はじめまして、リンカーズの浅野と申します。弊社は日本最大級のオープンイノベーションプラットフォームを運営しており、私の所属するオープンイノベーション研究所は、その研究開発/新規事業開発部門として、グローバル技術動向の調査や、企業/大学のマッチング支援、オープンイノベーション創出のための研究開発を推進しています。
ここでは、宇宙テックの先端開発事例について、その技術的な原理や特徴を簡潔に解説していきたいと思います。宇宙テックについて興味を持つきっかけや事業アイデアのタネとなれば幸いです。
宇宙開発といえば、かつては国家や政府の手によって主導されていましたが、近年その情勢は大きく変わり、民間企業が宇宙開発を進める機会が増えています。たとえば、民間資金を活用した衛星開発や、中小企業やベンチャー企業による小型/低コストなロケット開発、宇宙ロボットや宇宙飛行のための機器やサービスなど、宇宙テックのエコノミクスは以前になく拡がり、新たなビジネスが生まれています。
2022年はロケット打ち上げ成功数が前年より41回多い186回に増加するなど、宇宙産業の飛躍的な成長が見られた年といえます。テクノロジーの進歩、民間部門の投資の増加、そして宇宙データへの需要の高まりが、この分野の成長を牽引しています。私たちの会社は、モノづくり企業全般に対して技術マッチングや技術調査を提供していますが、最近では宇宙テックや宇宙ビジネスに関する問い合わせが増えていると感じています。
こうした興味・問い合わせは大きく2つの観点に集約されます。1つ目は「衛星データや宇宙ロケットを活用した新規ビジネスにはどのようなものがあるか?」といったビジネス観点です。衛星データの活用方法として天気予報や土地の利活用状況の可視化、災害時やへき地での通信などがイメージされますが、近年では、NFTやメタバース、カーボンニュートラルなどの新しい技術と衛星データを組み合わせたビジネスが数多く提案されています。また、宇宙空間や無重力を利用したエンターテインメントや材料合成などの研究も進められています。
2つ目は、「宇宙向けに開発されている先端材料や部品にはどのようなものがあるか」といった要素技術に関するものです。過酷な宇宙環境に耐えうる先端素材や電子部品は、スポーツや医療、自動車などの多くの分野で応用が期待されています。
これからモノづくり企業と宇宙テック/宇宙ビジネスのつながりや活用事例を、4つの技術領域ごとに解説していきます。第1回では「ベンチャー企業による新しい衛星活用ビジネス」について解説します。これからどんな未来が開けるのか、共に探求していきましょう。
本章では、現代の衛星技術がどのようなデータを得ることができ、それらがどのように活用されているのかを具体的に探ります。
光学センサーは、太陽光を反射した対象物の可視光画像から地表面の情報を得ることができます。光学センサーが捉えるデータは色彩豊かで見た目に理解しやすく、物体が波長ごとに反射する光の強さの特徴から物質を識別することも可能です。植物、水、砂などはそれぞれ異なる反射の強さを持ち、さらには植物の種類まで見分けることができます。たとえば、近赤外線(NIR)は植物の活性度を表しており、農業分野で広く役立てられています。
また、光学センサーに搭載された分光器は、地表で反射された太陽光を測定し、特定の物質、たとえばCO2などの成分を測定することも可能です。光学画像データは、地図の作成、土地の利活用状況の把握、農地の管理、植物の生育状況の可視化、商業施設の混雑度の可視化など多岐にわたり利用されています。
合成開口レーダー(SAR)は、マイクロ波を発射し、地表で反射したマイクロ波を捉えるセンサーで地表の観測が可能です。ざらついた表面は電波を多く反射し白く、滑らかな表面は電波が跳ね返らず黒く見えます。自発的に電波を発し反射を観測するため、雲や太陽光の影響を受けず、昼夜問わず一貫した撮影条件が保たれます。
観測周波数や偏波を活用することで、木の葉や枝を通過して地面の様子を観察したり、物体の特性による反射の違いから物体を識別することもできます。たとえば、水田やビニールハウス、ハスの畑は異なる偏波特性を持つため、見え方が異なります。SARセンサーは、雲の有無や昼夜を問わず監視が必要なインフラや海洋の監視、地盤の沈下や隆起の検出などに用いられています。
地表面の物体自身が発する赤外線を観測することで、表面温度を知ることができます。地表面の温度データを収集することで、灌漑の最適化や干ばつ予測、収量予測などの課題解決に役立ちます。また、他の波長のスペクトルと併せて物質の判定や植物の生育状況の判定にも活用されます。
マイクロ波センサーではマイクロ波を受動的に観測することで、気温分布や大気中の気体の吸収特性、水および氷粒子の吸収・散乱特性などを観測することが可能です。また、大気中の雨や雲などの降水粒子に反射する波長のマイクロ波を用いることで、大気中の雨や雲の様子も計測できます。
LiDARはSARと同じような原理ですが、マイクロ波ではなく可視光(レーザー光)を主に使用します。レーザーの反射により、大気中の粒子の濃度を測定したり、ドップラー効果を利用することで大気中の粒子の動き、すなわち風速を知ることもできます。LiDARは鉛直方向の情報も含めた雲やエアロゾルの構造解析や、地表の構造物の3次元データ取得、気流の分析などに主に用いられます。
海上を航行する一定の基準を満たす船は、衝突防止などの観点から、常に決められた電波を発信し、周囲に自身の位置情報や速度情報を知らせることが義務付けられています(Automatic Identification System:AIS)。同様に、航空機も自分の位置や速度、飛行高度などを常に周囲に発信しています(Automatic Dependent Surveillance–Broadcast:ADS-B)。これらのデータは公開されており、その情報を元に船舶や航空機の動きをリアルタイムで把握することができます。
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