「デジタル田園都市国家構想を実現する 新スマート物流シンポジウム」が、3月22日にオンラインで開催された。北海道上士幌町、山梨県小菅村、福井県敦賀市、北海道東川町、茨城県境町の5自治体が広域連携協定を締結し発足した、「新スマート物流推進協議会準備事務局」が主催した。
この5自治体のうち、上士幌町、小菅村、敦賀市は、セイノーHDとエアロネクストが共同開発した、ドローン配送を含む新スマート物流「SkyHub(スカイハブ)」の導入実証を、全国でも先行して進めている自治体だ。今後は、SkyHubの実証で得た知見や情報を広く発信して、新スマート物流の推進および地域課題の解決を図るという。
シンポジウムには、若宮健嗣デジタル田園都市国家構想担当大臣から応援メッセージ動画が寄せられるなど、政府からの期待も窺えた。また、国産ドローンメーカーACSLも参加して、物流専用ドローン「AirTruck」を初公開した。
当日は、全国の自治体から約300人が視聴。アーカイブ動画の視聴回数は開催後10日間で940回以上に達している。官民一体の“新スマート物流”は、全国展開の幕を開けたようだ。
冒頭、主催者代表として登壇したのは、北海道上士幌町町長の竹中貢氏だ。「全国どこでも安心して暮らせる日本を実現するためには、地域の物流の課題があまりにも大きい。今日は、解決の糸口があるということを共有したい」と挨拶した。
竹中氏は、農村や、漁村、離島をはじめ、過疎地域における少子高齢化は、自治体消滅の危機に直面するほど深刻だと指摘。そして、政府が掲げる「デジタル田園都市国家構想」を実現するためには、都市と地方の均衡のとれた発展が重要だとしたうえで、「まずは、地域の物流課題を解決するところから始めていこう」と訴えた。
続けて竹中氏は、全国規模での「新スマート物流推進協議会」を発足することを宣言。「重要なのは、今日登壇する5つの自治体だけで閉じるのではなく、より多くの自治体と情報を共有してより良い解決策を見出し、共に豊かになることだ」と強調し、広く参加を呼びかけた。
5つの自治体は同日、「新スマート物流推進に向けた自治体広域連携協定」の締結も発表。目的は、地域物流の課題解決に協働して取り組むことだ。いずれも、地方創生のさまざまな取り組みを進めている自治体で、今後は自治体間での情報共有をさらに活発化させるという。
上士幌町は、再エネ資源活用やドローン配送をはじめ、脱炭素やデジタル化を推進している。経済の好循環と地域の活性化を図る多角的な取り組みの結果、人口は増加に転じ、2020年の「ジャパンSDGsアワード」で内閣官房長官賞を受賞するなど、地方創生の先駆的な自治体だ。
小菅村は、新スマート物流となるSkyHubを日本で初めて、2021年4月から村内に実装している。境町は、自動運転バスを全国で唯一常時運行する自治体で、ドローン配送の導入実証にも意欲的だ。東川町は、文化を中心とした街づくりを進めており、上士幌町と山を挟んで近しい立地も活かして新スマート物流導入を狙う。敦賀市もすでにSkyHubの導入実証に着手しており、地域の若返りも視野に入れて取り組んでいる。
当日は、新スマート物流とは何かを分かりやすく伝えるため、先進事例の紹介も行われた。事例を紹介したのは、物流大手のセイノーHD執行役員の河合秀治氏と、物流スタートアップのNEXT DELIVERY代表取締役の田路圭輔氏。両社が運営する新スマート物流「SkyHub」が生まれた背景や、サービス内容などを説明した。
両氏は、SkyHubが求められる背景を、2つの視点から整理して説明した。1つは、「過疎地域における課題」だ。具体的には、「買い物難民」「医療難民」「物流難民」「自然災害」の4つ。いずれも非常に深刻な状況で、迅速に解決していかなければ、地域コミュニティが存続できないという。
もう1つは、「物流業界における課題」。いわゆる“物流クライシス”だ。EC化率は年々上昇し、荷物の小口化が進む一方で、トラック輸送のリソースは減少している。さらには、トラックドライバーに対する労働時間の上限規制への対策も待ったなしの状況だという。
このようななかSkyHubは、既存の物流システムにドローン配送という新たな配送手段を組み込むことで、物流の仕組みを再定義していこうというもの。物流会社同士の共同配送や、地元のバス会社などと連携した貨客混載など、さまざまな輸送方法を組み込みつつ、また買い物代行や地域の見守りなど、新たなサービスも提供しつつ、各地域が抱える多様な社会課題に寄り添う最適解を、地域と共創することを目指すという。2021年4月から山梨県小菅村が実装し、サービスの検証や改良が進められている。
セイノーHDの河合氏は、新スマート物流を社会実装するためには、4つのポイントがあると話したうえで、SkyHubサービスの導入ステップを紹介して講演を締めくくった。
「1つめは、地域に住む方々が受け入れられるよう、しっかりと説明していくこと。2つめは、地域資産の棚卸しをして、既存の地域アセットをどう組み合わせて有効活用していくかを検討すること。3つめは、フィジカルインターネットという観点。4つめは、ラストワンマイルの課題を自動化省人化で解決に導くため、物流専用のドローンを活用することだ」(河合氏)
シンポジウムでは、国産ドローンメーカーACSLと、ドローンスタートアップのエアロネクストが共同開発した、物流専用ドローンのAirTruckも初お披露目された。同機種は、小菅村や上士幌町などで、計466回の実証実験と、計1730kmの距離を飛行した実績をもとに量産フェーズに入っており、すでに受注を開始している。
ACSL代表取締役社長の鷲谷聡之氏は、AirTruckの4つの特徴を説明した。1つめは、エアロネクストが独自開発した機体構造設計技術「4D GRAVITY」を搭載したこと。2つめは、前方という一方向へ高速で移動するという、従来の空撮機とは異なる物流ならではのニーズに応えるため、空気抵抗などの最適化を図ったこと。3つめは、運搬性の向上。4つめは、物流スタッフの目線に立って考案した、荷物を搭載するときの利便性だ。
また、エアロネクスト代表取締役CEOの田路圭輔氏は、独自開発技術「4D GRAVITY」の特許について、373件出願、140件登録済みだと話し、4D GRAVITYを搭載するメリットをこのように話した。
「ドローンは前方に高速で移動するために、機体を傾けて飛行するが、4D GRAVITYを搭載することで、荷物を水平のまま傾けることなく運べる。また、荷物を上から入れて、着陸時には自動で下に降ろすという構造も実現できた。今後はこれを業界のスタンダードにしていきたい」(田路氏)
当日は、デジタル田園都市国家構想担当大臣の若宮健嗣氏から、応援メッセージ動画が寄せられた。若宮氏は、「政府としても、デジタル田園都市国家構想を体現するこうした取り組みが、全国に広がるよう支援していきたい」とコメントした。
また、参議院議員でドローン推進議員連盟幹事長の鶴保庸介氏、内閣官房小型無人機等対策推進室審議官の新川達也氏が参加するなど、行政からの期待の高さもうかがえた。鶴保氏は、「デジタル田園都市国家構想という大きな流れがあるなかで、地域の方々がドローンを利活用できるビジネスモデルを、地元で作っていくことが大事だ」と話した。
新川氏も、ライセンス制度、機体登録、リモートID義務化、運航管理システムなど、ドローンを利活用するためのさまざまな環境整備が進みつつある現状を説明して、新スマート物流への期待を滲ませた。
また、国土交通省大臣官房公共交通・物流政策審議官の寺田吉道氏を招いて、「ヒトの流れ、モノの流れが地域社会を豊かにする -テクノロジーとグリーンで生み出す地域物流の未来」と題したテーマ討論も行われた。モデレーターは、セイノーHD河合氏がつとめた。
河合氏が、「SkyHubについて説明したが、率直な感想を」と投げかけると、寺田氏は、「大変先進的な取り組みで期待している」と応じた。
また、「地域に根ざした物流とドローン」というテーマについて、「物流においては、共同配送や貨客混載など、協力するべきところは、関係者の皆さんで連携してやっていただくことが大事だ。あまり荷物を積まないでCO2を排出して走るといった非効率も、これからの社会では許されない。環境にも配慮した物流を考えていくことが必要だ。ドローンについては、地域のプレイヤーの方が担い手になるというのは素晴らしいと思う。先ほど流された映像で、ドローン配送で運ぶ荷物に手書きメッセージを添えている女性スタッフがおられたが、新しいサービスを定着させるには、受け取る方の立場に立って考えていく、信頼を得ていく、気持ちを伝える、という取り組みが大事なのだと思った」(寺田氏)と答えた。
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