パナソニック CEOの品田正弘氏は、11月15日から募集を開始した「自動計量IH炊飯器」の先行体験に、11月20日時点で、すでに約7000人の応募があったことを明らかにした。
先行体験の募集は200台限定としており、11月20日までの6日間で、35倍もの応募があったことになる。
品田CEOは、「非常に高い反響があった。パナソニックらしい新たなカテゴリーの商品を生み出すことができ、そこにリソースシフトができている事例のひとつである」と述べた。
自動計量IH炊飯器は、炊飯器の新たな提案であり、炊飯器本体に内蔵している米タンクと水タンクに、無洗米と水をセットしておけば、ボタン操作や、スマホアプリによる遠隔地からの操作によって、いつでも炊飯ができるという商品だ。
発売予定の新製品をいち早く体験できる「Future Star Program」として、自動計量IH炊飯器を提供している点も新たな試みであり、ユーザーは4万6000円(税込み、送料込み)の体験価格で購入でき、使用前後のアンケートなどの各種調査に協力することになる。
体験応募受付期間は12月25日までで、商品は2023年2月下旬に出荷する予定だ。正式に商品化するかどうかは、今後、検討をしていくことになるという。
自動計量IH炊飯器は、無洗米専用とする2kgの米タンクを本体中央上部に設置。600mlの水タンクを本体後方に内蔵しており、簡単に、米と水をあらかじめセットして利用する。操作をすると、セットした米と水を自動で計量、投入し、炊飯できる点が業界初となる。
炊飯量は0.5合から2合まで0.25合刻みで設定でき、パナソニックのキッチンポケットアプリを通じたスマホ連携によって、予定にあわせた炊飯のほか、帰る時間が決まった時点で、外出先から炊飯をスタートさせたり、設定していた時間の変更もできたりする。内釜はおひつ型のデザインとしているため、そのまま食卓に持ち運んで炊き立てのご飯を食べることができる。好みのかたさをアプリから設定でき、おかゆも作れる。なお、少量の炊き方に最適化したり、無洗米に最適化した炊き方を追求する一方で、パナソニック独自の「おどり炊き」機能は搭載していない。
パナソニック くらしアプライアンス社キッチン空間事業部調理機器ビジネスユニット国内マーケティング部主査の佐藤ゆき奈氏は、「米と水の計量、投入から炊飯までをお任せできる、これまでにない新しい商品である。自分の予定にあわせた炊飯が可能になり、炊飯器が生活リズムに寄り添い、時間のストレスから解放される。炊飯の手間を削減し、炊き立て、食べ切りにより、温かい食卓が実現できる」と、新製品のコンセプトに自信をみせる。
パナソニックでは、これまでにも約40年に渡って、炊飯器の全自動化に向けた取り組みを行ってきたという。1982年の炊飯器への米や水の自動投入にはじまり、1990年には水を使わないで洗う洗米技術開発。2010年には水道直結と撹拌洗浄式により自動洗米を実現した。
パナソニック くらしアプライアンス社キッチン空間事業部調理機器ビジネスユニットマーケティング総括の酒本俊雄氏は、「以前に比べて無洗米に対する市場からの評価が変化しているといった社会的な背景や、最適な米や水の量を測れるようになったという技術的進歩が、今回の商品につながっている。技術とマーケティングが一致したタイミングでの取り組みであり、生活の多様化など、現代のニーズに合う、コンパクトな卓上サイズで実現した」と語る。
調査によると、2026年度以降、日本の総世帯数は5400万世帯を切るものの、単身世帯や2人世帯の割合は、着実に増加。テレワークの浸透により、自宅での食事回数が増加しており、とくに20~30代での増加傾向が顕著だという。
好きな時間に自動で炊飯ができること、スマホから操作が可能であること、2合炊きという少量での炊飯にしたことは、増加傾向にある単身世帯や2人世帯、自宅での食事回数が増加している20~30代を想定したものだといえる。「自動計量、遠隔炊飯という業界初の取り組みによって、新たな価値を創造し、新たな生活スタイルの提案につなげ、炊飯器市場全体を活性化したい」と述べた。
一方、先行体験プログラムであるFuture Star Programは、新たな生活スタイル提案で暮らしを豊かにするため、顧客と流通との協働でマーケティングを磨き上げる取り組みと位置づけている。
パナソニック コンシューマーマーケティングジャパン本部エンゲージメントセンター戦略企画部企画課の万谷範崇課長は、「顧客ニーズの検証、価値の研ぎ澄まし、価値の伝達という3点を、顧客、得意先、パナソニックの三位一体で仕上げていくプログラムである。発売予定の新製品の体験を希望者にプログラム品を届け、体験前後の魅力度の変化などの検証を行い、使い慣れた時期にもデプスインタビュー(個別インタビュー)を行う。それをもとに、発売時期やマーケティングの方向性を確立し、顧客や得意先とともに協働で価値を市場に伝達していくことになる」という。
また、先行体験者にとっては、メーカーの新たな生活提案をいち早く体験できること、仕様中の不安を払拭するために、体験者専用のFSP(Future Star Program)通信を通じてさまざまな情報が入手できること、今回は、限定品のしゃもじや無洗米がプレゼントされるメリットを訴える。
パナソニックでは、今後、Future Star Programは、訴求内容やプロモーション方法が確立していない新たな生活提案をする商品や、新たなカテゴリーの商品を対象に実施していく姿勢も明らかにしている。
実は、パナソニックの商品開発部門では、マイクロエンタープライズ(ME)の名称をつけた9つのプロジェクトを推進している。
パナソニック くらしアプライアンス社社長の松下理一氏は、「顧客起点でアイデアを出し合っており、これまでの商品の定義に縛られない新たなコンセプトの商品づくりに取り組んでいる」と語り、「MEプロジェクトの効果は、2023年後半から2024年にかけて多く出てくるだろう。なかにはカテゴリー名や商品名が付けられない驚くような商品も登場する。本当の意味でのパナソニックらしい商品が出てくる」と語る。
Future Star Programは、MEプロジェクトで創出される商品にも、今後、活用されることになりそうだ。
また、パナソニックの品田CEOは、同社が推進している新販売スキームの状況についても説明した。これは、同社が2020年からスタートしているもので、「お客様に選ばれる高付加価値商品を、価値、品質に見合った価格で提供するもの」と位置づけている。
具体的には、パナソニックが販売店の在庫リスクの責任を持ち、在庫となった商品はパナソニックが返品を受け付ける一方、価格を指定するという仕組みであり、消費者は、どの店舗でも同一の価格で購入できる。バナソニックが競争力を持つ商品を中心に展開しており、2021年度実績で全体の15%を占め、100億円規模の改善効果が出ていた。
2022年度には、これを約2割にまで引き上げる計画であり、「白物家電では約3割が、新販売スキームで展開できる商品になってきている。利益の貢献度ではさらに大きな構成比を目指すことになる」と述べている。
品田CEOは、「これを実現するためには、そもそもお客様に選ばれる商品を開発し、提供しなくてはならない。顧客起点の商品を開発し、はじめて成り立つ。業界のなかにはないような商品、パナソニックの商品力が強く、生活に潤いを与えるような商材を、新販売スキームで展開している。質を上げていくことが重要である。また、同時に、前年モデルとほとんど変わらないマイナーチェンジ商品を毎年出し続けるのではなく、価値のある商品を出し、それを長く使ってもらうことが可能になる。食洗機や電子レンジは、製品サイクルが1年から2年に長期化している。マイナーチェンジに費やしていた開発リソースを、新たなカテゴリーに投入できる。自動計量IH炊飯器も、そのひとつである」と述べた。
さらに、実需起点のSCM(サプライチェーンマネジメント)プロセスを再構築し2023年度からの本格導入に向けた準備を進め、2022年度下期は実証実験を行っている段階であることにも触れ、実需と生産計画を連動することで、効率生産を行うとともに、短いリードタイムで在庫を補充し、機会損失の極小化や、在庫回転率の向上につなげる考えだ。
また、国内生産への回帰については、「現在、中国で生産している一部家電を国内生産することも考えている。為替の状況や、欠品なく在庫を補充する体制を考えたときに、日本で生産した方がいいという事業に目星をつけており、国内生産回帰を予定している商品もある。また、日本における生産性はまだ高めることができると考えている。それに向けて、国内拠点を整理整頓する必要があるため、いまはその見直しに向けた議論を進めている」と明かした。
すでに、掃除機は滋賀県八日市の工場での生産を進めており、かつては国内生産が20~30万台に留まっていたが、100万台規模にまでに増やしており、同時に収益力も回復させているという。また、日本市場向けエアコン上位モデルの室外機の生産のほか、その他の商品についても国内生産を検討しているという。
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