パナソニックホールディングス グループCTOの小川立夫氏が、共同インタビューに応じ、同社の技術戦略について語った。
小川グループCTOは、「長期環境ビジョンの『Panasonic GREEN IMPACT』では、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量ゼロ)と、サーキュラエコノミー(循環型経済)にフォーカスしているが、2023年秋以降には、新たにネイチャーポジティブ(生物多様性)への対応を加えることになるだろう。生物多様性に関する新たな提案を技術部門から行っていくことになる」と、新たな方向性を打ち出したほか、大阪・西門真地区に、生産技術と研究開発部門を一体化し、入居することができる新棟を建設し、この内容について、9月にも正式に公開することを明かした。
また、「ホールディングス技術部門は、サステナビリティとウェルビーイングに向き合い、将来の技術および事業の仕込みをしていくことになる」とも述べた。
パナソニックグループでは、2022年度までの2年間を、事業会社による競争力強化に徹するステージとしてきたが、2023年度は成長へのフェーズチェンジと位置づけている。パナソニックホールディングス グループCEOの楠見雄規氏は、「事業ポートフォリオの見直しや入れ替えも視野に入れた経営を進め、重点投資領域を鮮明化する」との姿勢を示している。
この方針を受けて、小川グループCTOは、「事業会社が手掛けていない新たな領域をカバーするということは、ホールディングス技術部門の責務であり、技術部門におけるフェーズチェンジといえる部分もある。だが、地球環境問題の解決といったテーマの外に出るようなものはない」と述べた。
また、楠見グループCEOは、2030年度までに、パナソニックグループのすべての事業が、「地球環境問題解決」と「お客様一人ひとりの生涯の健康・安全・快適」のどちらかに分類されるようになると発言している。これに関しては、「サステナビリティとウェルビーイングにフォーカスするという方向性は、技術部門の方が先に打ち出した」と前置きしながら、「これまでは、地球環境価値や、くらし価値といったことをメインに考えていなかった事業があったかもしれないが、それらの事業においても、目指す方向は、地球環境価値やくらし価値へと変えていきながら、ポートフォリオ全体がその方向に向かうことになる」とコメント。
「解析技術やセキュリティなどの共通技術は、いずれかのカテゴリーには分類しにくいかもしれないが、地球環境に関与しない技術や事業はないと考えている。ホールディングス技術部門の基本テーマも、地球環境問題解決と、お客様一人ひとりの生涯の健康・安全・快適という点で足並みをそろえ、重点投資をしていくことになる。事業会社には手掛けられないような新たな技術などにはホールディングス技術部門が取り組んでいくことになるが、これらも大きく捉えれば、濃淡はあるものの、地球環境問題解決に関与しないものはないだろう」とした。
ホールディングス技術部門における2022年度の取り組みについても、サステナビリティとウェルビーイングの両面から振り返った。
ひとつめのサステナビリティの領域では、2022年度から掲げているPanasonic GREEN IMPACTへの取り組みをあげる。Panasonic GREEN IMPACTでは、2050年に、全世界のCO2総排出量の約1%にあたる3億トン以上の削減を目指すとともに、そのマイルストーンとして、2030年度までに、全事業会社のCO2排出量ゼロと、約1億トンのCO2削減貢献量を目指している。
2023年1月に、米ラスベガスで開催された CES 2023では、小川グループCTO自らがプレスカンファレンスのステージに登壇し、Panasonic GREEN IMPACTの取り組みを前面に打ち出した訴求を行ったほか、2022年10月には完全生分解性のセルロースファイバー成形材料を開発したことを発表し、循環型社会への対応を推進してきた。
とくに、CO2削減貢献量では、認知活動や啓蒙活動から取り組んでいることを示し、「これが、企業の取り組みが正しく評価されるためのグローバルでの標準化指標のひとつとなり、投資家や金融業界からも認識されるようになることで、環境に貢献する事業や企業への投資が後押しされる」と想定。この分野で強みを持つパナソニックグループが、成長フェーズに乗るきっかけにもつながると見ている。
そこで、WBCSD(World Business Council for Sustainable Development=持続可能な開発のための世界経済人会議)やIEC(International Electrotechnical Commission=国際電気標準会議)、経済産業省のGXリーグにも参加し、CO2削減貢献量の必要性についての議論をリード。「G7サミットやG7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合でも、削減貢献量を認識することに価値があることが声明文のなかに盛り込まれた。これまでの活動が、日本政府やG7においても認められる方向で進捗した」と手応えを示した。
ウェルビーイングについては、ロボット搬送ソリューションの領域において、東京・丸の内で、日本初の公道でのロボット単独による販売実証実験を実施。今後は、利用できる場所の拡大や、他社のロボットとも一緒に動作する環境の実現に取り組むという。
画像処理を中心に取り組んできた同社独自のAIについても、ECCV(European Conference on Computer Vision)やIROS(International Conference on Intelligent Robots and Systems)といった国際学会で採択が行われており、今後、実用化に向けた取り組みを進めていくことになる。
また、新規事業の創出では、エッジAIプラットフォームを活用したソリューションを提供する「Vieureka(ビューレカ)」を、2022年7月に、JVCケンウッドおよびWiLとともに設立。「事業の新たな枠組みとして、外部の資本を入れ、外部のパートナーと一緒になってビジネスを推進することで、事業成長を加速し、T2D3を実現することを目指す」と述べた。
また、大阪・西門真地区には、生産技術と研究開発部門が一体となって入居する新棟を建築しており、9月にも正式に公開する計画を明らかにした。
2022年7月にはEX(Employees Experience)革新室を新設。共創の場である「Wonder Lab Osaka」をリニューアルして、「Employees Experience Lab」とし、働き方そのものを研究開発する取り組みを開始しており、「いい仕事をしている人は、いい働き方をしているという仮説を前提に、働き方に焦点をあてて、研究開発を行っている。良い事例を学び、自らの働き方を変えていく取り組みになる。研究開発部門の新棟における新たな働き方にも反映させていく」という。
さらに、9月13〜14日には、技術部門による成果報告会を大阪・西三荘の「Panasonic XC KADOMA」(パナソニック・クロスシー カドマ)で開催する計画を明らかにし、パナソニックグループ内だけでなく、外部パートナーにも一部技術を公開する考えを示した。
「価値を提供することが1社ではできない状況が生まれていることや、内部の評価だけでなく、外部からの意見も聞きたいという背景がある。公開する技術には、初期段階のものもあるが、パートナーを求めたり、技術評価をしてもらったりする狙いから公開することにした」という。
生成AIの取り組みについても言及した。「顧客との接点がデジタル化されるなかで、そこで行き交う情報をどう咀嚼するのか、次のソリューションにどう展開するのかという点では、AIの活用が力になる。パナソニックホールディングスのなかに新設した次世代事業推進本部では、『くらしのソリューションプロバイダー』を目指すことになるが、この領域にも、AIを活用することができるだろう」と述べた。
パナソニックグループでは、パナソニックコネクトが先行する形で、2月から、「Azure OpenAI Service」を活用した「ConnectGPT」を導入。4月からは、グループ9万人を対象にした「PX-AI(旧PX-GPT)」を導入している。
「AIは社内業務だけでなく、お客様の業務プロセスの革新においても重要である。ただ、現段階ではどんなデータベースにアクセスしてもいいとか、どんな情報でも書き込んでいいというわけではない。一度、社内に閉じた形で運用し、社員のリテラシーを高め、社内のデータベースの充実も同時に図る。日々進化を遂げている技術であり、ツールとしてこなれてきたときに、これらの取り組みが成果につながる。いまは仕込み期間と捉えている。生成AIの活用はポジティブな面とリスクの面があるが、PX(Panasonic Transformation)を加速するツールになる」と語った。
ロボティクスでは、中国ブランドの配膳ロボットなどが、日本にも数多く導入されていることに触れ、「人に当たったり、皿を落としたりといったことが発生しているようだが、導入しているレストランなどでは、コスト優先で導入しているケースが多い」と指摘。
「パナソニックグループのロボットは、日本のロボット技術者の性(さが)のような部分があり、人に威圧感を与えずに、安全に止まり、なるべくスムーズに避けることにこだわっている。自律搬送ロボット『HOSPI』で培ってきたノウハウがあり、この開発には多くのコストをかけている。認めてもらえるユーザーもいるが、響かないユーザーが多い。反省する部分であり、悔しい思いをしている部分である。だが、安全を犠牲にはしたくない。その上で、どこまで安くできるのかといったことに取り組まないと、技術は開発したのに、世の中に出なかったということを、また繰り返すことになる」などと、自らに言い聞かせるように語った。
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