三菱重工業、JR東日本、住友生命保険らが語るオープンイノベーション成功のカギ - (page 2)

重要なキーワードは「多産多死」

 大企業の中では、新規事業開発部門が何をしているのかが他部門から分かりづらくて理解されにくい部分がある中で、オープンイノベーションによる「成功」とは何なのか。その定義についての質問が出た。

 三菱重工の五味氏は、成功する上で重要なキーワードとして「多産多死」を挙げた。

 「目的や戦略を持って臨むのだが、いかに多くやるかがすごく大事だと思う。それによって本来見極めなければいけないポイントが、ある日ふっと見えてくる。ここを早く見つけるのが大事だ。そこで、今まで自分の会社にはなかった仕事のプロセスが出てくる。新製品開発も当社の場合は多くのプロセスがあるが、スタートアップ企業のようにそれをうまく飛び越えたスピードのある進め方には、われわれとして新しい学びと気付きがある。こういったことも、たくさんやらないと出てこない。駄目ならすぐに諦めて次に行こう、どんどん次に行こうと回転することが重要だ。真面目だと最後までやり切らないといけない、やり切ってもまだ最後までやろうとなってしまう。そういう風にやらなければいけない事業も当然あると思うが、新しい事業を生まなければいけないときにそれでは乗り遅れると思う。これからわれわれが作らなければいけない社会や世界は、今までのアプローチとは違うやり方が非常に大事だと思っている」(五味氏)

 住友生命の藤本氏は、「オープンイノベーションもイノベーションであり、新しい価値を生み出さなければ意味がない」と語る。

 「イノベーションは(イノベーション理論を提唱した)シュンペーターが言ったように『新しい結合』なので、スタートアップ企業が持つ素晴らしい技術やサービスをわれわれが使うだけではオープンイノベーションではない。われわれの持っているものとスタートアップ企業の持っているものを合わせて新しい第3の価値を生むのがオープンイノベーションの成功の定義だと考えている。どうせやるなら社会に新しい価値創造をもたらすことをやりたい。それで、スタートアップ企業もわれわれも、みんながウィンウィンになり、世の中にも役に立つことをやるという志を持っていきたい」(藤本氏)

 JR東日本の佐藤氏は、「社会実装した後が重要」だと語る。

 「われわれの会社では2017年にオープンイノベーションを進める『モビリティ変革コンソーシアム』を立ち上げ、現在は130社ぐらいに加入していただいている。JR東日本は駅や線路、ショッピングセンターなどのアセットを持っているが、テクノロジーは今ひとつ持っていない。そこでいろいろな会社に入っていただき、一緒に実証実験しようというコンセプトだ。はっきり言うと、PoC(概念実証・実証実験)までは簡単に行くが、問題はそこからだ。PoCから社会実装に行くことをわれわれは成功と定義しており、当社では東北で専用道を使ってバスの自動運転をするものや、駅にロボットを導入して人の代わりにロボットがお客様を案内するといった事例がある。しかし社会実装した後が実は大事だ。やってみたはいいが、誰も使われなくなるとか、誰がそれを使うの?みたいなアプリを出してしまうこともある。社会実装は一つの成功事例だが、その後、それをきちんとフォローして社会に定着させていくことを泥臭くやらないと、(実際の成功に導くのは)難しい」(佐藤氏)

 住友生命の藤本氏は、コンソーシアム形式はとてもいいスタイルだと反応した。

 「スタートアップ企業も大企業も複数企業が参画し、かつ自治体やアカデミア(学術機関)が入るなど、『1対1』より『N対N』の方が絶対に成功確率が上がり、大きな価値を生む形になると思う。だからとても一緒にやりたい。JR東日本さんと住友生命は両方とも『WaaS(Well-being as a Service)』を提唱しているので、その仲間を広げたい」(藤本氏)

 五味氏も「本当にその通りで、一企業でやると一つの目線しかなく、それだけでは何も解決できない」と語る。

 「世の中にはバリューチェーンがあり、その中に各企業がいろいろなところで貢献していることを本当は皆さん分かっているのだが、実際に自分で事業をやろうとするとどうしても自分のバリューチェーンの自分のポイントのところだけを考えてしまう。だけど皆さんがつながらないと実現できないようなエコシステムをこれから作ろうとしている。のだから、普段お付き合いのないような企業とやる方が新たな視点が見えてくるのではないかと思う」(五味氏)

ディスカッションの様子
ディスカッションの様子

オープンイノベーションに取り組み始めたきっかけ

 オープンイノベーションに取り組み始めたきっかけについて、「ブランディングの核になるものとして『健康増進型保険 Vitality』を作ったが、これが実はオープンイノベーションによるものだった」と藤本氏は語る。

 「生命保険というものは、リスクに『備える』ことはできても『減らす』ことはできない。今は『健康寿命』が重要になっており、リスクに備えるだけでなく減らしていく、あるいはさらにプラスの価値を生んでいこうと思うと、生命保険だけでは何もできない。そこでウェルネスプログラムをいろいろな企業と一緒にオープンイノベーションで作り、そこに保険が付く健康増進型保険を作った。そこで初めて、いろいろな企業のサービスや知見、技術と組み合わせることで大きな価値を生み出せることを会社として初めて理解した。次に会社として『ウェルビーイング』に行くなら、ウェルビーイングに関する新たなサービスをオープンイノベーションで作る必要があるということで、私が担当することになった」(藤本氏)

 JR東日本の佐藤氏は、自社がオープンイノベーションに取り組み始めたきっかけについて次のように語る。

 「日本が人口減少局面に入っていく中で、鉄道会社のビジネスモデルが崩れてしまう。そこで中期経営ビジョンを作る2017〜2018年あたりに、新しい技術をオープンイノベーションで取り込み、新しいビジネスを作っていこうと考えてスタートした。すると2020年にコロナ禍になってしまい、われわれが10年先に来るだろうと思っていた未来が急に来てしまったため、オープンイノベーションに拍車がかかっている。今一番やりたいのは『メタバース』だ。リアル空間の鉄道事業だけではJR東日本が立ちゆかなくなると思っているので、同じことをバーチャル空間でもやりながらお客様に楽しんでいただけるようにしていきたい」(佐藤氏)

 三菱重工の五味氏は、「2018年に20年後、30年後の世界を予測する『MHI FUTURE STREAM』という取り組みをしたのがきっかけだった」と語る。

 「日本は確実に人口が減る一方で世界人口は急増していき、デジタル社会はどんどん大きくなっていく。するとエネルギーの消費量が急増する未来が見えてきた。では、そのエネルギーは何で作らなければいけないのか。しかもCO2を出してはいけない。その課題をどう解決するかというときに、自社技術だけでいいのか、それで本当に成長できるのかというのが一つの起点だったと感じる。当社にも陸・海・空の領域で700種類ぐらいの製品があり、多産業でお客様を支援している。しかし同じ課題が同時並行で起きてしまうと一社で一つの技術開発では間に合わない。そうすると“多産”をしなければならなくなる。そこにはオープンイノベーションが大事になる。それが大きなきっかけだったと思う」(五味氏)

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]