シリコンバレーの日本人起業家、内藤聡氏率いる「Anyplace」が好調だ。6月には約11億4000万円をエクイティ、約2億8000万円をデッド、計14億2000万円の資金調達を実施し、シリーズBを完了。リモートワークに特化したサービスは、全米で100室を数えるまでに成長している。「このジャンルのカテゴリーリーダーになれるチャンスを逃さずに取り組みたい」とする内藤氏に、現在の米国のスタートアップ状況や、Anyplaceの今後について聞いた。
Anyplaceは2015年、シリコンバレーで設立。2021年に開始したAnyplace Selectは、コロナ禍で急増したリモートワークの普及も後押しし、人気を確立した。「リピートして使ってくれるお客様が多いのが特徴。ただ、ユーザーインタビューをすると、ロサンゼルスで使えたのにアトランタには拠点がなかったなどの声を聞くことが多い。これは大きな機会損失。物件のネットワークを築くことが次の課題」と、調達した資金は拠点の開発に充てる。
現在、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ、ニューヨークと4都市を中心に展開しているが、今後はシカゴ、シアトル、オースティンなど、テクノロジー企業が多く集まる都市へと進出する計画。「各拠点に物件を持つことで継続して使ってもらえるようになる」と、リピーターに加え、長期ユーザーの獲得も視野に入れる。
新たな事業計画を着々と進めるAnyplaceだが、米国におけるスタートアップの資金調達事情はコロナ禍を経て、厳しい状況にある。「景気が悪くなるとともに、資金の獲得は大変難しくなった。そのため、競合が出にくくなっているのも事実。いいものを作り、健全な状態で事業を大きくできる環境が整ったとも言える」と内藤氏はこの状況を捉える。
Anyplaceが好調を維持する理由の1つを内藤氏は「現時点で競合がいないこと」と分析。「大手の不動産会社は仕事環境の整備をそれほど重視していない。Wi-Fiのスピードが上がれば、お客様に喜ばれ、レンタル料金も上げられるといったことに価値を感じづらい。しかし、テックワーカーはWi-Fiのスピードが仕事を左右するし、大画面モニターがあればストレスも減る。こうしたニーズを捉えていることは私たちの強み。いち早くニーズを感知し、この市場をとっていける」と強みを話す。そのため現在の状況は「今がチャンス。どんどん事業を伸ばしたいと思っている」と好機を逃さない構えだ。
こうした好調の裏には、長く築いてきた投資家との強い関係性も大きく寄与している。今回、リードインベスターとなっている「ローンチファンド」は、ジェイソン・カラカニス氏が運営するベンチャーキャピタル。Anyplaceには、ローンチファンドのメンバーの一人がボードメンバーとして名を連ねるなど、強固な関係を築く。
「会社の状態がいい時も悪い時もコミュニケーションを密に取っている。カラカニス氏からも『コミュニケーションができるファウンダー』といっていただいている」と間柄を明かす。
今後については単身、カップル向けが多い物件を、2ベッドルームなど、さらに充実させていく予定だ。「出張時にホテルやサービスアパートメントよりもAnyplaceに泊まりたいというニーズが増えている。その中で同僚同士で泊まったり、お客様が来たりといった場合を想定して、部屋数を求められるケースも出てきた」と、さらなるニーズを読み取る。
加えて「Anyplaceはデスクやモニター、さらにシャンプーなど、あらゆるもののプロモーションの場に使える。利用するお客様も購買意欲の高い人が多い。テストマーケティングの場としても使ってもらえるはず」と、新たな領域にも踏み出す。
「Anyplaceの強みはお客様とのタッチポイントの長さ。滞在中は長い時間を室内で過ごしてもらえる。さらにお客様に快適に過ごしてもらえるよう、コンシェルジュ的なサービスの提供も進めている。例えばアトランタ在住のお客様がニューヨークに滞在した時、おいしいレストランから、クリーニング店まで、紹介するようなアプリの提供を始めた。それができれば、どこに滞在しても安心を提供できる」と室内と室外をシームレスにつなぐ仕掛けも用意する。
足元の環境は決して楽観視できないが、内藤氏は「健全な状態で事業を進められるチャンスでもある。ある意味ついていた贅肉を落とし、重要なことにフォーカスすることで、事業は強くなる。AirbnbやUberはリーマンショック時に生まれたスタートアップ。景気が悪いからと言って、諦めるのではなくここが大事な時と認識すべき。Anyplaceは今こそこの市場でリーダーが狙えるポジションになってきたので、ここを逃さず狙っていきたい。米国で起業している外国人は多いは、日本人はまだ少ない。日本人でも米国でトップシェアを取れることを体現していきたい」とした。
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