める若宮健嗣氏から応援メッセージ動画が届き、国産の物流専用ドローンが初お披露目されたことで、多くの自治体関係者から関心が寄せられていた。

「ドローンは物流手段のひとつ」

 今回は冒頭に、全国新スマート物流推進協議会会長で北海道上士幌町長の竹中貢氏が、主催者を代表して挨拶した。上士幌町は、20年以上にわたりICT活用を進め、2016年には人口増加に転じた先駆的な自治体で、新スマート物流「SkyHub」実装エリアとしてもリーダー的な存在だ。

全国新スマート物流推進協議会会長で北海道上士幌町長の竹中貢氏
全国新スマート物流推進協議会会長で北海道上士幌町長の竹中貢氏

 「新スマート物流は、ドローン配送と陸送のハイブリッド配送システムの構築と実装を目指しているところ。これは、すべての物流網をドローンに置き換えるということではなく、ドローンを最適に配置することで陸送が効率化され、結果としてヒト・モノの動き全体が最適化されるということ。例えば、上士幌町の農村部では、新聞配達を陸送からドローンに置き換えたところ、従来は難しかった当日配送が可能になり、スーパーのチラシをその日に見られるようになるなど、地域に入り込んでニーズを深掘りすることで、地域で本当に必要とされる新たなサービスも生まれている。共同配送や貨客混載の取組も、日々アップデートされている。1つひとつは小さな取組だが、官民が一体となってこの流れをより大きくし、北から南まで誰1人取り残さない社会を実現したい」(竹中氏)

何もしなければ、2024年には輸送力が14%不足する

 国土交通省 自動車局長(物流・自動車担当)の鶴田浩久氏は、「物流2024年問題への対策とドローン物流への期待」と題し、物流を取り巻く状況について概観を整理したうえで、物流の革新に向けた政策パッケージを紹介。ドローンの社会実装についても言及した。

 鶴田氏は、「直近1年間は国交省総合政策局に所属して、過疎地を中心とする公共交通と、全国的な物流を担当してきた。3日前に自動車局に異動したが、2023年10月からは自動車局が拡充して物流自動車局になる予定で、いまから引き続き物流政策を推進していく」と挨拶し、本題に入った。

国土交通省 自動車局長(物流・自動車担当)鶴田浩久氏
国土交通省 自動車局長(物流・自動車担当)鶴田浩久氏

 「物流の規模は、売上ベースで全産業の2%、従業員者は3%で、規模は大きく労働集約的な産業といえる。輸送量ベースでは自動車が9割以上だが、距離も加味すると自動車は約5割、海運が約4割、鉄道が5%を担う。昨今は小口多頻度化が進み、荷主企業から見た物流コストは5.6%と上昇傾向だ。トラック配送事業の働き方の現状を見ると、他の産業より2割長く働き、年間賃金が1割低く、結果として有効求人倍率は全産業に比べて2倍も高い。担い手が集まる産業にするためには、働き方改革を進める必要がある。その一環として、2024年4月からは時間外労働上限規制の適用が始まる。また、B2CではEC拡大が加速するなか、再配達率が11%強の横ばいという問題もある。さらに、2030年には運輸業全体で温室効果ガス35%削減という中長期的な対応も迫られており、年間約11億トンのCO2排出量のうち約2割を運輸部門が占めている」(鶴田氏)

 このようななか、政府としては5年ごとに「物流政策大綱」を閣議決定し、「物流DXや標準化」「労働力不足対策」「強靭で持続可能なネットワーク」という3つの取り組みを進めてきた。2022年秋からは、国交省、経産省、農水省が共同で「持続可能な物流の実現に向けた検討会」を開催。2023年6月には、「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定したところだ。「荷主企業、物流業者(運送・倉庫等)、一般消費者の協力が不可欠である」ことが明言されている。

 
 

 「何もしなければ、2024年には輸送力が14%不足し、さらに放置すれば、2030年には34%不足する。これを回避するには、荷主、物流事業者、一般消費者の協力を促すよう枠組みの整備が必要で、次期通常国会での法案提出を目指す。その柱は3つ。1つめは、荷待ち時間をいかに減らせるかなど、商慣行の見直し。2つめは、物流の効率化。少ない人手で物を運ぶために全体を最適化するなかで、ドローンも期待されている。3つめは、荷主や消費者の行動変容。経営判断の中で物流を捉える仕組みづくりや、消費者が再配達を減らす意識を高めることも非常に重要だ」(鶴田氏)

 
 
 
 
 
 

ドローンと陸送をつなぐ配送システムもお披露目

 本シンポジウムが興味深いのは、こうした物流問題の概観を整理したうえで、新たな物流手段のひとつである「ドローン活用」の現況を俯瞰して把握できたことだ。

 鶴田氏は、物流効率化の一翼を担うドローンについて、政府の最新動向を整理した。ドローンは大別すると、買物難民が急増する「過疎地や離島での物流」、在宅医療が拡大するなかでの「医薬品物流」、ドライバー不足が深刻化する「農作物物流」での活用が期待されているという。政府としては、ユースケースごとの課題と、共通課題を切り分けて整理し、社会実装を進めるためには環境省連携事業なども含めて全国各地での実証実験の支援を行いながら、ガイドラインの策定を進めていく方針だ。

 
 

 新スマート物流「SkyHub」の実施主体の1つであるNEXT DELIVERY 代表取締役の田路圭輔氏は、さまざまな自治体の導入事例を紹介した。

NEXT DELIVERY 代表取締役の田路圭輔氏
NEXT DELIVERY 代表取締役の田路圭輔氏

 トラックとドローンのリレー配送や、配送ではなく集荷にドローンを使うという新たなニーズの掘り起こし、地域内での法人買い物代行という新たな市場の立ち上げ、商店街全体のDXなど、開始以前には想定していなかった取り組みが、各地で始まったという。さらに、被災した孤立集落へのドローン配送や、大手物流会社5社が連携した共同配送、新幹線とドローンのリレー配送、集荷に路線バスを使った貨客混載など、地域インフラの存続に向けた取組についても紹介した。そうしたサービスの担い手となる「未来のドライバー」として、地域での雇用創出を促進しているという。

 
 

 また、新スマート物流において、ドローンは手段のひとつにすぎない。陸送と空送という複数の配送手段と荷物の紐付け、配送ルート設定や、配送状況の確認などを、一元管理できるシステムが必要不可欠だ。

 このためNEXT DELIVERYは、新スマート物流に対応した配送管理システムとなるSkyHub TMSを開発、提供してきたが、これまではドローンによる配送状況については未対応の部分が残っていたという。本シンポジウムでは、KDDIスマートドローン 代表取締役社長の博野雅文氏も応援に駆けつけ、「KDDIスマートドローンの運航管理システム」とSkyHub TMSがデータ連携したことで、陸送と空送を統合した新たな配送管理基盤を構築できたことを報告した。

KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏
KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏
 
 

 さらには、セイノーホールディングス執行役員の河合秀治氏がモデレーター役となり、「物流2024年問題に挑む~持続可能な地域物流の実現に向けて」と題したパネルディスカッションも行われた。

 前出の鶴田氏と、佐川急便 東京本社 事業開発部 事業開発担当部長の佐藤諒平氏、サンワNETS 運輸事業本部統括 関連本部統括 専務取締役で全日本トラック協会青年部副部会長の山崎康二氏が登壇。それぞれの立場から、「共同配送や貨客混載を進めるために必要なこと」などをテーマに現場の臨場感ある議論を深め、物流DXの前に立ちはだかる「商慣行の見直し」といった根本的な課題の解決に向けて、各社がすでに歩み寄り始めていることを印象付けた。

 
 

河野大臣、「デジタル化でぬくもりのある社会を」

 デジタル大臣の河野氏は、「デジタルの力で実現する地方発の豊かな社会づくり」と題して特別講演を行った。

 「物流の2024年問題に際して、ドローンや自動運転など技術を活用した物流が、これからとても大切になってくる。人口減少や高齢化が進む日本社会において、人が人に寄り添う、温かい社会を作るためには、人間は人間がやらなくてはいけないことに集中していかないといけない。そのゴールに向かって、そのための1つの手段がデジタル化であるという、共通認識を持って進めていきたいと考えている」(河野氏)

 河野氏は、このように話したうえで、新潟県阿賀町で薬局がない町内住民宛てのドローンによる処方薬配送や、茨城県境町でラーメン乗せたフードデリバリドローンが道路を横断する様子などを視察したことを明かしつつ、ドローンの規制改革についても言及した。

 「一度、ドローンの規制改革を実施したが、最近また元に戻っているようだ。国交省に聞くと、レベル4飛行に移行してもらえば道路の上空も飛べるようになるというが、レベル4への移行は大変なことだし、レベル4対応機体もまだほぼないため、結局はまだレベル3飛行。現場で話を聞くと、レベル3でやらざるを得ないからやっているが、規制への対応が大変だという。担当部局も、もっと現場を見に行くとよい。国交省とも、再度規制改革が必要だという話をしている」(河野大臣)

 また、自動車の普及期もやはり事故はゼロではなかったと言及したうえで、「どこまでのリスクを許容するのか、得られるベネフィットとリスクを勘案しながら、ここまでは踏み込むという一線を判断しながら進める必要があると思っている。いかにリスクを小さくして、いかにベネフィットを最大化するか、そして世の中を便利に豊かにしていくか、という努力を止めてはいけない」と話して、新スマート物流のさらなる拡大に向けてエールを送った。なお本シンポジウムは、アーカイブ動画の視聴も可能だ。

【第2回】新スマート物流シンポジウム 物流2024年問題に挑む~加速する新スマート物流の取組みと今後の可能性~


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