歴史が長くレガシーなシステムからの脱却とDX推進の挑戦--コープさっぽろに聞く

 歴史が長く規模も大きい北海道の「生活協同組合コープさっぽろ」。2020年からデジタル推進本部を設置し、レガシーなシステムからの脱却とともに、DXの推進を行っている。その取り組みについてデジタル推進本部 システム部 部長の中内愛氏ならびに、副部長の及川剛氏に聞いた。

 生活協同組合は、消費者一人ひとりがお金(出資金)を出し合い組合員となり、協同で運営・利用する組織のこと。コープさっぽろは1965年(昭和40年)に創立され、組合員数は196万人を超える(2023年3月20日時点)。北海道全域で事業を展開し、小売り事業として100店舗以上を構えているほか、宅配サービス事業なども展開している。

生活協同組合コープさっぽろ デジタル推進本部 システム部 部長の中内愛氏(右)、同副部長の及川剛氏(左)
生活協同組合コープさっぽろ デジタル推進本部 システム部 部長の中内愛氏(右)、同副部長の及川剛氏(左)

55年以上続く組織が変革することの難しさ。Slackなどの初歩からサポート

――そもそも、コープさっぽろとしてDXに取り組む経緯や狙いを教えてください。

中内氏: これまでも店舗、宅配、物流領域でのシステム化・導入は進めていました。そして、これから先の小売り業務を推進していくにあたって、やはりデジタル化は欠かせないという考えが根底にあります。デジタル化についても、ただ単に置き換えるだけではなく、業務そのものをガラッと見直して、もっと簡単に、そして楽にしていくためのデジタル化を推進するという方針のもと、2020年から取り組んでいます。

 DXの推進を開始したのは執行役員の対馬(※2022年までの2年間、当時最高デジタル責任者(CDO)として、デジタル推進本部 本部長を務めていた対馬慶貞氏)で、彼が長谷川(※最高情報責任者(CIO)で、現在のデジタル推進本部 本部長の長谷川秀樹氏。東急ハンズ執行役員やメルカリのCIOなどを歴任した経緯を持つ)に、コープさっぽろのCIOをオファーをしたことから、本格的にスタートしました。

 一番大きいのは、データセンターで動いているシステムで、全てAWSに移行すること。あとコミュニケーションの取り方として、これまではメールベースで行っていたコミュニケーションを、Slackでやりとりすることです。上司や部下といった垣根のない状態で、情報共有をタイムレスで行い、より良い業務を推進していくことを目指しました。

及川氏 : 私はもともと店舗勤務をしていました。自分が業務のなかで「こういう風になったらいいのにな」と思う部分をシステムにいかしていく狙いもあって、ここに移ってきたという背景があります。その意味では、DXにおいても業務に結びついた何かを改善していかなければいけない。そして、ただ単にシステムを導入すればいいだけではなく、有効に活用するにはどのような条件だといいのか、ということまで考えて組み込んでいくのが大事です。なので、私はもとより実際に現場で働いていた者の知見を入れつつ取り組んでいます。

――コープさっぽろは歴史が長く、規模も大きい組織ですので、変えるということの難しさがあることは想像できますが、実際にどのような難しさがあるのか、それを感じたことについてお話ください。

及川氏 : それぞれに「今の自分の働き方はこれ」というのがあります。そしてコープさっぽろとしても55年以上の歴史があります。これを踏まえると、何かを変えるとしたときに、自分のやり方を変えようと思っても、人はなかなか変えられません。そして、人のやり方を変えてもらうには、一気に何かを変えるというよりも、前提となる知識みたいなものも含めて、徐々に伝えていくことも大事です。

 私がデジタル推進本部に来たこともそうですが、人を入れ替えることによって、変化することのスピードアップを図っています。やはり同じ業務をずっとしていると、凝り固まった考えになりがちです。別の部署に移ることで人の循環を行い、新しい業務を身につきやすくしていってます。それが早いペースで行われると、変化を受け入れやすくなりうまくいくとも考えていますが、一方で業務を覚えた方を別の部署に異動するということ自体、大変なことでもあるので、そこのところも徐々に時間をかけて取り組んでいるところです。

中内氏: 私自身、SI(システムインテグレーション)の仕事をしていて、2020年に転職してシステム部に入ったという経緯があります。実際に入ってみて、業務基準書と呼ばれるマニュアルがしっかりしているんですね。その通りに業務を行うと効率が上がっていくというもので、組織としても働き方にしてもそれに準じて行っていると感じました。

 そこにDX推進の名のもとに、デジタルという新しい軸が入ってきたと。今まで慣れてきたものに対して、少し入り込んでくる程度であればハードルは低いのですけど、まったく違う軸となるものですから、普段からスマートフォンやゲームなどに触れているような方であれば、親和性があると感じられてハードルが低いように思うのですけど、ものすごくハードルが高いように感じられて受け入れにくいという方もいます。そういう方ですと、習得するのに腰が重くなったり、どうしたらいいのかと悩んでしまう方も少なくないです。その後もいろいろなシステムを入れたり改善していくなかで、便利になったという意見もあれば、少し難しいと話される方がいるのも事実としてありますね。

――及川さんは店舗勤務をされていたとのことですが、DX推進が始まる2020年よりも前というのは、いわゆる“昔ながら”という意識が強かったのですか。

及川氏 : 根本的に、昔ながらの考え方ややり方、仕事の仕方でずっとやってきたというのはあります。そんななかで2020年にデジタル推進本部が立ち上がって、トップに対馬と長谷川が就任して、SlackやGoogle Workspaceなどといったデジタルツールが導入されるなど、一気に変わっていきました。とはいえ、旧来のメールを使いたい方は当時多かったですね。

中内氏: さすがに2年以上経過しているので、今ではだいぶ変わっています。もうSlackのほうが早いという感覚になってます。メールだと「初めまして」「お疲れ様です」「よろしくお願いします」みたいな、かしこまったやりとりになりますけど、Slackだとフランクで気軽なやりとりもできますので。

――Slackなどのデジタルツールに関する勉強会を、頻繁に開いていたとのことですが。

中内氏: 導入する初期段階のときですね。切り替えていくというときに、当時は広報部を主体に、週に1~2回ぐらいのペースで勉強会をしていました。さらに動画も残して、復習だったり参加できなくても遅れないようにして。とにかく最初のところでつまづかないようにしていました。

――勉強会はどのような雰囲気でしたか。また受けた方はどのような反応をされていましたか。

及川氏 : 私はその当時、店舗の店長をしていたので、勉強会を受ける立場でした。周りの店長たちの反応は「メールが使えなくなるらしい」「Slackというものを使うらしい」「どうやって使うのかも、説明を受けなければわからない」という感じで、どんな利点があるのかが見えないという雰囲気で。勉強会で説明を受けてみると、反応がいい方とピンと来ていない方に分かれていました。

 反応がいい方は、もっとチャンネルを作ってこういう風に連携しようとか、地区の中でこういう情報伝達をしようといったことを、自ら考えて発展させていました。一方で、あまりピンと来ていなかった方も、徐々に使うようになっていくことでメリットを感じられるようになって。正式にオペレーションの中で活用することになって、全体にいきわたった、という形になります。

――及川さん自身は、どのように感じられましたか。

及川氏 : 自分はどちらかというと興味がある方だったので、周りから比べたら順応するのは早いほうでした。周りの店長から質問されたり、それに答えていくうちに、さらに知識が深まっていたという感じですね。その質問についても、本当に基本的なところです。メンションの付け方から、チャンネルを勝手に作っていいのかどうか、そのチャンネルの名前の付け方とかもありましたし、「勝手に他の人を呼んで怒られないの?」「『様』って付けなくていいの?」とか。そんなレベルの話からさまざまな相談を受けました。

中内氏: 今ではほとんど聞かないような話ですね。

及川氏 : 順応が早かったり興味のある方に対して、地区を統括している方々から「こういう場合はどうしたらいい?」「こういう風に使いたい」という質問がきて、その使い方をひとつの地区でできるようになると、ほかの地区でもできるようになっていって、それで少しずつ広まっていった感じです。

中内氏: 最初はSlackやGoogle Workspaceについても、それこそMicrosoft Officeの使い方を習得するというところから始めるぐらいでしたけど、慣れてくると、Excelでやっていたような関数を入れたいとか、マクロを作りたいというような、高度なことをやりたいという方も出てきて。そういった方を後押しするようなデジタル勉強会を、2021年と2022年に実施しました。こういうとき“来てください”だと来ない方も多いので、各部署でデジタル推進リーダーを決めていただいて、参加を必須とする形で学んでいただいて、新しい使い方を発信していくことをやってました。

――本当にデジタルの初歩から始まった感があります。

中内氏: 特に2020年のときには、手厚くサポートをしていました。ただ、2年以上が経過していますので、新しくきた方々がわからないままになっているところもあります。定期的に勉強会などのサポートを行わないと、本当の意味での定着にはつながらないのかなと感じています。

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