サムスン「Galaxy Z Flip5」、Z世代への売り込みは成功するか

　シェール・ホロウィッツ、セリーナ・ヴァンダーウッドセン、リジー・マグワイアなど、人気ドラマの登場人物たちはみな持っていた。そして2023年の今は、人気俳優のSydney Sweeneyさんが使っている。何かといえば、1990年代から2000年代初頭にかけ、世界中の10代女性にとって必携のハイテクアイテムだったフリップフォン（折りたたみ式携帯電話）のことだ。

提供：CNET/Screenshot

　筆者自身もその1人だった。大学生になった当時、筆者が愛用していたのは「Motorola RAZR」だ。時代のアイコンだったRAZRは、同じく当時のアイコンだったParis Hiltonさんが広告塔を務めたことで知られる。

　Motorolaが2001年にHiltonさんを起用したように、サムスンは現代のティーンエイジャーにも折りたたみ式の端末が必要だと思わせるため、Sweeneyさんの力を借りようとしている。Sweeneyさんは、Z世代に人気のHBOのドラマシリーズ「ユーフォリア／EUPHORIA」で主要キャストを務め、「ホワイト・ロータス／諸事情だらけのリゾートホテル」にも出演している。サムスンが売り込みたい製品は「Galaxy Z Flip5」だ。同製品は7月26日に韓国ソウルで開催されたイベント「Galaxy Unpacked」において、より大型の折りたたみ式端末「Galaxy Z Fold5」や、「Galaxy Tab S9」「Galaxy Watch6」とともに発表された。

　Sweeneyさんは、同イベントに動画で登場するだけでなく、ポニーテールで後ろに流した髪型にグレーのショートドレス姿で会場に現れ、ライブデモに参加してK-POPアイドルのチャン・ウォニョンさんと一緒にセルフィーを撮るなどした。それは夢の異文化コラボレーションであり、サムスンが世界中の10代女性にアピールしたいのなら賢明な戦略といえる。実際、同社はそれを狙っているようだ。

Sweeneyさんとチャン・ウォニョンさん
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　Z Flip5の広告動画の中でSweeneyさんは、同製品を「ゲームチェンジャー」だと評し、動画撮影をする際に自分のスタイルに合わせてパーソナライズできる点が気に入っていると語っている。レトロなパステル調のグラフィックを使ったこの広告は、若い女性にアピールするよう作られている。しかし、Z Flip5が次の選択肢となるよう若年層を説得したいなら、サムスンにはまだ越えなければならない関門がある。

　折りたたみ式の難点は、スマートフォンの台頭で10代女性に（そして他のユーザー層にも）敬遠されるデザインとなっていることだ。過去15年間、そしておそらく今もなお、ありふれた薄い板状の端末が人気を集めている。ここ数年、Android端末メーカーは新世代の「razr」や「Google Pixel Fold」など、開くとディスプレイを拡張できる独自の折りたたみ式端末を開発している。それでもIDCによると、2022年の携帯端末出荷台数のうち折りたたみ式はわずか1.2％で、サムスンがこのカテゴリーで圧倒的な存在感を示している。

　こうした折りたたみ式スマホの大半は、標準的なスマートフォンとほぼ同じ大きさで、端末を開くと画面サイズが2倍になる。だが、Z Flip5は大きさが標準的なスマートフォンの半分ほどしかなく、端末を開くことでほとんどの標準的なスマートフォンと同じ大きさになる。そのため、持ち歩くデバイスは小さい方がいいと考えている人にとっては理想的だ。10代の女性もそうかもしれない。

　Financial Timesが2月に報じたところによれば、Z世代のユーザーは多くが熱心な「iPhone」ユーザーだが、「ビンテージ感のある」クラムシェル型デザインの折りたたみ式スマホには、そうしたZ世代の関心を引き付ける力があるという。また、自分のスマートフォンを手放してまで、「昔ながらの」折りたたみ式携帯電話を選ぶ10代のユーザーがすでにいることをうかがわせる話もあると、CNNなどのメディアが報じている。Z Flip5は、古いテクノロジー製品が持つノスタルジックなルック＆フィールと、最新の製品が持つ最先端の機能という、両方の長所を併せ持った製品なのだ。

　また、サムスンがZ Flip5のマーケティングや広告キャンペーンでもっぱら女性や女性のインフルエンサーを起用していることは注目に値すると、市場分析会社CCS Insightでチーフアナリストを務めるBen Wood氏は指摘する（サムスンの他の製品では、男性K-POPバンドのBTSのメンバーが起用されるケースが多い）。CCSの調査によれば、Androidスマートフォンのユーザーは昔からやや男性に偏っており、メーカーは多くの女性ユーザーを引き付けるのに苦労しているという。だが、Z Flip5はこの点でiPhoneにある程度対抗できる可能性があり、Sweeneyさんの起用は「この製品への関心を高めるのに役立つ」はずだと、Wood氏は言う。

　「iPhoneに代わるコンパクトで魅力的なデザインのデバイスがあれば、女性の顧客に対する訴求力が強まるかもしれない。実際、Z Flip5のフォームファクターが女性の共感を得ていることを示す話もある」（Wood氏）

　若者の心をつかもうとするZ Flip5にとって障害となる可能性があるのは、その価格だ。折りたたみ式スマホが大きな支持を得られずにいる理由の1つに、1000ドル（約14万2000円）を超える価格設定がある。米国の場合、Z Flip5は999.99ドルと1000ドルをわずかに下回っているため、ほとんどの競合製品と比べて値頃感がある。

　また、今年のZ Flip5に加えられた改良によってコストパフォーマンスが向上していることが、サムスンにとって有利に働く可能性もあると、調査会社のGlobalDataでシニアアナリストを務めるAnisha Bhatia氏は述べている。「Z Flip5は前モデルと同じ価格でありながら、ストレージサイズは2倍の256GBになっている」