パナソニック CEOの品田正弘氏は、共同インタビューに応じ、2022年4月からスタートした事業会社制による1年間の取り組みについて総括し、「最も変化したところは、将来に向けて必要だと思える投資案件には、自分たちで生み出すことができるキャッシュフローの範囲であれば、自分たちの意思決定で投資ができ、迅速に手が打てるようになった点である」と発言。「自らの成長に向かって、大きく舵を切ることに動き出した1年である。新しい枠組みによって、スピード感が出ている」と述べた。
また、流通改革として取り組んでいる「新販売スキーム」については、「国内家電改革は、中長期的な視座で進めており、短期的な収益改善が目的ではない」と前置きしながら、「流通側ではおおむね理解をしてもらい、受け入れられている。販売店のなかには、半信半疑で開始したものの、成果を出せる商材が増えたり、粗利額が増えたり、在庫負担がなくなり、キャッシュの回転がよくなるといった状況が生まれている。一方で、うまくいかなかった商材もある。学習しながら進めており、いかに商品力を高めていくかが、パナソニックの課題である。やろうとしている方向性には間違いない」などと自信をみせた。
新販売スキームは、パナソニックが、販売店の在庫リスクについて責任を持ち、販売店は売れ残った商品を返品できるようにする一方、パナソニックが販売価格を指定。対象商品は、店頭では値引き販売は行えない。そのため、消費者はどの店舗に行っても同一の価格で購入できる。
新販売スキームによる流通改革について、品田CEOは、その狙いを次のように語る。「日本は、少子高齢化の時代を迎え、内需は減ってくる。しかも、日本の家電業界はオーバーストアになっており、グローバルに見ても特殊な競争環境にある。パナソニックは、国内家電市場のトップメーカーとして、業界全体の発展を考え、需要が縮退するときに、過当な競争が起きないように備えをしなくてはならないと考え、その問題意識をもとにスタートしたのが流通改革である。価値があるものを、価値に見合った価格で流通させることが狙いである」とコメント。
「商品が出たときに買った値段と、ライフエンドに購入する値段とに、極端な差があるのはお客様を裏切っているのではないか。購入した2カ月後に、その商品の価格が5万円下がっていたら、がっかりする。これはやってはいけない。商品の価値に見合った価格で、いつでも買い求められる時代がくることを目指している」とした。
新販売スキームを定着させるには、自らが強い商品を創出することが重要であることも強調した。
「2023年度からは、より高い価値を持った商品が出てくるだろう」としながら、「価格を安定させることができれば、価格を維持することが目的となって、毎年開発していたマイナーチェンジモデルに、貴重な開発リソースを振り分ける必要がなくなり、新たな需要を創造するモノづくりにリソースを割くことができるようになる。流通の人たちも、お客様もそれを願っている。お客様に対して、正しい価値をしっかりと創出していく」と述べた。
また、「流通改革においては、新販売スキームとSCM(サプライチェーンマネジメント)が両輪になる」と位置づけ、SCMへの取り組みについても言及。「いま、力を入れているのがSCMの強化である。流通側とデータを共有し、実需連動型の商品供給を行い、高速に、欠品なく、商品を届けることができるようにする。注文を受けて、きちんと納品していくというオペレーションをすることで、流通と一体になって需要を創出することができる」と語る。
さらに、「家電メーカー各社は、個別に需要予測をし、それをもとに生産、流通を行っているが、作りすぎた場合には、それをもとに量販店に商談を仕掛けることになる。SCMの稼働によって、パナソニックは、週次で商談が行えるようになっており、需要を的確に捉えられるだけでなく、他社の状況も感じることができる。価格や数量、需要の変動といった雰囲気がわかった状態で市場に対峙ができる点は大きな強みになる」とした。
現在、新販売スキームによって流通している商品の構成比は、国内白物家電全体の3割。テレビやエアコンを含むと2割弱となっている。これを2024年度には白物家電全体で5割、テレビやエアコンを含めて3割にまで引き上げる計画だが、「規模感には大きな意味はない。売上金額の3割がひとつの目安である。5割や7割に価値観を持っているわけではない。Win-Winの関係を持つことができ、需要を創造することに力を注ぎたい」と語った。
今回の説明では、静岡県袋井市の洗濯機の生産拠点に大型投資を行っていることにも触れた。
袋井工場は、SCMにおける実需連動型オペレーションを実現するための先行事例となっており、これにより、ドラム式洗濯乾燥機の即納率は90%以上となり、流通在庫を半減しながら、欠品を無くすことにも成功している。
品田CEOは、「1973年に操業した袋井工場は、50周年を迎えている。白物家電事業では、大規模投資をしてこなかった時期が続いていたが、久しぶりに国内生産拠点に大型投資をした。袋井工場では、1枚のステンレスから洗濯槽を作り上げる源泉工程から、アセンブリを行い、完成させるところまでを一本でつないだ。モノを移動させるための手間をなくし、効率を高め、生産リードタイムが短くなった。ドラム式洗濯乾燥機の需要拡大に向けて、迅速にイニシアティブが取れる仕組みを作った」とする。
また、生産拠点に対する投資では、「省人化対応がキーワードになる」とし、「日本に限らず、グローバル全体で、生産にまつわる人を確保することが困難になっている。家電、電材、空調のどの分野でも変わらない課題であり、省人化をして、人に頼らないモノづくりをする投資をしていく必要がある」としたほか、「コロナ禍を経ての学びは、コストが安い中国で生産するよりも、消費地に近いところで、高速にビジネスを回した方が、効率がいいということだ。グローバルにオペレーションするなかで、最適地生産とはどういうものなのかを、既存事業における投資テーマとして取り組んでいく」と語った。
さらに、調達における改革に取り組んでいることにも触れ、「かつては、事業ごとに調達に関わる作法や品質に関する考え方が違い、さまざまな半導体を少しずつ違う仕様変更で発注していたこともあった。こうしたものを統一するといった取り組みや、標準品を積極的に採用するといった取り組みを開始している。基幹部品に対しても、メスを入れているところだ。また、日本のメーカーから購入する鉄と、中国や韓国のメーカーから購入する鉄では、落下試験を行うと違う結果が出る。そうしたものも使いこなせるように設計力をあげている」などと語った。
くらし事業を担当するパナソニックの2022年度の売上高は3兆4833億円、調整後営業利益は1224億円となっている。くらしアプライアンス社、空質空調社、コールドチェーンソリューションズ社、エレクトリックワークス社、中国・北東アジア社の5社を持ち、それぞれの分社も上場会社に匹敵する事業規模を持っている。B2Cとなる白物家電が前面に出ているが、B2Bの売上規模が6割を超え、くらしにまつわる事業を幅広く展開している。
たとえば、コンビニエンスストア向けには、業務用電子レンジやスピードコンベクションオーブン、ショーケース、空調、照明を提供。これらは、パナソニックの4つの分社の商品で構成している。
「強い商材を組み合わせて、分社を越えた連携による提案が行えるという実感を得た1年であった。だが、グループのなかに多数の事業があるから、簡単にシナジーが生まれるとは思っていない。強いもの同士が集まらないと、究極的には強くはならない。それぞれが実力をつけることを優先してきた期間でもあった。顧客に正対しながら強みを発揮することが大切であり、分社を超えて顧客の期待に応えることに対して、可能性を感じている。商材をクロスさせ、それを届けることができる会社になることを目指す」と語った。
パナソニックグループでは、2023年3月までの2年間は、事業会社による競争力強化の時期と位置づけていた。
品田CEOは、「オペレーションエクセレンスを強化することは、永遠に道半ばである」としながら、「2022年度第1四半期(2022年4~6月)は、上海ロックダウンの影響で、上海で生産していた電子レンジの出荷ができなくなり、そこに為替の影響、原材料高騰の影響、物流費の高止まりがあり、四重苦のような状況であった。だが、2022年4月にパナソニック株式会社としてスタートを切って、一番やろうと考えたのは長期的目線で会社を運営するということであり、それを心に誓った。その一歩が踏み出せた」と振り返った。
さらに、品田CEOは、これまでの自らの経験を踏まえながら、「パナソニックの家電事業や電材事業は、キャッシュを創出する役割を担う事業ではあったが、その一方で、投資が行き届かなかった部分があった。自らの成長の機会を逸した局面もあった」と指摘。品田CEOがエナジーシステム事業部長時代に、電材分野の海外企業のM&A案件を検討したことがあったが、パナソニックグループ全体では、車載電池事業に力を傾斜していた時期であり、買収を断念した経験があったことを明かした。
「いまは事業会社になり、こうした案件でも、自分たちが生み出しているキャッシュフローの範囲であれば、自分たちの意思決定で投資ができる。これが大きな変化である。将来に向けて必要だと思えるものには迅速に手が打てるようになった。事業会社化して、一番変わったところである」と述べた。
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