ここ数カ月、全世界が注目している「ChatGPT」や「Bing AI Chat」。これらAIチャットを活用して宇宙ビジネスの創出につなげる──。そんなコンセプトのワークショップが、4月27日にUchuBizとCNET Japanのスポンサードで開催された。
「未来をつかむ!『ChatGPT』と『Bing AI Chat』で繰り広げる宇宙ビジネス創造ワークショップ」と題した同イベントには、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」のプロデューサーを務める藤平耕一氏、宇宙エバンジェリストの青木英剛氏、Microsoftの宇宙クラウド「Azure Space」の日本の責任者である世古龍郎氏ら、アニメ「宇宙なんちゃらこてつくん」に携わるタカラトミーアーツの宮下哲平氏らが登壇した。
宇宙ビジネスの最新トレンドや課題を語るとともに、AIチャットを使いこなすための最新プロンプトも披露された。また、宇宙ビジネスのアイデアを考えるワークショップでは、AIチャットの助けを借りることで、多くの一般参加者からこれまでにない発想が続々と誕生した。
イベントの前半は、宇宙業界の先端を走る専門家らによるトークセッション。宇宙ビジネスのアイデアを考えるワークショップの前に、宇宙領域の現状のトレンドや課題について把握しておこう、という目的だ。
まず「宇宙ビジネスで注目すべき領域」として青木氏が挙げたのは「ものづくり」分野だ。今後、宇宙空間で何らかのサービスを提供する「インスペースサービス」が伸びてくるとし、地上のインフラと同様、宇宙においても宇宙船や宇宙ステーションの往来をスムーズにする信号機、燃料補給、設備改修などが必要になることから、すでにそのためのベンチャーが生まれ始めているとのこと。これは自動車やロボットをはじめ、ものづくりに強みをもつ日本企業が活躍できる分野でもあると話す。
もう1つは「持続可能な開発目標(SDGs)」にも関係する社会課題解決型のビジネスだ。衛星の観測データを活用することで、今や気象状況だけでなく、病原菌の発生状況などもモニターでき、衛星通信を利用することで教育格差の解消につなげることも可能だ。青木氏いわく「SDGsの課題の多くは宇宙技術で解決できる」ことから、そうした社会課題解決型のビジネスにも注目しているとした。
「われわれにとって身近な衣食住に関わる分野も宇宙ビジネスになる」としたのが、JAXAの藤平氏とタカラトミーアーツの宮下氏。今後多くの人が宇宙に向かうと、現在地上で必要とされているものが宇宙でも同じように必要になる。そのため、微小重力の宇宙空間で利用可能な、普段われわれが使っているものと同等機能の生活用品などもビジネスになる可能性が大いにある、と藤平氏。宮下氏は、衣食住に関わる既存の企業が宇宙ビジネスに力を入れることに期待し、「それをアニメキャラクターなどを通じて広く伝えていきたい」とも語っていた。
「宇宙ビジネスにおける現状の課題」に関しては、Microsoftの世古氏、さらには青木氏が、ともに「人材不足」を挙げた。世古氏は、宇宙に注目しているIT人材が特に少なく、Microsoft自身としても宇宙のことを知る人材、「宇宙×ITエンジニア」をもっと増やしていかなければならない、という課題感を持っていると話す。
また青木氏は、宇宙での生活に密着したプロダクトがこれからさらに増えることになれば、「(まだ宇宙に関わっていない人も)どんどん宇宙に絡んでいただく必要があると思う」とコメント。世界ではすでに宇宙領域に特化した人材が、人事、ファイナンス、広報といった職種で誕生しているとも話す。宇宙業界を盛り上げるためにも、まずは社内で宇宙ビジネスに関する新規プロジェクトを立ち上げるなど、日本の企業が少しずつ宇宙分野に手を広げていくことを期待していた。
なお、今回のワークショップは、MicrosoftやIoTビジネス共創ラボなどが設立した「IDEACTIVE JAPAN PROJECT」が主催。IoTビジネス共創ラボの西脇氏は、同プロジェクトで実施中の「ひらめきアイデアコンテスト」について、宇宙分野のアイデアも募集していること、賞金額が1000万円であることなど、具体的な活動の中身をアピールした。
続いて日本マイクロソフトの石坂氏が、宇宙関連のビジネスアイデアを検討するときにAIチャットを利用する際、どのような質問の仕方が有効なのかという、いわゆるプロンプトエンジニアリングのコツを解説した。注目は、同社のBing開発チームが監修したというプロンプトの例だ。
宇宙に限らず、一般的にビジネスアイデアを検討する際には「顧客の課題を深く理解すること」が重要となる。しかし、人間が考えるときにはどうしても自分たちにない視点からの課題を想定できず、その「漏れ」によって正しい解決につながらなくなったり、ビジネスチャンスを逃してしまう。これを防ぐためには世界中の英知の集結でもあるGPT-4に支えられ、最新のインターネット情報も併せて返答してくれるBing チャットを活用し、「漏れている視点」に気付くことが重要だと石坂氏は語る。
そこで同氏が例として挙げたのが、「心が震える体験をお届けする新たな屋外広告のアイデア」という、かつてとある大企業が実際に課題にしたというテーマだ。しかし、ここでAIチャットに対して、いきなり「新たなアイデア」など直接的なヒントを求めても有効な回答は引き出せない。そうではなく、まずは「課題の把握」にフォーカスする形で質問すべきだとした。
たとえば、上記の例では、性別・年代・職業・地域などの想定ユーザーは仮決めするとして、「屋外広告」というサービスについて、「心が震える体験」を提供するにあたり、そこに「どんな課題があるのか」の模索・分析が初めに取りかかるべきこととなる。
プロンプトのテンプレートは「想定ユーザーが対象となるサービス、製品・体験において抱えている困りごと、顕在・潜在的問題を○個教えて」というものになるが、これに当てはめると「東京で屋外広告を見る人たちが抱えている潜在的な問題を10個教えて」というようなプロンプトになる。
また、それとは少し視点を変えたプロンプトとして石坂氏は「想定ユーザーが日常的な対象となるサービス、製品・体験でワクワクしなくなった理由を○個教えて」というものも紹介する。これに当てはめた質問文は「私は20代の女性なのですが、最近屋外広告を見ても心がときめきません。なぜでしょうか」といったものになるわけだ。
こうすることでAIチャットが課題となりそうな事柄を次々に挙げてくれるので、次は「課題の深刻度や頻度」を検証する。これもAIチャットに「この中で一番深刻で頻度が高い問題はどれですか?」といった形で質問すればOK。これで解決すべき重要な課題が明らかになるので、さらに「対象となるユーザーの課題を解決するアイデアを○個教えて」と聞く。今回の例を当てはめると「屋外広告が自分の購買意欲や消費行動に影響を与えていて、自己管理や節約に困難があると感じる人に向けた新しい広告体験のアイデアを10個教えて」のようなプロンプトになるだろう。
次に、そのアイデアを実現するための「最適なソリューション」を考える。たとえば10個挙がったアイデアに対して、「この中でまだ世の中に存在しない広告はどれ」と聞いてもいい。もしくは「屋外広告にセンサーやカメラを取り付けて、ユーザーの動きや表情に反応して変化する広告を作る」というアイデアが挙がったとすれば、次のAIチャットへの質問では「センサーやカメラがついていて、ユーザーの動きや表情に反応して変化する屋外広告はありますか」と聞くのも1つの方法だ。
他にも、ビジネスアイデアを考えていくうえで重要な「(競争)優位性」や「顧客セグメント」も、同じようにAIチャットに聞いていく。「感情認識AIを用いた屋外広告は他の屋外広告と比べてどんな圧倒的優位性がありますか。3点教えて」、もしくは「屋外広告によって購買意欲や消費行動に影響を与えられて困っている人たちはどんな人たちでしょうか」のようなプロンプトが考えられる。
このようにAIチャットを利用してアイデアを形にしていくにあたっては、最初に元々のテーマを分解して課題を抽出し、そこにフォーカスして質問を深掘りし、解決すべき明確な課題を見極めたうえで、ソリューションや優位性、顧客などのビジネスモデル構築に必要な情報を段階的に得ていく、というような手順が一番の近道になるようだ。
石坂氏は最後に、AIが主流になるこれからの時代は、「AIを使いこなすための課題設定力」と「AIが投げかけてくる回答のなかから選んで決定する力」、そしてAIには不可能な「アイデアを実行に移す行動力」の3つが、人がもつべき重要なスキルになると訴えた。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス