三菱重工業、JR東日本、住友生命保険らが語るオープンイノベーション成功のカギ - (page 3)

オープンイノベーションプログラムに参画する意義や成果とは?

 JR東日本は2020年8月にスクラムスタジオが立ち上げた「SmartCityX」、住友生命は2022年3月に立ち上げた「Well-BeingX」に参画している。プログラムに参画したきっかけやメリットについて、JR東日本の佐藤氏は次のように語った。

 「日本人にはグローバルな視点が欠けており、どうしても日本国内で考えてしまうと思う。でもイノベーションは世界規模で考えないと負けてしまう。そこで社内で実施したイノベーションに関する講演会に、シリコンバレーを始めとする世界のスタートアップに詳しいスクラムベンチャーズ代表の宮田さんに講演をしてもらい、そこで知り合った。その縁で実はこんなプログラムがあると伺って参画することになった」(佐藤氏)

 佐藤氏は「国内、国外、大企業、スタートアップ問わず、いろいろなパートナーと組む『全方位外交的オープンイノベーション』はこういうプログラムに入らないとできないと感じた」と語る。

 「国内、国外、大企業、スタートアップの4種類とも全部いいところがあるが、私達の会社でリーチしづらいのが海外のスタートアップだった。GAFAのような海外の大企業なら話したいと思えばできるが、スタートアップはそもそもどの国にどういう企業がいるかが分からないし、われわれのどのニーズとマッチするのかが分からない。それが『SmartCityX』に入った瞬間に手に取るように分かるようになった。例えば米Milesが日本に来るときも協業をさせていただいた。カメラとレーザー(3D LiDAR)で物体を検知してホームからお客様が転落するのを検知するテクノロジーを持つOylaというスタートアップがシリコンバレーにあることを知り、米国でも日本でも実証実験をやったりしている。こういうのはこのプログラムに入ってなければできなかった」(佐藤氏)

 住友生命の藤本氏はWell-BeingXの成果について、2022年12月に開催された「Well-BeingX Conference 2022」で発表した共創事案を紹介した。

 「不妊や妊活の相談サポートをされているfamione(ファミワン)とはもともとプレコンセプションケア(女性と夫・パートナーなど若い世代のためのヘルスケア)に関するサービスを一緒に開発していたが、たまたまWell-BeingXにも応募されており、『中高生の性教育から始めないとプレコセプションケアは普及しない』という議論になった。このプログラムに(東京都)渋谷区が入ったことで、スタートアップと大企業と自治体という座組ができあがった。もう一つは、ライオンさんがトモイクというスタートアップ企業と一緒に産休や育休の間の支援サービスを作るというので、当社も参加させてもらうことになった。自治体や参画企業同士、もちろんスタートアップ企業などいろいろな掛け算でN対Nの取り組みができるのがすごくいいと思う。ここにもっとたくさんの企業が入ってくれれば、もっと大きな価値創出ができる。自治体やアカデミアも入ったらいいと思う。これからどんどん成長していくプログラムで、すごく魅力を感じている」(藤本氏)

 三菱重工の五味氏は、スクラムスタジオとともにカーボンニュートラル実現に向けたプログラム作りを進めている状況だ。

 「われわれはカーボンニュートラル系のプログラムで伴走していただいているが、みんなで暗闇の森を裸足でダッシュしてるような感じだ。どこが突破口なのかも、いつ何にぶつかるかも分からないが、走らなければいけない。皆さんといろいろな知恵を出し合って、いろいろな角度からものごとを見られるのが非常にありがたい。スクラムスタジオはいろいろな業界やビジネスモデルのナレッジを持っていると感じることが多々あり、いろいろなアイデアを出してくれる。企業間でいい意味でディベートも含めた健全なディスカッションができるのは非常に価値がある。早く先輩方々に続いて成果を出したい」(五味氏)

「社会を良くしていきたい」そのために重要なこと

 今後達成したい目標について住友生命の藤本氏は「WaaSのエコシステムをみんなで作っていきたい」と語った。

 「2030年まではSDGsがグローバルアジェンダだが、その先は多分ウェルビーイングになると思う。SDGsは地球のグローバルの負の課題を解決して負の遺産を次世代に残さないという取り組みだ。2030年以降は正の遺産をどうやって残していけるかがグローバルアジェンダになると思う。そこに向けてWaaS新しい産業を日本発で生み出していきたい」(藤本氏)

 JR東日本の佐藤氏も「WaaSをコンソーシアム形式で一緒にやっていきたい」と応えつつ、「コロナ禍も含めて日本社会は疲弊してしまったが、実は日本の地方にはいいところがたくさんあることを発信していきたい」と語った。

 「鉄道は地方にも駅があるので、地方の駅をエコロジーの拠点やデジタルの拠点にするといったことをしたい。駅を拠点に地域社会のウェルビーイングを実現していきたい」(佐藤氏)

 三菱重工の五味氏が目指すのは「われわれの行動変容を促す仕掛け作り」だと語った。

 「目指すところはわれわれの行動変容だ。エネルギー(に対する考え方)やいろいろなサービスなど、行動を変えられる仕掛けをどうやって作れるかが重要になる。われわれが扱っているのはインフラが多いのだが、なんで電気があるのか、電気はどうやってできているのかなど、あまり気付かれない。でも気付かないうちに行動が変容していく、みたいなモデルを日本から発信できたらすごいことだと思うし、やれると思う。そこはコンソーシアムという形で皆が同じ方向を向いてやることが重要なので、WaaSはすごく大事なキーワードだなと感じた」(五味氏)

 最後に、大企業やスタートアップ企業、自治体など、オープンイノベーションに参加したい人たちに向けたメッセージが参加者から寄せられた。

 「スタートアップ企業も当社のような企業も、社会を良くしたいという気持ちは一緒だと思う。いろいろなチャレンジを繰り返して少しでも社会を良くしていきたい。そのときに『諦めないこと』と、『頼らないこと』が重要だと思う。スタートアップについ頼ってしまうのではなく、お互いが持っているものをどうやって最大限に引き出せるかが大事だと思っている。そういう空気をぜひ皆さんで作り上げていきたい」(五味氏)

 「今、当社とJT、博報堂、ライオン、東京建物でWell-BeingXに参加しているが、それだけだとウェルビーイングのすべてができるわけではない。ぜひここに大企業や自治体の皆さんに入っていただいて、スタートアップ企業と一緒にみんなで何かを作っていきたい。日本発の産業としてウェルビーイング産業を作っていきたい」(藤本氏)

 「われわれはSmartCityXの第3期に参加させていただくが、顔ぶれを見るとめちゃくちゃ面白いので、ぜひ入ってきていただけると本当に楽しいプログラムだし、日本を変えられると思う。JR東日本はオープンイノベーションをこれからもやっていくが、5年間で一つの活動を終えた。その取り組みを『新世代オープンイノベーション JR東日本の挑戦』という本にしたのでぜひご覧いただきたい」(佐藤氏)

左からモデレーターを務めたスクラムスタジオ シニアディレクターの上松真也、住友生命の藤本氏は、JR東日本の佐藤氏、三菱重工の五味氏
左からモデレーターを務めたスクラムスタジオ シニアディレクターの上松真也、住友生命の藤本氏は、JR東日本の佐藤氏、三菱重工の五味氏

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