「tvOS 16.5」のベータ版を利用して「Apple TV 4K」でスポーツ観戦をしている人は最近、新機能「マルチビュー」に気付いたかもしれない。名称が示唆しているとおり、この機能は、一度に複数の試合を観戦でき、Appleが同時に配信している複数の試合の流れを追おうとしている「MLS Season Pass」の契約者や米メジャーリーグ(MLB)のファンにとっては、とりわけ便利だ。
また、今のところAppleのマルチビューは、tvOSのベータ版を搭載するApple TV 4Kでしか利用できないが、この機能は、長い間うわさされ、6月に登場すると言われている同社の仮想現実(VR)ヘッドセットがあれば、さらにもう少し面白いものなるかもしれない。
BloombergのMark Gurman氏は、発表間近の次期ヘッドセットについて、Appleがユーザーにどのような形で楽しんでもらおうとしているのか、その方法をいくつか詳しく説明した。
Gurman氏は「FaceTime」やゲーム、フィットネス向けのアプリのほか、スポーツ観戦について言及し、「このヘッドセットの1つのセールスポイントは、没入感のあるスポーツ観戦ができる点だろう。Appleはすでに、メジャーリーグサッカー(MLS)やMLBの試合を『Apple TV+』で提供しているが、それをもっと豊かな経験にしようとしている」として、スポーツイベントやコンサートのVR配信を手がけるNextVRを同社が2020年に買収したことにも触れた。
AppleはまだVRで試合を配信したことはないが、MLSやMLBの中継を開始したことで、将来的にVRカメラを追加することも検討する余地が生まれる可能性がある。Apple TV+によるMLBの試合の配信では、ホームベースの後方に立つ球審の視点から生のプレイを体感できるビューなど、すでに新しいカメラアングルを模索している。
Belli gets us on the board!@Cody_Bellinger pic.twitter.com/Sl8r7VaSLY
— Chicago Cubs (@Cubs) April 7, 2023
すでにVR配信しているリーグもあり、米プロバスケットボール協会(NBA)は数年前から試合をVRで生中継している。1月には、Meta Platformsとの提携を拡大し、Metaのプラットフォーム「Horizon Worlds」でレギュラーシーズンの試合をVR配信すると発表した。
2023年に入ってVR配信されたNBAの試合のほとんどは、基本的にメインのテレビ中継の仮想化バージョンを巨大なスクリーンに映し出す形だった。しかし、そのうち5試合では、「Meta Quest」ヘッドセットを装着することで、コートサイドに座っているかのように試合を生観戦できる「解像度2880で没入感のある平面視180度のライブVRによる試合」を配信した。
NBAの新規メディアパートナー管理責任者Teddy Kaplan氏は米CNETの取材に対し、「われわれが繰り返し引き合いに出すのは、ファンの99%は決して現地観戦しないとの統計だ」と述べ、米国外のファンの存在やコートサイド席を考慮すると、この数字は100%に近いと指摘する。
「コートサイドにカメラを設置してその場を離れ、ファンにコートサイドの席を体験してもらう以上に、素晴らしいことがあるだろうか」(Kaplan氏)
NBAで配信コンテンツ管理担当アソシエートバイスプレジデントを務めるPaul Massache氏は、次のように述べている。「コートの雰囲気を伝えたい。こうした没入体験の構築はその一環だ。観戦者がバーチャルでコートサイドに座るというのは、他では得られない体験だ。もちろん、その観戦者が現地で試合を見ているのでなければ、の話だが」
マルチビューという概念はAppleだけのものではない。Googleの「YouTube TV」は、全米大学体育協会(NCAA)が主催する男子バスケットボールトーナメント「March Madness」向けに同様の機能の先行アクセスを提供し、秋には「NFLサンデーチケット」パッケージ向けにマルチビューオプションを組み込むことを計画している。ソニーはすでに終了したライブテレビ配信サービス「PlayStation Vue」で2019年に同様の機能を提供していた。
Appleが試合のライブ配信でどこまでVR化を進めるかは現時点では不明であるものの、当面の間マルチビューを活用する可能性はある。
VRヘッドセットを装着して「Apple TV」アプリを使ったらどうなるか想像してみてほしい。Apple TVのマルチビューでは、4つのウィンドウに最大4つのゲームが表示されるが、その大きさは物理的なディスプレイによって制限される。しかし、ヘッドセットを装着すれば、4つの巨大なバーチャルスクリーンを投影できることになり、自宅だけでなくヘッドセットを装着すればあらゆる場所で、スポーツバーのような体験が得られる。
AppleはMLSやMLBの試合製作にも携わっているため、複合現実(MR)ヘッドセットを手がけるMagic LeapがNBAと組んで同社のヘッドセットで構想していたような、ARのスタッツとオーバーレイ表示を組み合わせて没入感のある体験を生み出す路線に進む可能性もある。
Appleがスポーツ配信の分野に関わる動きを見せていることは、ストリーミング配信に対する野心のための新たなコンテンツ獲得にとどまらないものを実現しようとしているように感じられる。同社のヘッドセットが近く登場するとのうわさや、マルチビューのような新機能のリリースを考慮すると、そうしたビジョンがついに明確になりつつあるのかもしれない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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