「キノコ」が電子廃棄物の削減に貢献?リサイクルできる回路基板に

Rajiv Rao (ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部2023年05月22日 07時30分

 ここ数年、キノコの活躍が目覚ましい。

キノコ
提供:Doris Danninger, Johannes Kepler University

 最近はの代用品として菜食主義者の間で愛用されており、STELLA McCartneyやHermesといったハイブランドのブティックに行けば、キノコを使った高級バッグや洋服が目立つ場所に陳列されている。Mercedes-Benzも次世代電気自動車「VISION EQXX」セダンのシートクッションにキノコを採用した。幻覚成分を含む一部のキノコは、難治性のうつ病の症状を大幅に緩和できることが明らかになり、メンタルヘルスの世界に革命を起こしつつある。

 先頃、オーストリアのリンツにあるヨハネスケプラー大学の研究チームが、キノコの新たな活用方法を発見した――地球温暖化の抑制だ。これは、この地味な菌類にとって最も重要な用途となるかもしれない。

 科学者のMartin Kaltenbrunner氏が率いる研究チームは、丈夫で栽培しやすいキノコを、生分解性のある電子チップ基板の素材として活用する方法を発見し、学術誌Science Advancesで発表した。

電子廃棄物の問題

 Kaltenbrunner氏は長年、材料科学や工学をサステナビリティの問題に活かす方法を探ってきた。例えば数年前には、ロボット工学に持続可能な素材を用いる研究について発表している。

 最新の研究プロジェクトにおいて、Kaltenbrunner氏のチームが注目したのは、あらゆる電子回路の土台となる基板だ。チップを集積し、冷却する基板は、リサイクルできないプラスチックポリマーで作られていることが多いが、チームはこの基板を新たな材料で作る可能性を探った。

 プラスチックは基板の材料としては質量比で2番目に大きい部品(37%)だが、使用後は廃棄され、埋立地で何百年間もCO2を排出し続ける問題が指摘されており、年間5000万トンに及ぶ電子廃棄物を生み出す一因となっている。

「菌糸エレクトロニクス」の奇跡

 実験では、リサイクルできない石油由来のプラスチックに代わり、広葉樹の朽ち木に生え、アジアでは健康や長寿をかなえるキノコとして長く親しまれてきた霊芝(Ganoderma lucidum)が使われた。

 研究チームが特に関心を持ったのは、このキノコが「菌糸体」と呼ばれる根に似た部分を他の菌類やバクテリアから守るために形成する外皮だ。

 この外皮を乾燥させ強度を試したところ、200度以上の高温に耐えること、また絶縁体や導体としても非常に優れた性質を備えていることが分かった。この外皮に銅やクロム、金などで成膜して金属化し補強すれば、回路の基板としても十分に活用できる。

 この優秀なキノコにはもうひとつ、有益な特性がある。それは、外皮から紙に似た厚みを持つ基板向きの素材を作り出せることだ。紙は製造工程で消費する水の量が多く、有害な化学物質で環境を汚染する可能性もあるため、基板には使われてこなかった。

キノコの外皮でできた基板
キノコの外皮は柔軟性があり、強く折り曲げても回復する
提供:Doris Danninger et al in Science Advances, Vol 8, Nos 45

 一方でキノコ由来の基板は、2000回曲げても使用でき、柔軟性が高く、チップの平面構造の設計に苦労しないという利点がある。

 西イングランド大学でUnconventional Computingを研究するAndrew Adamatzky教授は、「作成されたプロトタイプは印象的で、研究結果は画期的だ」というコメントをNew Scientistに寄せている

 Kaltenbrunner氏のチームは、キノコ製の基板は消費電力が少なく、長期稼働を必要としないBluetoothを利用したウェアラブル型の湿度センサーや近接センサー、無線タグで使用できると考えている。

 しかし湿気や紫外線を遮断すれば、菌糸体由来の基板はゆうに数百年は持つ可能性がある。研究チームは、キノコの外皮をセパレーターやケーシングに使用した、これまでにないコンセプトの電池も提案している。

 何よりすばらしいのは、この種のキノコは地球にほとんど負荷をかけずに栽培できることだ。むしろ、二酸化炭素は多いほど良い。さらに、外皮が成熟するまでの期間はわずか4週間だ。

 しかも、菌糸体由来の基板は役目を終えると土壌中で静かに生分解され、2週間もたたずに消えてしまう。これはエンジニアにとって、持続不可能な規模の電子機器消費から世界を救う夢の技術となるかもしれない。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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