なぜワーケーションが必要か--数値と調査結果が語るワーケーションの効果と可能性 - (page 2)

湯田健一郎 (執筆:古地優菜)2023年05月07日 10時00分

「ワーケーション」は単なる休みから人材育成の手段に

 ここからは2021年(令和3年)度に観光庁が企業に向けて、ワーケーションに関するウェブ調査を行った結果を引き合いに、ワーケーションの現状と期待について確認していこう。

 レポートによると、テレワークの導入率は38%、その内ワーケーションの認知率は66%となっている。前年となる2020年度が48.5%だったことを考えるとジャンプアップと言えるだろう。

 一方で、ワーケーション制度を導入している企業は5.3%となっており、実施企業はまだまだ多くないことが見て取れる。

出典:「新たな旅のスタイル」今年度事業の結果報告(令和4年3月17日)(観光庁)
出典:「新たな旅のスタイル」今年度事業の結果報告(令和4年3月17日)(観光庁)

 ワーケーションの実施形態のうち、最も多く取り入れられているのが福利厚生型(休暇型)で49.8%となっているが、企業がワーケーションを取り入れるイメージとしては、地域課題解決型が2020年の21.5%から28%に、場所を変えて仕事をしようというサテライトオフィス型も22%から26.2%に増加している。こうした結果からも、近年、企業がワーケーションを単なる休みではなく、研修など人材育成の1つの手段として捉えていることがおわかりいただけるだろう。

出典:「新たな旅のスタイル」今年度事業の結果報告(令和4年3月17日)(観光庁)
出典:「新たな旅のスタイル」今年度事業の結果報告(令和4年3月17日)(観光庁)

無意識でワーケーションを行う層も

 一方で、ワーケーションを導入しない理由の上位は「業種として向いていない」が60.5%、「ワークと休日の区別が難しい」が20.5%、「効果を感じないため」が16.3%となった。

出典:「新たな旅のスタイル」今年度事業の結果報告(令和4年3月17日)(観光庁)
出典:「新たな旅のスタイル」今年度事業の結果報告(令和4年3月17日)(観光庁)

 また、2020年度で上位だった「社内で不公平感が生じる」「情報漏えいへの懸念」「労災摘要の判断が難しい」といった懸念は、日本経済団体連合会(経団連)や日本テレワーク協会からワーケーションおよびテレワーク導入に関するガイドライン等が公開されたこともあり、減少傾向にあるようだ。こちらの内容については第2回以降で詳しくお話していきたい。

 続いて従業員に対する調査を見てみると、ワーケーションの認知度が80%にのぼるものの、実際に経験したことのある割合は4.2%と低い数字となっている。

 一方で、33%にのぼるテレワーク経験者のうち、21.9%は自宅以外でもテレワークを実践しているとの結果も見られた。これはワーケーション制度を取り入れている企業が少ないことにも起因するだろうが、意識してワーケーションを行っているわけではないものの、自宅や普段の職場とは離れた場所で仕事をしている人の多さも表していると言えるだろう。

 こうした人たちは「隠れワーケーター」とも呼ばれ、ワーケーション自体が着実に広がっていることを示唆しているともいえる。

出典:「新たな旅のスタイル」今年度事業の結果報告(令和4年3月17日)(観光庁)
出典:「新たな旅のスタイル」今年度事業の結果報告(令和4年3月17日)(観光庁)

実践者と未経験者で異なるワーケーションへの期待

 続いてワーケーションを実施したい理由について見ていこう。一番多いのが「リフレッシュ効果」で36.5%となっている。また「ワークライフバランス推進」という回答が多いことから、合理的な働き方をしたいと考えている人が増えていることも見て取れる。

出典:「新たな旅のスタイル」今年度事業の結果報告(令和4年3月17日)(観光庁)
出典:「新たな旅のスタイル」今年度事業の結果報告(令和4年3月17日)(観光庁)

 また、今回の調査では、ワーケーション経験者とそうでない人とでは、ワーケーションに対するイメージや期待することが異なることもわかってきた。

 未経験者の場合、期待する効果としてリラックスやリフレッシュ、気分転換といった福利厚生的な使い方をイメージする方が多い結果となった。一方で経験者は、業務効率の向上や仕事の質の向上、スキルアップへの期待といった回答が高い傾向にある。

 つまり経験者ほど、仕事への前向きな効果を期待してワーケーションを実施しているといえるだろう。

経営的観点から見るワーケーションという働き方

 ここまで数値的な観点からワーケーションについて捉えてきたが、導入の障壁を越えるためには経営的観点から見た効果も把握しておくべきだろう。

 経営的観点でワーケーションという働き方がどのように効果的かという意味で、話が進みやすいのはモチベーションや集中力が上がる、また新たな発想が生まれるといった点だ。よく「ワーケーションでは自律的、自己管理的な働き方ができる」と言われるが、実は在宅勤務におけるテレワークでも同様のことが言われている。

 一方で、「新たな発想の創出」や「モチベーション、集中力の向上」、また「自己管理的な仕事ができる」といった点では、テレワークのみを経験した方より、ワーケーション実践者のほうがいずれも高い数値が出ることが、ある調査からわかっている。

 また、法政大学 経営学部 教授の永山晋准氏の分析によると、パフォーマンスの高い人材は働く場所の種類と目的に合わせた場所の選択、またそこが好きというワークユニットの多様性が高いという。「ワーケーションによって集中力やパフォーマンスが上がる」といった感覚的なもので社内の説得が難しい場合は、こういった調査結果を踏まえて会社を説得することをおすすめしたい。

 そのほか、パーソル総合研究所が行った「テレワークによる組織の求心力への影響に関する定量調査」では、週平均3日以上テレワークをする人のほうが、職場に出勤して働く人に比べ、パフォーマンス、ワークエンゲージメント、業務における創意工夫の発揮のいずれも高いという調査結果が出ている。

 このように福利厚生的な捉え方だけでなく、パフォーマンスの高い人材を惹きつけたり、その人たちの発想を変えていったりするワーケーションの利点に着目し、テレワークと合わせてワーケーションを導入している企業は数多くある。ぜひ皆さんもワーケーションを正しく捉え、その可能性を感じ、ご活用いただきたい。

 

湯田健一郎

株式会社パソナ 営業統括本部 リンクワークスタイル推進統括 など

組織戦略・BPO・CRMのコンサルティングに携わり、特にICTを活用した事業プロセス最適化の視点から、幅広い業界・企業を担当。株式会社パソナにて営業企画、事業開発、システム推進、Webブランディングの責任者を経て、現在は、ICTを活用し、場所を問わず多様な人材の能力を活かす、「LINK WORK (リンクワーク)」の推進を統括。2014年5月に設立したクラウドソーシング事業者の業界団体である一般社団法人クラウドソーシング協会の事務局長も務め、テレワーク、パラレルワーク、クラウドソーシング、シェアリングエコノミー、フリーランス活用分野の専門家として、政府の働き方改革推進施策にも多数関わりつつ、自身もハイブリッドワークを実践している。
また、国家戦略特区として、テレワーク推進を展開している東京テレワーク推進センターの統括の他、多数のテレワーク推進事業のアドバイザーも兼務。政府の働き方改革推進に関連する経済産業省の「雇用関係によらない働き方に関する研究会」や厚生労働省の「柔軟な働き方に関する検討会」「雇用類似の働き方に関する検討会」「仲介事業に関するルール検討委員会」委員等も務める。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]