パナソニックは、くらし事業における投資計画を見直し、2022年度から2024年度までの3カ年累計の投資額を4550億円にすることを明らかにした。パナソニック CEOの品田正弘氏が、6月2日に行った「Panasonic Group 事業会社戦略説明会」で明らかにしたもので、「事業環境の変化、成長の機会を踏まえ、成長事業を中心に900億円を上積みした。前中期経営計画の約2倍となる規模であり、次期中期経営計画を見据えた投資になる」とした。なかでも、成長事業では1200億円の計画を2000億円に拡大。「成長機会を逃すことなく、事業成長につなげるために、今後も迅速に投資する」と述べた。
また、空質空調設備事業においては、国内生産への回帰を推進する考えも示した。
パナソニック 空質空調社社長の道浦正治氏は、「国内生産回帰およびや生産性向上により、供給リードタイムを極小化し、デマンド対応力強化と在庫圧縮を同時に実現する」と語った。ルームエアコンをはじめとして、日本で販売する空質空調事業の主力製品を、日本で生産することを検討しはじめている。パナソニックが取り組んでいる新たな販売スキームに対応するためにも、調達、生産、デリバリーまでのリードタイムを短縮しなければいけない。また、地政学的リスクもあることや、キャッシュフローの観点からも得策ではない。それらの要因を背景に検討を開始している」と語った。
また「家庭用のルームエアコンに限らず、設備型空調システム、業務用熱交換機システムなどを含めて、日本で販売している製品のすべてを土俵にあげて検討をしているところである。国内モノづくり基盤の再構築により、キャッシュ創出力を強化し、2025年度には40億円以上のキャッシュ改善効果を目指す」と述べた。
くらし事業では、空質空調設備、海外電材、国内電材、エネルギーソリューション、CO2冷凍機、ショーケース、国内白物家電を7重点事業と位置づけており、くらし事業の売上収益全体の約7割を占めている。
パナソニックの品田CEOは、「7重点事業の利益成長とともに、新領域、新事業などの足りないピースを補完しながら、くらしにまつわるすべての要素と価値を統合し、他社にはないウェルビーイングとサステナビリティの実現を目指す」としている。
2024年度にはEBITDAで3500億円、EBITDA率10%、ROICで10%以上、3年間累計営業キャッシュフローで6600億円を計画。「7重点事業で利益成長するとともに、オペレーション力の底上げを図る。やや高い目標を設定しているが、中期的な視野で変革を重ね、必要な投資を実行する」とした。
EBITDAをカテゴリー別に見ると、空質空調設備、海外電材、エネルギーソリューション、CO2冷凍機による「成長事業」領域では2024年度までに600億円の増加を計画。それに対して、2022年度実績は189億円と順調に推移したという。だが、国内電材やショーケース、国内白物家電による「安定収益事業」領域では、国内家電事業が減益となったことで、2024年度の500億円増加の計画に対して、2022年度は77億円となり、計画を下回った。また、オペレーション力の強化では、価格改定による効果を2024年に500億円増としていたが、2022年度実績で705億円を達成。コスト構造改革も2024年度の800億円増の計画に対して、2022年度は311億円と順調な進捗となっている。「環境変化を打ち返す力が、この1年でかなりついた」と自己評価した。
成長リーダー事業と位置づける空質空調設備事業については、「重点投資領域として、中長期的に最も高い成長と収益を実現できる事業である。パナソニック独自の空気と水のテクノロジーの組み合わせにより、従来の空調にはできなかった最適、最高の空質および水質価値と、低環境負荷を提供できるユニークで、強い事業にしていくことができる。そして、脱炭素社会において存在感のある事業体にしたい」(パナソニックの品田CEO)と述べた。
2023年度以降も、利益率が高い欧州ビジネスでの成長を牽引役とし、チェコやマレーシアでの欧州向けA2W(Air to Water)の生産能力の増強、新製品の投入、買収したSystemairとの協業によるライトコマーシャル領域への展開、グローバルで約100万台がつながる実績をもつIoTを活用したメンテナンスサービスの強化などを進める。
また、空質空調設備事業では、2025年度に目標にしていた売上高1兆円を、2024年度に前倒しすることを発表。パナソニック 空質空調社の道浦社長は、「2023年度は、欧州および日本の事業強化にリソースを集中投下する。また、水の新たな価値を創出すために、水ソリューションズBU(ビジネス・ユニット)を設立したほか、開発およびモノづくり機能の強化として、グローバルプラットフォーム開発部門と、モノづくり革新部門を設立。さらに、デバイス事業の融合によって、競争力強化を目指す」とした。
日本においては、空気質や脱炭素の強みをフックに、住宅メーカーや住宅ビルダーとの協業を拡大。グローバルで展開しているIoTサービス「HVAC Cloud」を活用した顧客最適ソリューションの拡大にも取り組むとしている。
また、同じく成長リーダー事業となる海外電材では、「勝ち筋が確立された堅牢性が高い事業であり、パナソニックのなかで最も安定的に高成長が実現できる事業。B2B事業拡大の橋頭保になる」(パナソニックの品田CEO)と評する。配線器具でのグローバルナンバーワンを実現するとともに、サスティナブルで安心安全なくらしの設備インフラを提供していくという。
インド、トルコ、ベトナムの重点3カ国では、市場全体を超えた2桁成長を維持。そのうち7割を占めるインドで、生産能力を4割引き上げ、50%のシェア獲得を目指すという。
品田CEOは、「インド南部のスリシティ工場の生産能力を高めるとともに、さらなる追加投資も検討している。インド市場は、2007年に買収したインドのアンカーがベースとなっており、15年間で売上高は6.4倍、利益は8.3倍にまで成長している。M&Aでの勝ちパターンとなっている」などと述べた。
国内白物家電では、原材料費や物流価格の高騰といった環境変化への打ち返しが進んでおり、2022年度上期は価格改定や合理化でカバーしたものの、下期は急激な需給バランスが悪化し、減益になったという。くらしアプライアンス社の2022年度業績はEBITDAで801億円となり、前年比で47億円減、公表値に対しては99億円減となっている。
パナソニックの品田CEOは、「2022年度下期は、需要減退により、業界全体で流通在庫に余剰が生まれ、各社が一斉に値下げ競争に突入した。だが、パナソニックは、従来の商慣習の流れには乗らず、追従はしなかった。一時的なシェアダウンは覚悟の上で判断した。その結果、価格改定や新販売スキームによる効果として、200億円を超える利益貢献があった。その一方で、一部商品ではシェアダウンに伴う減販もあり、トータルではその半分の利益貢献に留まった。結果として、同業他社と比べて、収益性へのダメージはある程度食い止められたと判断している」と振り返った。
また、「これらの価格政策は、商品の競争力やトップメーカーとしてのプレゼンスがあってこそ、成り立つものである。食洗機やドライヤーなどの競争力が高い商品についてはシェアダウンすることなく、収益貢献が大きかったが、競争力がない商品は目論見通りにいかなかったケースもあった。また、価格政策が後手に回り、シェアダウンを招くという運営上の課題もいくつかあった。2023年度はそうした反省を生かして、柔軟に市場対応する準備を前年度中にほぼ完了できた。2023年度は反転攻勢に打って出ることができる」と自信をみせた。
ドラム式洗濯機やドライヤーでは、前年度からのトップシェアを維持したものの、冷蔵庫や電子レンジでは、前年度の1位から、2022年度は2位に後退したという。
一部商品力が不足しているカテゴリーではシェアダウンし、市場対応の運営面で課題を残したが、2023年度はこれをどこまで改善できるかが注目される。
品田CEOは、「これは、国内家電市場を健全化し、価格の安定性を取り戻す取り組みになる。国内では突出した顧客接点、サービス網、強いブランド力、資産がある。トップメーカーとしての責任として、これらの優位性を生かして、課題に挑戦していく」と述べた。
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