経済効果「1兆円超」--関西のスタートアップは万博開催という好機にどう向き合うべきか

 「共創の価値を最大化する『組織・チーム・文化づくり』」をテーマに、様々なキーマンから事業成功へのチームづくりのヒントを聞くオンラインセッション「CNET Japan Live 2023」が開催された。

 2月22日は「万博を控えた関西が描くスタートアップエコシステムとは」と題したセッションで、2025年に開催される大阪・関西万博(以下、万博)を舞台にしたオープンイノベーション構築に向けて、4名の登壇者からさまざまな取り組みについて話を聞いた。司会進行はCNET Japan編集部の藤代格が務めた。


 セッションのモデレーションを担当したフォースタートアップスPublic Affairs戦略室 室長で、大阪産業局スタートアップ・エコシステムのExecutive Advisorの泉友詞氏は、関西スタートアップエコシステムの支援に関わり、それぞれのリソースを組み合わせて活性化させる方法に重点を置いて活動している。

 「世界各国の現状では、いわゆる新産業をいかに生み出し、対外的に発信していくかという点が国策として非常に活発に取り組まれており、日本も例外であるわけではない。特に2025年の万博を控えた関西は経済を盛り上げることを目指しており、その中でスタートアップの情報発信方法が課題となっている」と泉氏は語った。


 関西では万博をきっかけにイノベーションの動きが加速し、スタートアップに対して支援だけでなく産学連携によるオープンイノベーションが推進されている。

 三井住友銀行関西成長戦略室兼成長事業開発部部長であり、大阪公立大学客員教授の宮川潤氏は、「万博は単なる展示会の場ではなく、実は未来を考える場という位置付けである。多様な参加者による共創のプロセスであり、SDGsの達成と日本の飛躍に向けた契機にするため、様々な計画が進められている」と説明した。

 万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、2025年4月13日から10月13日まで約半年間開催される。

 3つのサブテーマもいのちをテーマにしており、People's Living Lab(未来社会の実験場)にしていくという。来場者数は2820万人、経済効果は1兆9千億円と試算されている。一方で、予定していた会場の建設費高騰という問題もあり、開催後は会場の夢洲(ゆめしま)にIR統合型リゾートを誘致する動きがある。

大阪・関西万博の概要
大阪・関西万博の概要

 円形の会場には世界各国からの公式参加をはじめ、日本国、自治体によるパビリオンが設けられる。民間ではバンダイナムコのガンダムパビリオンや吉本興業のパビリオンなどもある。また、2025年の事業開始を予定している空飛ぶクルマの発着所もあり、地域全体がスマートシティとして内閣府で認定されている。

会場配置図
会場配置図

 そして、こうした多様な事業の中で注目すべきは、共創パートナーとして誰もが登録でき、実際に万博会場内に展示したりオンライン上で発信したりできる場となる「TEAM EXPO 2025 プログラム」である。

「様々なことにチャレンジする2人以上のグループであればどんな組織でも登録できる。つまり、社会課題解決をバックキャスティング発想で考えられる良い機会であり、エコシステムの形で取り組もうとしている」と宮川氏は話す。

事業内容
事業内容

 関西メディアの毎日放送は、このプログラムに2019年から共創パートナーとして参加。吉本興業とSDGsソングを作ったり、MBSラジオやMBSテレビで万博に関連するレギュラー番組をスタートしたりしている。

 また、関西のスタートアップやベンチャー企業の発信力を支援するプロジェクト「REACH REACH」を2022年1月に発足し、共通課題である「発信力不足」の解決に特化した多様な活動を行っている。

毎日放送は万博の共創パートナーとして2019年から参加している
毎日放送は万博の共創パートナーとして2019年から参加している

 REACH REACH事務局の大西亮氏は「関西のスタートアップはユニークな社会課題に向き合っているにも関わらず、発信力が足りない」と話す。

 「そこでメディアに取り上げられる確率を上げる活動として、関西ローカルであっても今をときめくスタートアップ経営者にTOKIOの国分太一さんがマンツーマンでインタビューする『TOKIOテラス』という番組をレギュラーで放送。また、スタートアップを紹介するVTRをYouTubeにアーカイブ化し、発信に活用してもらっている」(大西氏)

関西スタートアップの情報発信を支援するエコシステム「REACH REACH」
関西スタートアップの情報発信を支援するエコシステム「REACH REACH」

 デンマーク発のアクセラレーターRainmaking Innovation Japanは、海外スタートアップのインバウンドとアウトバウンドのマーケットエントリーや、大企業とのコラボレーションをサポートしている。2019年から日本に進出し、Program Directorの木川菜都子氏は2021年10月から同社に参画し、海外スタートアップの日本進出支援をリードしている。

  「私たちは『企業家精神の力を解き放ち』をミッションに、様々な問題解決に取り組んでいる。その一つにスタートアップと大企業のコラボレーションがあり、Fortune 500の100社以上と世界で70以上の新規ベンチャーを創出し、10億ドル以上を資金調達してきた。グローバルなスタートアップへの投資を含めて約50億ドルの純資産価値を創出し、スタートアップ・大企業のPoC/パイロットは約81%の成功率となっている」(木川氏)

Rainmaking Innovation Japan のコンセプト
Rainmaking Innovation Japan のコンセプト

 セッションの後半はQ&Aを中心に進められた。

 「スタートアップの定義は?」という質問に対して、アクセラレーターやVCから見て最も重要なのは、スタートアップにカーブを描くような急成長が求められることだという。「それは1日目から利益を出すのではなく、時には赤字経営や低利益率が数年続いても成長を優先すること。ここが中小企業と形態が大きく異なる点である。」(木川氏)

 「また、日本は国内マーケットが比較的大きいため海外展開をあまり考えずに起業する方が多いが、そうすると日本のスタートアップの事業スケールや成長性が限定的。これにより、日本のスタートアップ市場における資金調達額やエクジットの際の時価総額がUK・フランス等のヨーロッパやシンガポールと比較しても大きく遅れをとっている。」とコメントした。(木川氏)

 関西と関東のスタートアップ業界の違いは? という質問に対し、宮川氏は「多分変わりはないはずだが、傾向として大学発が抜き出ており、特にライフサイエンス・ヘルスケア系と、ディープテック系の企業が多い」と回答。泉氏も「関西は製薬会社が多く、アストラゼネカやイーライリリーはいずれも神戸に拠点を置いている」と補足した。

 グローバルに出していきたいという流れの中で、国内で最も大きな国際イベントとなる万博にどう絡んでいくのかというのが大きな関心事になっており、これから気運が高まってくるだろうという意見が出た。

 「関西は地理的な利点を活かして、海外スタートアップや外国人起業家をどんどん誘致し、関西のスタートアップエコシステムの底上げや活性化を図れると良いのでは。こうしたグローバル・スタンダードのエコシステムを万博で広げていくのがポイントになると思う」(木川氏)

 関西で不足していると指摘されるスタートアップや起業家のコミュニティに関しては、「秀吉会」や「Booming!」といった取り組みが少しずつ生まれているが、さらにアドバイスがもらえる人たちとネットワーキングしたり、起業家が壁打ちできるタッチポイントを増やしたりしていくことが必要だろう、といったコメントもあった。

 泉氏は、「所属する大阪産業局ではスタートアップと万博を絡める企画を検討している模様」と紹介。大西氏は「万博は一つの通過点であり、終わった後も関西を盛り上げ続けるための施策をこれから具体的に設計していくことが課題である」と話す。

 宮川氏は「万博を旗印にするなら、取り組みが早すぎたり遅すぎたりしないちょうどいい頃合いでの取り組みが必要だ。そのためにもバックキャスティング発想が必要であると考えている」とコメントした。

 最後に、それぞれが注目するフィンテックやヘルスケア分野などの関西スタートアップの名前が紹介され、今後のエコシステムの成長にもつながるのではないかという期待と共にセッションは締め括られた。

[プロフィール]

フォースタートアップス株式会社
Public Affairs戦略室 室長
大阪産業局 スタートアップ・エコシステム Exective Advisor
泉 友詞氏

 大学ではスポーツ心理学/運動生理学を専攻。業務改善コンサルティング、金融業界を経てGMOインターネットグループにてデジタルマーケティング/事業開発領域を牽引。その後、創業期のネットジンザイバンク事業部(現フォースタートアップス株式会社)にて、VC/CVCと共に「人材」支援を中心とした成長産業支援事業運営に関わる。シニアヒューマンキャピタリストとして約2000名以上のヘッドハントを通じ、ユニコーン企業の創出に寄与。2016年9月1日に株式会社化後、約3年半でのマザーズ上場を達成した後、産学官連携を構築すべくPublic affairs戦略室を創設、室長に就任。中央・地方政府と共に日本の競争力強化に資するスタートアップエコシステム構築を推進。

株式会社三井住友銀行
関西成長戦略室兼成長事業開発部 部長
大阪公立大学 研究推進機構 スマートシティ研究センター 客員教授
宮川 潤氏

 20年超に亘り、TMT業界(テレコム・メディア・テクノロジー)を担当し、セクターアナリスト、大手電機企業・大手民生企業・大手ICT企業のリレーションマネジメント、M&A、コーポレート・アドバイザー業務を通じ、国内外の様々な案件を手掛ける。その後、SMBCベンチャーキャピタルにて、セクターバンカーとしての知見を活かし、投資先に対する経営支援業務、成⾧企業支援に従事。2021年2月より現職。2025年大阪・関西万博を見据えたイノベーションへの動きが加速している関西地域でのベンチャーエコシステム構築、産学連携を推進。

株式会社毎日放送
REACH REACH事務局(営業開発部エキスパート)
大西 亮氏

 関西学院大学総合政策学部卒。100社を超える関西のスタートアップ、ベンチャー企業との面会から、共通課題として「発信力不足」を痛感。自身の報道記者とテレビのセールス活動を通じて取り組んだ企業の課題解決の経験を生かし、関西スタートアップ、ベンチャー企業の発信力を支援するプロジェクト「REACH REACH」を2022年1月に発足。京都プロジェクトや、食に関する社内ベンチャーの立ち上げ、テレビ局の新規事業の創出など。既存のマスメディアの仕事内容にとらわれない多種多様な活動をしている。

Rainmaking Innovation Japan LLC.
Program Director
木川 菜都子氏

 タイ、ネパール、インドネシア、シリアで育ち、大学在籍中は休学してアフリカの南西部ナミビアにて国際機関でインターンに従事。インターンをしながら、日本人起業家のアフリカ起業をサポートし、その際に海外における事業の立ち上げに悪戦苦闘する。

 アフリカから帰国し大学を卒業後、外資系経営コンサルティングファームにて、5年間アフリカ・東南アジアを中心に大企業の新規市場開拓・事業創出プロジェクトおよびEU政府・内閣府・JICA・経産省等の政府案件も幅広く従事。 国内外の大企業、中小企業及び海外スタートアップを100社以上支援した。

 その後、SBIインベストメントにジョインし、主にアフリカのポートフォリオ拡大をリードするUSD900m(約1200億円)規模のグローバルファンド「4+5」より、アフリカおよび米国のスタートアップを中心に投資・ハンズオン支援を実施しながら、グローバルアクセラレーターStartupbootcamp Afritechにてスタートアップの育成・メンタリングを行う。

 2021年10月よりデンマーク発のベンチャービルダーRainmakingにジョインし、Startupbootcamp Scale OsakaのYear 3のプログラムディレクターとして、大企業と海外スタートアップのPoCを実行するプログラムを管轄。現在は海外スタートアップの日本進出支援をリードしながら、大企業とのベンチャービルディングに従事している。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]