「舌」でデバイスを操作できる「MouthPad」

Jada Jones (ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部2023年05月18日 08時00分

 世界保健機関(WHO)によると、世界には障害を持つ人が13億人いるという。そのため、誰もが参加できる社会、誰もが利用できるサービスを開発することは非常に重要だ。米疾病予防管理センター(CDC)によると、米国では成人の7人に1人が移動に関わる障害を抱えているという。

MouthPad
提供:Augmental

 移動障害があると、タイピングやスクロール、ゲームをする際にサポートが必要となる可能性がある。こうした障害は、仕事や人間関係、恋愛、電子機器の扱いに影響を及ぼすことがある。

 MITメディアラボのスピンオフ企業、Augmental Techの共同創業者であるCorten Singer氏とTomas Vega氏が目指しているのは、障害がある人のコントロール能力を強化することだ。その一環として、同社は「MouthPad」と呼ばれる、新しい支援テクノロジーを開発している。

 MouthPadは、舌で電子機器を操作する装置だ。歯科矯正で使用される「インビザライン」のような、プラスチック製リテーナーに似た装置の中に、トラックパッド、圧力センサー、バッテリー、充電コイル、Bluetoothチップが詰め込まれている。

 これまでも視線入力装置、口で操作するジョイスティック、音声を文字に変換するアプリといった支援ツールはあったが、Vega氏によれば、こうしたツールは古い技術を利用している上に、サイズも大きく、目立ちすぎるという。

 「コンピューターは、私たちが創造し、学び、共有し、表現し、他者とつながることを可能にしてくれる。コンピューターがすごいのは、知識や情報を提供してくれるからではない。多くの人にとって、操作が簡単だからだ」とVega氏は言う。「しかし手に重度の障害がある人にとっては違う。むしろ、操作はとても難しい。時代遅れの分かりにくいインターフェースが使われているからだ」

 しかしMouthPadのアプローチは違う。ユーザーはMouthPadを口腔内に装着し、Bluetooth経由で電子機器を操作する。装着中も話をしたり、口を閉じたりできる。口で操作するジョイスティックはかさばり、不快に感じることもあったが、この点もクリアしている。

 Singer氏は、障害がある人はテクノロジーへのアクセスが限られているため、社会から阻害されやすいと指摘する。しかしAugmentalが開発しているツールを使えば、誰もが技術を利用し、社会に参加できるようになるとSinger氏は言う。

 「これまでの社会では、身体に障害があると社会制度と関わり、コミュニティの一員として地域に貢献することはほぼ不可能だった。アクセスの手段がないからだ」とSinger氏は言う。「でも今は、誰かを社会から排除していい理由などない。誰もが公平なアクセスを実現する技術を利用できるからだ」

 両氏によれば、MouthPadは既存の優れた支援技術を置き換えるものではなく、音声技術と併用することで最大の効果を発揮するという。しかし、目立ちたくない場面では音声なしでも利用できる。

 MouthPadが欲しい人は、まず順番待ちのリストに登録する必要がある。その後、送られてくる機器を使ってデンタルスキャンを実施し、口腔内の様子をAugmentalに伝える。MouthPadはオーダーメイドの装置であり、一人ひとりの口腔構造に合わせて作られる。

 両氏は、電子機器を操作する手段として「舌」に注目した。舌はすばやく正確に動かすことができ、持久力もあるため、複雑な音や動きを実行できる。人間の舌は8つの筋肉が組み合わさったユニークな器官で、象の鼻やタコの脚と同じような構造をしているという

 「私たちは舌を11本目の指と捉えた」とSinger氏は言う。

 舌の動きを司っているのは、人間の脳にある重要な神経だ。舌の動きのほとんどは先天的なもので、進化と生存に重要な機能を果たしてきた。舌が持つ、無限にも思えるスタミナを利用することで、ユーザーはバッテリーが切れるまでMouthPadを使い続けることができる。

 「今、話をしている間も私の舌はすばやく正確に動いているが、そう意識しているわけではない」とVega氏は言う。「舌の形は人それぞれだが、舌の特性である機敏な動きを利用して、無理なく自然に操作できる、繊細なインターフェースを実現することを目指している」

 Krystina Wray Jackson氏は、仕事でグラフィックアートを制作する際にMouthPadを使用している。この装置を使うようになってから、テレビの操作やメールの確認、アート作品の制作などが簡単になり、前よりも楽しくなったという。

 「MouthPadはすぐに毎日の生活に欠かせないものとなった」とJackson氏は振り返る。「これがなかった頃の生活はもう想像できない」

 Jackson氏によれば、「Siri」や「Alexa」などの音声操作技術は、MouthPadと比べると柔軟性や利便性に欠けるという。また、自動車や飛行機で外出した際など、なるべく声を出したくない時もある。MouthPadは、ユーザーがプライバシーを維持しながら電子機器を操作できるようにすることで、この問題を緩和している。

 Augmentalはまだ米国連邦通信委員会(FCC)の認証を得ていないため、MouthPadを販売・出荷することはできない。そのため、実際の価格や発売時期などは未定だ。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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