VRヘッドセットほどの派手さはなく、待望の「iPhone」のアップデートほどの関心も集めていないが、Appleが先頃開催した「Worldwide Developers Conference」(WWDC)では、ウェルネス市場にさらに深く参入しようとする同社の動きを示す、もう1つの発表があった。「ヘルスケア」アプリが「iPadOS 17」で提供されることだ。
Appleは、「Apple Watch」とiPhone向けに健康トラッキング機能を密かに築き上げてきた。最も新しい動きは、視覚と心の健康を対象とした機能の追加だ。しかし、Apple Watchの製品マーケティングディレクターを務めるDeidre Caldbeck氏にとって、ヘルスケアアプリをより大きな画面で提供することは、健康情報がよりユーザーフレンドリーになることと、健康・フィットネス関連の将来のアプリに関して同社が目指しているものを表している。
「これは、自分の健康とフィットネスのデータを確認するための新しい方法になると考えている」と、Caldbeck氏は米CNETに対して語った。「そしてそれよりも重要なのはおそらく、iPadアプリで健康とフィットネスの体験を構築するための新しい機会を開発者らが得られることだ」(Caldbeck氏)
ヘルスケアアプリは2014年に初めて提供されて以来、iPhoneそのものに加えて、Apple Watchや、Appleの開発者向けフレームワークである「HealthKit」によってiPhoneアプリと同期可能なサードパーティーアプリから収集される情報の宝庫となった。睡眠の質、歩行安定性、心拍数などの指標はすべて、スマートフォン上の小さなハート形アイコンで確認できる。
しかし、同じアプリをより大きな別の端末に移すことにどのような効果があるのだろうかと、首をかしげる読者もいるかもしれない。iPadとより大きな画面に特化したアプリを開発するという、さらなる機会がアプリ開発者に提供されることに加えて、iPadのヘルスケアアプリは、ウェルネスに対する関心が高まっていること、それが私たちの生活と画面上のかなりのスペースを占めること、健康情報を他者と共有したいというユーザーの思いが高まっていることを反映している。
下の画像は、iPad上での健康情報の表示例と、より大きな画面がアプリ開発者に与え得る意味を示している。
iPadの「Split View」を使用すれば、ヘルスケアアプリの健康情報と別のページを行き来できる。Caldbeck氏はこれについて、介護をしている人や、病院の予約をする患者など、ヘルスケアアプリの共有機能を使用するユーザーにとって特に便利かもしれないと述べている。
Appleは、より大きなディスプレイに加えて、キーボードや「Apple Pencil」といったiPadならではのアクセサリーも、HealthKitを利用した新しい健康とフィットネスのアプリの開発方法に関してクリエイティブなアイデアを呼び起こすことになると期待している。「App Store」には既に、HealthKit APIを使用する「数万件もの」アプリが存在すると、Caldbeck氏は述べた。しかし、健康情報に対するこの新しいフォーマットは、既存アプリのiPadへの移植に加えて、より多くの開発者とアプリを呼び寄せる可能性がある。
睡眠トラッキングアプリ「Rise」もiPadに移行するアプリの1つで、同アプリを手がけるRise Scienceは、今回のWWDCに特別ゲストとして招かれた。同社共同設立者で最高経営責任者(CEO)を務めるJeff Kahn氏によると、HealthKitの素晴らしさは、必ずしもスマートウォッチを身に着けたり、追加のデバイスを購入したりしたくない消費者にとって、健康トラッキングをもう少しシームレスにすることだという。消費者はただ、自分が選んだアプリから健康情報を得たいだけなのだ。
「消費者は(追加の)ハードウェアを求めていない。そこで、HealthKitがあることによって、私たちはバックグラウンドであらゆるデータを取り込むことが可能になる」とKahn氏は説明した。同氏はまた、フレームワークをより一元化することが開発者に恩恵をもたらすとし、それこそAppleが当初、異なる機能を寄せ集めた「Android」よりも優れていた点だと述べつつ、Androidも「改善している」と言い添えた。
Kahn氏は、Appleが健康トラッキングを使命としてきたことを考えると、同社が健康関連機能を拡張する次のステップとしてiPadに移行することは「理にかなっている」と述べた。しかし、同氏から見て、そこには2つの拡大しつつある実態も織り込まれている。その実態とは、人々が睡眠と健康を改善するため就寝前にスマートフォンを使う時間を減らそうとしていること、また多くの人は就寝前にスマートフォンの代わりにiPadを使って「Netflix」を観たり、くつろいだりしているかもしれないということだ。
「多くの人が、スマートフォンを寝室に持ち込まない、または持ち込むかもしれないがiPadを枕元のエンターテインメントデバイスとして使っている」(Kahn氏)
iPadはまた、他のウェルネス機能を提供するのに有利な立ち位置にあるかもしれない。Appleは2023年6月、iPhoneとiPadの各OSのアップデート版である「iOS 17」「iPadOS 17」向けのウェルネス機能を発表した。その中には、心の健康や気分の記録、「TrueDepth」カメラを使ってデバイスを遠ざけるよう促す「画面からの距離」機能などが含まれる。
また、睡眠に関する知見を提供する他社との差を縮める一手として、iPadを身近なウェルネスデバイスへと移行させる可能性もある。例えば、OuraはApple Watchよりも詳細な睡眠データを提供している。Appleは、健康情報へのシンプルなアプローチを維持しつつ、サードパーティーとの提携を通じて、より詳細なトラッキング機能を(それを望む人々のために)取り込めるだろう。
Caldbeck氏によると、データ共有の通知に関しては、iPadでもiPhoneと同じように操作できるという。
「iPadのロックを解除し、初めてヘルスケアアプリを開いたときに、自分の健康データをそのデバイスに同期するかどうかを選択するよう促される」と同氏は述べ、医療識別情報以外はすべて暗号化されたままで、ヘルスケアアプリが初めて同期されるとiPhoneでアラートが表示されると補足した。
Appleは引き続き、Apple Watchの新機能によってウェルネスの波に乗り、「健康」という非常に幅広いトピックの中で特定のポイントに絞り込む方針を維持している。ヘルスケアアプリも同様に拡大し続けることが見込まれる。こうした拡大は、iPad向けの新しいフィットネスアプリの開発、より多くのアプリとの統合を通じて睡眠を測定する機能の改善、ヘルスケアアプリでまったく新しい指標を利用可能にする取り組みなどによってもたらされるかもしれない。
「目標は2014年から変わっていない」「それは、ユーザーと自身の健康情報の間にある障壁を取り除くことを可能にする知見をもたらすことだ」(Caldbeck氏)
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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