楠見CEO「30年間成長していないパナソニック」を変える施策とは

 パナソニックホールディングスは6月26日、大阪・城見のホテルニューオータニ大阪で、第116回定時株主総会を開催した。

 会場には730人の株主が参加。オンラインによるライブ中継には778人の株主が参加した。午前10時から開始した株主総会は1時間45分で終了。すべての議案が可決された。

 株主総会では、約18分間に渡るビデオを通じて、2022年度の事業報告を行ったあと、パナソニックホールディングス グループCEOの楠見雄規氏が、今後の取り組みとして、「グループが目指す姿」「グループ共通戦略」「中期経営指標・財務戦略」の3点から、約23分間に渡って説明した。

パナソニックホールディングス グループCEOの楠見雄規氏
パナソニックホールディングス グループCEOの楠見雄規氏

 「グループが目指す姿」では、創業者である松下幸之助氏が打ち出した「物心一如の繁栄」について説明。「パナソニックグループでは、その思いを受け継ぎながら使命達成のために事業の幅を広げてきた。地球環境問題の解決と、一人ひとりの生涯の健康、安全、快適に役立つことを目指す」と述べた。

「物心一如の繁栄」
「物心一如の繁栄」

 「グループ共通戦略」では、長期環境ビジョンである「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げ、2050年までに世界で排出されるCO2の1%にあたる3億トン以上のCO2削減インパクトの実現を目指していることや、2022年度には31拠点でCO2排出ゼロを実現したこと、「CO2排出貢献量」の考え方を広げる活動を行っていることなどに触れ、「環境への取り組みは、お客様との取引条件にもなっており、効率的なCO2排出削減が競争力のひとつの要素になっている。Panasonic GREEN IMPACTの実現が、地球環境問題の解決とグループの成長の両立を果たすと確信している」と述べた。

 また、投資領域のひとつである車載電池では、航続距離の長距離化につながるエネルギー密度において、業界最高水準にあることなどを強調。「マツダとの協業開始についても発表した。車載電池はますます需要拡大が見込まれ、生産能力拡大に向けた準備も整った。いまこそ、本格的な成長局面に移行するタイミングであると判断している」と語った。

 さらに、同じく投資領域である空質空調では、脱ガス化が進む欧州においてヒートポンプ式温水給湯暖房機を拡大。テレビ生産を行ってきたチェコ工場を、ヒートポンプ式温水給湯暖房機の生産拠点に転換するとともに新棟も増設。全世界100万台の生産体制を確立するとした。また、サプライチェーンでは、BlueYonderの研究開発強化による商品力向上、顧客接点の強化などを進める考えを示した。

重点投資領域:車載電池
重点投資領域:車載電池
投資領域:空質空調
投資領域:空質空調

次世代事業推進本部を井戸という意味を持つ「Panasonic WELL」に改称

 新たな発表として、4月に新設した次世代事業推進本部を、7月1日付で、「Panasonic WELL」に改称することに触れ、「WELLには、心身ともに健康で、幸福であるという意味とともに、井戸という意味がある。パナソニックグループが、家族や社会にとって欠かすことができない存在や、絶えることなく汲み上げることができる安全で、信頼できる源泉のような存在になりたいという思いを込めた名称である。ひとつひとつの多様な家族に寄り添い、AIを含む最新の技術を使い、お客様が目指す生き方、過ごし方を理解し、家や家電をはじめ、生活に必要なものや、生活を支援するサービスなど、くらしに必要なあらゆるものを最適な形で調和させ、家族の健康と幸福を実現することを目指す。Panasonic WELLを、みなさんが利用できるようになるまで、期待して待っていてほしい」とした。なお、Panasonic WELLは、引き続き、執行役員の松岡陽子氏が担当する。

グループ共通戦略:くらし(健康・安全・快適)
グループ共通戦略:くらし(健康・安全・快適)

 また、楠見グループCEOは、「くらしへのお役立ちは、パナソニックグループの祖業である。これからも、くらしにおいて、お客様と多様な接点を持ち続けることになる。だが、ショールームや販売店を通じた接点、家電や電材、建材などの商品やサービスを利用する上での接点、修理やサポートなどの接点を持っていても、これらのすべてが独立しているという課題がある。時々刻々と生まれるデータを、デジタルやITによって統合すれば、よりよい商品やサービス、提案が生み出せる。そのためにグループの総合力を結集することを新たな戦略としている」と述べた。

 一方、事業ポートフォリオ戦略については、「グループ共通戦略との適合性、事業の立地および競争力の2つの判断軸で、事業構成の最適化を進め、2023年度中に、事業構成の見直しを方向づけし、順次実行することになる」と語った。

 「中期経営指標・財務戦略」については、2024年度までの3年間の累積営業キャッシュフローで2兆円、累積営業利益で1兆5000億円という、2022年度に発表した数値目標には変更がないとし、「厳しい事業環境が予想されるが、中期経営指標の必達に向けて、変革のスピードをあげ、手綱を緩めることなく、競争力を徹底強化する」と語った。

主な中期経営指標
主な中期経営指標

 また、質疑応答では、インターネットにより事前に受け付けた質問と、会場からの質問に答えた。

 PBR(Price Book-value Ratio/株価純資産倍率)1倍割れの状況が続いていることについては、株価が上昇したことにより、6月23日時点でPBRが1.03倍となったことを報告。「いまの利益水準に対して、決して満足しているわけではない。株価に対しても、実力はもっとあると考えている。有望な戦略領域への投資を通じて、成長への期待を高めたい。PBRは2倍、3倍に伸ばしていきたい」と発言。

 また、「過去2年間は、事業会社による競争力強化を図ってきたが、その間、上海ロックダウンや半導体供給問題、サプライチェーンの混乱、部材高騰などの影響があった。本来ならば、それらをすべて打ち返して利益をあげたかったが、すべてを打ち返すことはできなかった。それは私の反省点でもある」とした上で、「代表拠点においては、生産リードタイムや固定費比率を半減したとい成果も出ている。これらの成果を横展開することで、ソニーや日立に負けない収益率を目指すことを目標にしている」と語った。

 米中問題などの地政学リスクへの対応については、「グローバルに生産拠点や市場展開を行っているパナソニックグループにとって、事業、業績、財務状況に大きな影響を及ぼす可能性がある。中長期視点での製品供給網の複線化、地産地消を見据えた生産体制の点検および再構築に取り組んでおり、地域ごとに自律した事業推進ができるようになりつつある。これにより事業リスクの低減を進めている」と語った。また、パナソニック CEOの品田正弘氏は、中国市場において事業規模が大きい白物家電などの観点から言及。「中国市場にしっかりと寄り添い、中国の成長に向かって、お役に立てる事業を進めていきたい」と述べた。

トヨタが成長し、パナソニックが停滞している理由

 女性役員が少ない点については、「価値観の多様化が進む現代において、多様な意見に耳を傾け、経営に活かすことはますます重要になる。役員の女性登用だけでなく、管理職への女性登用に向けて、人事制度の見直しも進めている。今後も改革を進め、2030年度の女性の役員比率30%を達成したい」と語った。

 間接部門の人員が多いという指摘に対しては、「それぞれの事業会社で、間接部門の人員を、価値を生み出す仕事に回している。いましばらく待ってほしい」と述べた。

 さらに、「パナソニックグループは、30年間成長していない。これを変える施策のひとつが事業会社制であり、意思決定を迅速にしていくことが狙いとなる。かつては、新たな事業成長に向けた投資を行う話があっても、事業会社から手があがることはなかった。課題のある事業についても本社が指摘してから動くことが多かったが、本社側は多様な事業の詳細までは理解できていないのに指示をしている状況だった。指示を受けた方もそれを守ればいいという形になっており、上が言うことを聞いていれば、仕事をしたみたいになっていた。これでは思考停止であり、まったく成長しない。私自身も、Blue Yonderの買収時には、別の事業を担当しており、そんな大規模な投資が必要なのかという意見を出していた。だが、その事業をよく見ると、持っている強みと掛け合わせれば、将来、面白いことができると思うことができた。立場が変わると考えることが変わる。こうした大企業病があるから、Blue Yonderの買収が遅れた」と反省。

 「だが、この1年間で、手触り感をだいぶ持つことができた。成長のための新たな投資提案が出てくるようになった。課題事業に自ら手を入れるということも進んでいる。大企業病を脱して、成長に転じるためには、各事業の責任者が自分で考え、その通りにやり、それをホールディングスが支援することが大切である。この風土に変えることが1丁目1番地である」とした。

 楠見グループCEOが車載電池事業を担当している際に、トヨタ自動車とのビジネスを通じて、同社では一人ひとりが課題に対してカイゼンしていく姿勢を持っている点を学んだという。「トヨタには、『カイゼン後はカイゼン前』という言葉があり、カイゼンが終わったら、次のカイゼンが始まることになる。この点が、パナソニックの文化と大きく異なると感じた。だが、1950年代、60年代のパナソニックグループにも、そうした文化があったはずだ。だからこそ、成長を遂げていた。いま、トヨタが成長し、パナソニックが停滞している理由はここにあると感じている」と語った。

 テスラ向け車載電池事業については、「テスラは、地域の市場性を見て、電池の種類を選択している。パナソニック以外から調達したり、テスラ自らも電池の生産を開始したりするなど、株主から見ると、心配に部分があるかもしれない。いま、北米市場で求められているテスラの自動車は、高性能モデルが中心であり、そこでは、パナソニックの車載電池が持つ高容量、高出力、安全性という点が評価価されており、増産の要請もある」と発言した。

 また、パナソニックグループ全体の国内外の生産比率については、生産拠点数から回答。全世界300弱のうち、100強が国内拠点、200弱が海外拠点とした。その上で、「為替は一時的な変動であり、それによって生産拠点の立地が決まるわけではない。人件費の問題もあるし、継続的に事業成長するのではあれば地産地消の考え方も必要になるだろう。事業ごとに最適な拠点戦略を考えている」とした。

 なお、為替については、ドルやユーロが円安になった場合には、グルーフ全体の収益にはプラスになるが、中国元が円安になった場合には、中国生産による「持ち帰り商品」においてコスト高となり、マイナス影響になると説明した。

 完全撤退をしている半導体の自社生産の可能性については、「かつてDVD/BDレコーダーの開発では、私自らも担当し、ユニフィエという独自の半導体によって、競争力強化を図っていた。だが、半導体技術が進化していくなかでは、スマホなどの大きなニーズを掴まないと成長することができない。そのニーズがパナソニックグループのなかには少なく撤退することを決めた。システムLSIは合弁化し、アナログ半導体も専業企業に切り出した。いずれも新たな事業機会を掴んでいる。事業ポートフォリオ戦略において最もいい方法を選んだ一例になっている」と答えた。

 大学生就職企業人気ランキングにおいて、パナソニックグループが、アイリスオーヤマに抜かれたことを指摘する質問に対しては、同社ブランド戦略・コミュニケーション戦略担当執行役員の森井理博氏が回答。「若年層への認知度は、2021年は53%にまで落ちていたが、2022年は61%に上昇し、直近の調査では70%台に回復した。若年層に絞ったコミュニケーションを積極的に展開している。アルファ世代やZ世代に対して、存在感がないようでは、パナソニックグループの未来はないという危機感を持って取り組んでいる」とコメント。

 ジャニーズ事務所の性加害問題に関連したパナソニックグループの対応についても、森井執行役員が回答し、「ジャニーズ事務所に所属しているタレントは、9年間に渡り、広告宣伝活動には起用していない。だが、タレントは被害者であると考えている。提供番組の選定においては、視聴率をはじめ10項目以上に渡る基準をもとに判断している。今後も、コミュニケーション戦略の最適化を図っていく」とした。

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