「5Gは稼げない」からの脱却狙うSA時代の新構想「GSMA Open Gateway」とは--KDDI髙橋社長に聞く

 GAFAなどに代表されるテック企業は広告収入などが落ち込み、一時期に比べ元気がないように見えるが、それでもいまだに世界的な影響力は絶大だ。

 一方で、かつて、ケータイ向けにiモードなど独自にサービスを提供していた携帯電話事業者はスマートフォンが登場して以降、その存在感をGAFAなどに奪われつつある。

 毎年、スペイン・バルセロナで開催されている通信関連見本市「MWC」。今年も2月27日より4日間、開催された。MWCは通信事業者団体であるGSMAによるイベントだ。GSMAとは750社以上の携帯電話事業者に加えて、およそ400社の通信機器ベンダーやメーカーなどモバイル関連企業が参加する業界最大の団体となっている。

 今回、GSMAでは「GSMA Open Gateway」という構想を立ち上げた。KDDIを含む20の通信事業者が参画するという。

GAFAらの「インフラタダ乗り」に携帯キャリアが不満

 この「GSMA Open Gateway」とは何なのか。

 GSMAにおいて、日本で唯一のボードメンバーであるKDDIで代表取締役社長を務める髙橋誠氏によれば「OTTプレイヤー(インターネットを通じてコンテンツやサービスを提供する事業者)に携帯電話事業者が持つ機能をうまく使ってもらう仕組み」だという。


KDDIで代表取締役社長を務める髙橋誠氏

 そもそも携帯電話事業者は、グーグルやアマゾン、ネットフリックスなどのOTTプレイヤーの台頭に不満を感じていた。

 「特にヨーロッパの携帯電話事業者にとってみれば、莫大なライセンス料を支払って、電波を使い、ものすごいインフラ投資をして通信サービスを提供している。一方で、トップ6社のOTTプレイヤーによって、全体の6割のトラフィックが消費されていると言われており、ここに投資のギャップが発生していると指摘されている」 「携帯電話事業者はリスクを負って投資しているのに、OTTプレイヤーはリスクを追わずに大量のトラフィックを流し、商売して儲けている。ここに納得していない携帯電話会社がとても多い」というのだ。

 そんななか、これまでは4Gとの併用したネットワークであったが、これからは5G基地局に5Gのコアネットワークを組み合わせた「5G SA」という仕組みが一般的になろうとしている。

 5G SAにより「ネットワークスライス」という、論理的にネットワークを分割し、高速や大容量、低遅延など、ユーザーが必要とするネットワークの特性だけを提供するといったことが可能になる。

 例えば、ゲーム配信サービスであれば、ユーザーに対して、ゲームの画像を送るのは大容量ネットワーク、ボタンを押した処理や反応を返すのは低遅延ネットワークといったように、データの特性に分けて、ネットワークを使い分けられるようになるのだ。

 こうした機能をそのままOTTプレイヤーに提供してしまっては、うまいこと使われてしまい、携帯電話事業者には全く旨みが出なくなってしまう。つまり「投資したけどリターンが少ない」という、かつての二の舞になりかねない。

キャリア課金やネットワークスライシングをAPIとして提供

 苦汁をなめてきた世界の携帯電話事業者が作ったのが「GSMA Open Gateway」という構想だ。「5Gネットワークにおけるキャリア課金やスライシングなどをAPIとして提供して、OTTプレイヤーに使ってもらうつもり。そこで得られたビジネスをOTTプレイヤーと携帯電話事業者でシェアしていこうという発想といえる」(髙橋社長)。

 例えば、メタがこれから高品質なメタバースのサービスを5Gネットワークで提供しようと思えばスライシング技術は不可欠だ。機敏な動きを実現しようと思えば、MECという基地局の近くにあるサーバーで処理するのが理想だ。

 課金をしようと思えば、クレジットカードが選択肢になるが、クレジットカードの利用を敬遠するユーザーも多い。しかし、携帯電話料金と一緒に請求が来るのであれば契約したいという人もいる。OTTプレイヤーがサービスを成功させるには携帯電話事業者の技術や仕組みが欠かせない。

 髙橋社長は「かつてはOTTプレイヤーが登場してきたときには、携帯電話事業者はどのように対応していいかわからず、怯えていたかも知れない。しかし、いまでは水平分業が当たり前のように進んで、OTTプレイヤーと携帯電話事業者は敵対するのではなく、一緒にビジネスを展開するパートナーになっている」とコメント。

 また、「GSMAとして、世界の携帯電話事業者が一緒になって共通のAPIを整備することで、OTTプレイヤーは世界のどの携帯電話事業者でも同じAPIでビジネスができる。OTTプレイヤーに通信の機能を上手く使ってもらえるビジネスモデルを構築してシェアできるので悪い話ではないのではないか」と語る。

 これまで携帯電話の世界は垂直統合のビジネスモデルが根付いた業界であった。ネットワークに関しても、ノキアやエリクソンといった基地局ベンダーが提供する専用の設備を導入しなくてはならず、高額な設備投資が必要であった。

 しかし、いまではOpen RANとして、汎用サーバーなど、複数のベンダーの機器を組み合わせてネットワークを構築できるようになるなど、新しいプレイヤーが続々と通信業界に参入している。

 髙橋社長は「かつて、フィーチャーフォンがスマホになったことで、いろんなプレイヤーが出てきた。垂直統合モデルが水平分離になったときに、いろんな動きがある。いまは自動車業界も垂直統合から水平分業に変わろうとしてる。通信の世界は垂直統合から水平分業になることでますます新しい動きが加速してくるのではないか」と展望する。

 垂直統合から水平分離に生まれ変わる業界には、新たなビジネスチャンスが転がっているのかも知れない。

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