2022年11月の登場以降、革新的なAIとして一世を風靡しているChatGPT。まるで人間のような会話が可能な自動生成型AIは、人間の仕事を代替しうる存在として、大きな注目を浴びている。「ぜひ仕事に活かしてみたい」という読者も多いだろう。
一方で、どうすればこれを使いこなせるのか、わからないという方もいるはずだ。そこで今回は「Chat GPT、70点の回答を100点に育てあげるプロンプトマネジメント講座」と題し、日々の仕事に活かすために必要な知識や使い方を連載でお届けする。解説は、大手企業の新規事業創出をサポートする株式会社フィラメントの代表取締役、角勝(すみまさる)氏。角氏は、新規事業やそれに適した人材育成のためのアイデアを練るための相棒として、日常的にChatGPTを使用している。
連載初回となる本稿では、本題の前段となる「ChatGPTの正体--できることとできないこと」を解説する。ChatGPTを使いこなすには、まずはその正体を理解しなければならないからだ。なお、この連載で使用するChatGPTのバージョンは4.0を想定している。その点をご承知いただきたい。
ChatGPTをはじめとする自動生成型AIの正体は「巨大なパターン認識装置」だ。ChatGPTは、文章を介してユーザーとコミュニケーションを行うわけだが、自らの意思を持っておらず、自身が生成している文章の意味を理解してもいない。「この質問には、こんな答え方をすればいい」というパターンを大量に学習しており、回答として似つかわしい文章を学習データに基づいて生成しているにすぎないのだ。
それを前提に考えていくと、ChatGPTが得意とする仕事、不得意な仕事が見えてくる。たとえば、文章の要約や添削、アンケートの分析、メールへの返信などは得意だ。これらのような、一定のパターンがある作業では、ChatGPTは本領を発揮する。仕事の発注も「以下のメールの返信を書いてください」と書いて、その下にメールの文面を貼り付ければいいだけなので、使い方も簡単だ。
一方で、答えが一つしかない仕事は苦手だ。というのも、ChatGPTには自ら事実を調査する力がない。大量の質問・回答のパターンを学習しているので、雰囲気的に“それらしい”な答えを返してはくるが、その内容を検証してみると、事実と全く異なることばかりだ。調べ物には、ChatGPTは使えないことを認識しよう。
先ほど挙げた文章の要約や添削、アンケートの分析、メールへの返信といった作業をChatGPTにやってもらうだけでも、仕事の効率化はある程度できる。だが、企画などの難易度の高い仕事にもChatGPTを活用できたら、より心強いだろう。
とはいえ、企画に代表される「望む情報を探索して出力させる」タイプの仕事では、指示の難易度が高い。こちらから与えられる情報が限られているうえ、ChatGPTには“空気を読む力”がないからだ。ここで言う空気を読む力とは「言語化されていない相手の背景情報を察する能力」のこと。ChatGPTにはその能力が乏しい。
空気を読む力の例として、警察官と会話するシーンを考えてほしい。一般的に、警察官とコミュニケーションをとる目的は、道や落とし物について聞く、あるいは治安に関する相談などだろう。逆にいえば、これらの用事がない限り、警察官に話しかけることはない。
なぜかといえば、人は相手が警察官であることを認識したうえで、コミュニケーションをするからだ。言い換えれば、人は空気を読んでいるから、相手が答えられそうなことしか聞かないし、聞かれた側は望まれた回答を返そうと努力する。
しかしChatGPTには、その能力がない。つまり「この人はこんな企画を求めているだろうな」などと、空気を読んだ回答をしてはくれない。いきなり100点満点の答えが出てくることはなく、70点くらいの回答が量産されるイメージだ。70点しかないということは、30点ぶんの不十分な部分があるわけで、このままビジネスに使うのは厳しい。そこでやってほしいのが、ChatGPTにユーザーが意図する情報を返してもらうための「プロンプトマネジメント」だ。詳しいやり方は次回以降に解説するので、今回は概要だけお伝えしよう。
まずは、ChatGPTに70点くらいの回答を量産させる。続いて、それのブラッシュアップを行いつつ、良さそうな回答が出てきたらそれを選抜する。ブラッシュアップと選抜は一度では終わらせず、必要に応じて双方を繰り返していく。すると初めは70点だった回答の点数が上がっていき、いずれは100点の回答が生まれるというわけだ。
ここで大切なのは、どんな回答が100点なのか、事前に要件定義をしておくことだ。たとえばChatGPTに新規事業の企画案を考えさせるとして、その企画書にはどのような要素が、あるいはどれくらいの具体性が必要なのか、イメージを固めたうえで指示する必要がある。
次回以降は、ChatGPTを使って新規事業の企画を立てる様子を、具体例を見せながら解説していく。AIが拓くビジネスの新たな可能性を、より強く感じていただきたい。
角 勝
株式会社フィラメント代表取締役CEO。
関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。
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