ワーケーションであれ観光であれ、現地に行かないとその地の真の良さはわからない。これは多くの人が納得してくれるだろう。一方で、体験したとしても言語化できない魅力もある。友人に、知人に勧めたいものの、なんと伝えればいいかわからない。ワーケーション先として実践者が集まる地域は、こうした掴みどころのない良さを持つという共通点があると感じている。
今回、3月9日から11日にワーケーションで伺った福井県もまた、同じ感覚にとらわれたエリアだ。ここでは参加者に「言語化できない『いいね』が感じられる地域」と言わしめた、2泊3日のワーケーション体験を、筆者の主観と体験を元にお伝えしたいと思う。
先に申し上げておくと、これまで私が福井を訪問したのは2度しかない。一度は子どもの頃の臨海教室で若狭へ、2度目は2020年に親子ワーケーションで高浜へ。いずれも嶺南地域と呼ばれる福井県南部地域で、それ以外の地域の訪問は今回が初めてだった。
また、私は仕事柄ワーケーションでさまざまな地域を訪れることが多いが、訪問先についてはそれほど調べずに、現地の方のおすすめの店に足を運ぶなど、いきあたりばったりの旅をすることが多い。今回ももれなく、事前に情報をほぼ取得しない状態で福井に足を運んだ。
そんな「福井県ほぼ初心者」の筆者だったが、今回の旅では逆に「前知識がなくてよかった」と思えた。地域に根ざした活動を行うキーマンたちが、SNSや雑誌では到底知ることができないであろう、よりディープで血の通ったご縁や情報を提供してくれたからだ。
この旅を通して感じた、ワーケーションにおける福井県の感動ポイントを5つご紹介したい。
筆者は普段長崎県を拠点に活動しているため、今回は関西経由で福井県に入った。北陸の土地勘がなかったこともあり、正直関西からでも遠いのでは…と思っていたが、京都駅から特急サンダーバードに乗って1時間20分ほどで到着。車内で仕事ができたので、それほど長いとは思わなかった。
これはあくまで個人の感想だが、ワーケーション地までのアクセスはドアtoドアの時間以上に「移動時間が充実するか」が大切だと感じる。PC仕事ができたり、そこでしか見れない景色が見れたり、地元の人と交流できるコンテンツを体験できたり…と、「充実」の意味合いは人によって異なるが、「ただ移動する」ほどつらいものはない。
筆者の場合、車や飛行機での移動が多いため、ワークの時間がとれないことが多い。その点において関西圏からワークできる1時間20分は、体感としてそれほど長いとは感じなかった。
ちなみに、2024年春に北陸新幹線が開通し、東京から約3時間でアクセスできるようになれば、関東圏からの体感移動時間もさらに短くなるかもしれない。
ワーケーション地を選ぶポイントの1つに「コワーキングスペースの有無」がある。連泊するのであればホテルの部屋でも良いのだが、特にオンラインミーティングができる個室がある場所は、ワーカーにとってはとてもありがたいもの。
その点福井県は、比較的コワーキングスペースが多い地域だと感じた。福井県のワーケーションを紹介するサイトには、19カ所のコワーキングスペースが掲載されている。
今回、筆者は3カ所のコワーキングスペースを利用したが、いずれも快適に利用でき、回線が弱いなどのワーク中のストレスもなかった。
さらにうれしいのは、拠点が1カ所に固まっていないこと。福井市や鯖江市、高浜町やあわら市など、各地にコワーキングスペースがあるので、どの地域でもワーケーションの拠点にしやすい。
今回筆者が利用したホテルエコノ福井駅前の館内にも「Lo・CoCo-ロココ-」というコワーキングスペースがあり、宿泊者なら営業時間内は無料で利用できる。有料で会議室も借りられるので、企業でのワーケーションでもうれしいポイントだろう。
福井県は大きく嶺北と嶺南で東西に分かれるが、前者はかつて越前、後者は若狭という国だった。そのため方言が異なるなど、同じ県にいながら多様な文化を味わえるのは福井のワーケーションの強みといえるだろう。
これはコンテンツの多様さにも比例している。例えば今回のワーケーションで最初に訪問した永平寺は、山あいにある歴史の深い場所で禅体験ができるワーケーションが楽しめる。
一方で、以前CNETが取材した「ものづくり研修ワーケーション」が体感できる鯖江市は、永平寺から車で約30分ほど。福井駅からならJRで15分、乗換なしで鯖江駅までアクセス可能だ。
旅程上、今回のワーケーションでは福井市から鯖江市まで車で向かったが、鯖江駅からアクセスのいい場所に向かうなら、車窓を楽しみながら移動する電車でのワーケーションも楽しいかもしれない。
他にも県内には敦賀市や高浜市など、コンパクトに移動できてワークもできる場所がいくつもある。コンパクトに多様な地域を楽しめるのは、特に公共交通機関での移動がメインの実践者にはありがたいのではないだろうか。
さまざまな良さがある中で、際立つのが福井県の地域プレーヤーたちの存在だった。
例えば鯖江市。前述したキーマンたちの1人となる竹部美樹氏のご案内で、越前漆器伝統産業会館や周辺の漆器店に足を運んだ際には、なぜ越前漆器が今に至るまで高い需要を誇っているのか、なぜさまざまなデザインに挑戦できているのかなどを、解説いただき、詳しく知ることができた。漆琳堂や土直漆器といった漆器店で匠と会話もでき、竹部氏との縁の深さを感じた。
筆者はワーケーションの醍醐味は「人」であり、地元の方との関わり方で、その地域をどれだけ楽しめるかが変わってくると感じている。ただ、全く知らない土地に単身で乗り込み、地元の方との絆を作ることは誰にでもできることではない。
今回のワーケーションの先々で語られていたのが「福井の魅力は言語化しづらい」ということ。これは筆者も同様に感じていた。これという魅力があるわけではない。でも、一度来たらなぜかもう一度来たくなる。現地で、肌で感じる何かが、福井にはある。
言語化できないものの正体は、おそらく何度か福井に足を運ばなくてはわからないのであろう。それはおそらく「現地の人の良さ」であり風土であり文化なのだろう。観光地のようなおもてなしとは異なる、にじみ出るような親近感と言うべきか。この感覚は、ぜひ福井県に足を運んで感じていただきたい。
ワーケーションと観光の違いの一つは、何度も足を運んでみて、地元の人と対話を重ねてみて、初めて出会える魅力があること。再度福井県を訪れてみたい、そう思わせるワーケーション体験だった。
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