VRIコラム

AI時代に取って代わられないエンタメ制作とは?

上床 光信(角川アスキー総合研究所)2023年08月04日 08時00分

ChatGPTの登場で活気付くAI界隈

 2022年の冬以降、AI関連のニュースが届かない日はありません。

 OpenAIが2022年11月30日にリリースした「ChatGPT」は、幅広く誰もが気軽に使えることも相まって、その衝撃は凄まじく、さまざまな業界でその使用レビューや活用方法、ビジネス考察、AIの未来からその是非までが語られている状況です。

ChatGPTは無料でも利用できる。「TryChatGPT」をクリックしてログインする
ChatGPTは無料でも利用できる。「ChatGPT」をクリックしてログインする

 話題の中心になっているのは、前述のChatGPTをはじめとした“生成系AI”と呼ばれているものです。

 この“生成系AI”も現在では、さまざまな会社が多種多様なツールを日々リリースしており、ChatGPTのようなチャットによる自然言語生成系以外にも、画像生成、デザイン生成、動画・音楽生成、などなど。より特化したさまざまな用途別のカスタマイズツールが日々リリース、アップデートされている状況です。

 ここではその詳細を語るのではなく、ゲーム業界をはじめとした“エンタメ業界におけるAIの影響と未来”を考察していくことにします。

推論できるAIの現実化とその普及が見えてきた

 まず、現在AIがこのように話題になっているのはどういう理由なのでしょうか? それは一言で言うと「推論できるAIの実現が本格化してきた」ことだと考えています。

 そして現在の状況とは、推論して生成するAIがさまざまなアウトプットを出し、その成果に人々が「もしかして、AIって凄いんじゃないか?」と思い始めたことなんだと思います。

 推論できるAIって言っても所詮この程度だよねというイメージでいたものが、予想を超えていた。今回は、AI進化の加速の角度が今までとは違うということを皆が理解したということが大きいのです。

AIは小学生--しかしそう遠くはない未来大人になる

 ChatGPTがリリースされた22年の冬には、ChatGPTは凄いけど、よく「間違える」とか「嘘をつく」ことがあると話題になっていました。GPT4がリリースされた時も「間違えなくなった」とか「やっぱり間違える」ということが多く語られていたように思います。

 しかし、現在、このAIの「嘘」は、プロンプトと呼ばれる命令文の出し方による試行錯誤と、ファインチューニングによるフィードバックで改善していくことがわかってきています。つまり、現在のAIは、小学生のようなものだと考えることができます。今まで「AIは間違えない」という認識が強かったわけですが、推論するAIにおいては「AIは成長する」ということが改めて明示されたと言えます。

 学習し推論するAIは、正しく教師が導いていかなくてはなりません。教師によりAIはどんどん成長していきます。その修正・改善の脅威的なスピードこそが、今のAIの恐ろしさでもあります。

AIは知能を持つのか? シンギュラリティー突破は?

 このように進化のスピードが速いAIですが、ここで話題になるのがシンギュラリティー(技術的特異点)です。つまり「AIはいずれ人間を超えるのか?」という問いです。

 この問題の専門的な解釈は専門家にお任せしますが、“エンタメ業界におけるAIの影響”という観点で見ていくと、ここが一つの重要なポイントです。

 シンギュラリティーに到達せずとも、限りなくその地点に近づくことは予想されるAI。それが遠い未来ではなく、ここ10年くらいの未来で予測され始めているという現実。

 よく、「AIに奪われる仕事、AIでは替えの効かない仕事」というテーマが話題となっています。実際に現在のAIは指示待ち(プロンプト待ち)仕事はなんでもこなせそうです。 さらには、自己改善をするAIも出てきて、プログラム言語も操れるのが現状です。

 指示待ち仕事のその精度は、この10年で飛躍的に伸びるでしょう。実際ここまでのAIの進化を見ると、ホワイトカラーの仕事は10年以内でAIにとって代わられものがほとんどではないかと思われます。ゲーム業界では、すでにだいぶ前から制作の現場でAIによるサブキャラクターの制作、動作付け、シナリオ、台詞の生成や等を行い、制作の効率化を図ってきました。ハリウッドや音楽業界でもAIをサブ的に利用していると聞いています。

 10年というタームで見るなら、ゲームの制作の現場もアイデアと方向性が定まった後の作業においては、出来不出来を別とすればAIが制作できるものは多いと思われます。キャラ制作、着色、3Dの動作付け、音楽、プログラミング――理論上はかなり多くの要素をAIが作業可能です。

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 ゲームに限らず。エンタメIPやコンテンツ制作全般は、AIに支配される事態になるのでしょうか?

 私の本音としての結論は、何も対策を行わなければ、全てにおいてAIの勝利だと思っています。まだ大丈夫ですが、早ければ10~20年でAIの方が人間の心に訴えかける良いものを創れる、とさえ思っています。

 もちろん、シンギュラリティーは突破して欲しくないですし、AIをコントロール下に置くことができるさまざまな制御は是非頑張って実現して欲しいと思っています。しかし、「AIに出来ない、人間にしかできない事がある」というのはとてもAIを甘く見ている気がするのです。私たちは、ジェームズ・キャメロンの言うように、ターミネーターの未来を警戒しないといけません。

AIに勝つための武器は、“人間的背景や物語”

 でも、10年経っても20年経ってもAIが獲得できないものはきっとあるはずだ――現在、辿り着いた答え。それはつまり、「人間の営みや歴史」ではないかと考えています。

 これは仮説でしかないのですが、実は芸術やエンタメというのは作品そのものの出来不出来以上に、制作者の背景、生き様や考え方が重要な気がしています。「AIにとって代われないモノ」とは、実はそこなのではないでしょうか? 私たちエンタメを供給する側は、いい作品を作ることはもちろんですが、供給する側の人間やチーム企業に“背景や物語”が必要なのです。

 良いモノはAIが造ろうが人間が造ろうが、イイモノはイイのですが、AI時代ではより一層、そこ(制作者や作品の背景や物語)が求められるような気がしています。背景や物語(生き様、考え方、チームの歴史)につながるブランディングが、AIと拮抗していく武器であるような気がしています。

 もちろん、異論は認めます。しかし、これを機に皆さんと共にAI時代のエンタメについて今から考えていければと思っています。今一度エンタメの本質を問う、今はその必要があるかもしれません。

◇ライタープロフィール
上床 光信(うわとこ みつのぶ)
株式会社角川アスキー総合研究所 「ファミ通ゲーム白書」編集長

2000年、エンターブレイン社に入社。ゲームを中心としたエンタメマーケティングに従事し、『ファミ通ゲーム白書』では創刊から編集長を務めている。日本eスポーツ連合/JeSUが発行する『日本eスポーツ白書』の編集長。総務省『eスポーツ産業における調査研究』やNewzoo社の『GlobalMarketReport』の日本語翻訳版なども手掛けている。
2020年よりKADOKAWAグループである角川アスキー総合研究所に所属、ゲーム業界だけでなく隣接するエンタメ業界にもフォーカスしたマーケットアナリストして活躍

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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