パナソニック楠見CEO、成長に向けてギアチェンジ--「経営のお手本」とした日本企業は

 パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏は、共同インタビューに応じ、5月18日に発表したグループ戦略について語った。楠見グループCEOは、「2023年度は、成長に向けて、ギアチェンジをしていく」ことを改めて強調。「これまではローギアだったが、一番加速でき、トルクがでる、適切なギアにあげていく。スピードに乗って行く段階の取り組みがある一方で、事業によっては、立ち上げ期のものもあり、事業を成長させるための資金需要が大きかったり、M&Aが必要だったりするものもある。ここにはトルクをかける必要がある。優先度をつけて、変革を加速していく」とコメントした。

パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏
パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏

社員100人のアイデアをいかす会社にならなくてはいけない

 パナソニックグループでは、これまでの2年間を、「競争力強化に徹する時期」と位置づけ、事業会社主導での構造改革に取り組んできた。

 具体的な成果としては、各事業会社が選定した現場革新代表拠点で、高い目標を掲げた改善を推進。生産リードタイムおよび安全在庫を半減などの成果があがっている。

 だが、「財務指標の観点では、成果を残すことができなかった。すべての事業でオペレーション力を強化できたわけでなく、競争力強化は道半ばである。現場革新代表拠点の成果も横展開するところまでは至らなかった」と反省する。

 その上で、「代表拠点であげた成果を、さまざまな事業や拠点に横展開できるところまでは来ている。この部分では、ギアをあげてスピードに乗って行ける。現場では、やっていこうという機運の高まりや、変えていく流れができている」と語った。

 さらに、この2年を振り返り、「新たにスタートした事業会社制は、これまでやったことがない取り組みであり、想定外のことも起こっている。だが、そこは、変えていけばいいこと。また、権限委譲を行い、知らないうちに物事が進んでいることも増えた。ただ、パナソニックグループの経営の考え方は、長年に渡り、『任せて、任さず』であり、これは社内でずっと言い継がれている言葉である。任すのだが、きちっと見届けて、それが適正でなかったら変えてもらったり、変えることに気がついてもらったりする。事業会社に、勝手にやってもらうわけではない」などとした。

 楠見グループCEOは、経営トップに就任して以来、創業者である松下幸之助氏が生涯追い求めたとする「物心一如(物と心が共に豊かな理想の社会)」に取り組むことを、社員に徹底してきたが、この点については、「グループ社員24万人全員に浸透しているわけではないが、経営基本方針の大切さを理解しはじめた社員が増加している」と述べた。

 また、松下幸之助氏は、「社員稼業」という言葉を用い、社員一人ひとりが経営者という心意気で仕事に取り組み、ものを見て、判断することを求めていたが、この点からパナソニックグループが求める人材戦略についても説明。「たとえば、100人の社員全員に対して、社長のやり方を徹底するA社と、100人がそれぞれのアイデアを生かすことを促しているB社では、どちらの会社の方が、競争力を高めることができるだろうか。一人ひとりが全力でよりより手段を見出して、新たな方法に挑戦し、より高い結果を目指していくことができる会社の方が、競争力が高まる。パナソニックグループも、こういうことができていた時代は強かった。他社の例を見ると、トヨタ自動車がまさにそうである。一人ひとりが、カイゼンにつぐカイゼンに取り組んでおり、それが根づいている。パナソニックグループは、A社になってしまっていたのではないかという思いがあり、もう一度、B社にならなくてはならないと考えている。部下に対して、『俺の言うことを聞いておけばいい』という構造から抜けだせない上司がいるのも確かである。だが、少しずつ変化している。社員一人ひとりが、どういう心持ちで仕事をするかどうかが、競争力の違いにつながる」とした。

 一方、楠見グループCEOは、グループ戦略の発表のなかで、「2023年度は、成長フェーズに向けて事業ポートフォリオの見直しや入れ替えも視野に入れた経営を進める」と宣言。これを補足する形で、「これまでの事業ポートフォリオ戦略のやり方は、毀損した事業はカーブアウトしたり、M&Aしたりすることが多かったが、さまざまな手段を講じて成長に持っていくことを考えたい。事業の収益構造を変えることが目的であり、出し入れするのは手段にすぎない。また、入れ替えをするにも、それぞれの事業に競争力がなければ、出すに出せない。競争力をつけることに力を注ぐことが大切である。家電メーカーの米Whirlpoolは、10%の利益率がある。それは何が違うのか、事業会社自らが真剣に考えて、自らを変える取り組みが必要である。求める競争力は、収益性である。普通の会社として、普通のことをやっていくことが基本姿勢である」などとした。

好業績のソニー「背中が早く見えるように努力」

 比較されることが多いソニーグループについても言及。「ソニーグループは、さまざまな改革を通じて、好業績をあげている。ひとつひとつの事業にフォーカスして、そこでしっかりと業績を高めている。経営の力の強さを感じている。それに対して、パナソニックグループはスピードが遅かった。価値を作るオペレーション力、利益を生み出すオペレーション力の2つでスピードをあげていかなくてはならない。ソニーグループは、経営のお手本になる。ソニーの背中が早く見えるように努力をしていく」と述べた。

 PBR(株価純資産倍率)1倍割れとなっていることについては、「収益性が競合他社に比べて低い。外部要因の逆風もあり遅れているが、収益性を高めていくことに集中する。競争力強化は、収益性を高めることである」と繰り返した。

 グループ戦略のなかでは、新たに「くらしのソリューションプロバイダー」を目指す姿勢を打ち出している。多様な顧客接点を生かすとともに、デジタルを積極的に活用。顧客一人ひとりにあった価値を提案することを目指していく。

 楠見グループCEOは、「まだ、解像度をあげて話ができる段階ではない」としながらも、「パナソニックグループには、くらしに関わる事業と、関わらない事業がある。くらしに関わる事業では、『くらしソリューションプロバイダー』を目指すことになる」と語る。

 さらに、「くらしに関わる事業は、家電、電材、建材などがあり、従来は松下電器と松下電工に分かれていた。一緒になってからだいぶ時間が経っており、これまでにもクロスバリューイノベーションを掲げて取り組んできた経緯がある。だが、電材、建材、家電の組み合わせはまだまだできていないし、やれる余地がある。『Yohana』や食のデリバリーといった新たなサービスも開始しており、それらとの組み合わせもできるようになっている」とした。

 その上で、「パナソニックグループは、くらしのなかで何者になっていくのかを考えなくてはならない。単にハードウェアを売るだけでなく、くらしのなかで、一人ひとり、あるいは1家族ずつにとって、一番いいものを提供していくことを目指したい」と述べた。

 今後、パソナニックグループのくらしに関わる事業の目指す方向性を象徴する新たな言葉として、「くらしのソリューションプロバイダー」を使っていくことになりそうだ。

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