NTT、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズは、NTTが独自に研究開発した海中音響通信の高速化を実現する技術を用いた共同実験を行い、水深30m程度の浅い海域における伝送速度1Mbps/300mを達成したことを発表した。
また、国産の産業用水中ドローンメーカーFullDepthの技術協力のもと、同社製「DiveUint300」を使用して、本技術に対応した「完全遠隔無線制御型水中ドローン」を実現。これは世界初だという。2022年12月14日に静岡県清水港で実施した公開実証の様子をまじえて、本技術の概要と意義を解説する。
いま、空中ドローンに続いて水中ドローンも、産業活用の道が模索されている。水中ドローンとは、有線で遠隔操作するROV(Remotely Operated Vehicle)や、無線で自律航行するAUV(Autonomous Underwater Vehicle)など、水中で働くロボットの総称とされることが増えているようだが、昨今は水中ドローンのなかでも比較的小型で取り回しやすいROVの活用が注目されている。
というのも、老朽化が進む港湾施設などインフラ設備点検や、海底ケーブルの保守点検など、浅海域にはさまざまな海中作業があるのに対して、従来その作業を担ってきた潜水士の高齢化や担い手不足といった課題が顕在化。また作業自体も人命を脅かす危険と隣り合わせであるために、遠隔操作できる水中ドローンを活用したいというニーズが高まっているのだ。
しかし、水中ドローンを有線で遠隔操作するには、実はケーブルさばきが非常に難しく、海中の思わぬところで絡まってしまったり、潮に流されて思うように機体を操作できなくなってしまったりと、「水中ドローンの無線化」を願う声は後を絶たない。
このようななか、NTT、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズは、海中音響通信の高速化を実現する技術を用いた共同実験を行い、水深30m程度の浅い海域における伝送速度1Mbps/300mを達成したことを、2022年11月1日に発表した。
もともとは、無線技術の研究開発を担ってきたNTT未来ねっと研究所が、約5年前から音波による無線通信技術の研究を開始して、海中音響通信の高速化を実現する時空間等化技術と、安定化を実現する環境雑音耐性向上技術を、独自に開発したという。
今回は、海中工事などで高精細な海中映像伝送や水中ドローンの遠隔制御が求められていることに着目し、この技術に対応した「完全遠隔無線制御型水中ドローン」を、国産の産業用水中ドローンメーカーであるFullDepthの技術協力のもとで実現した。そして、2022年12月14日に静岡県清水港で公開実証を実施して、本技術をお披露目した。
使用した機体は、FullDepth製「DiveUnit300」。通常は、地上のコントローラーから光ファイバーケーブルを介して機体に制御信号を送り遠隔操作する。オペレーターは、同じケーブル経由でリアルタイムに地上へ伝送される、機体前方のカメラの映像を見ながら操作する。
「完全遠隔無線制御型水中ドローン」は、DiveUnit300に音響無線通信用の信号処理装置と送受信2種のアンテナを取り付けて、また船上のオペレーター側にも、船から通信用送波器と通信用受波器を吊り下ろし、船上に信号処理装置を設置して、機体の制御信号とカメラ映像の両方を、無線で通信できるようにした。
公開実証では、港に停泊した船にオペレーションセンターを設けて、実際にオペレーターが機体を無線で遠隔操作して、鉄パイプの点検を実施する様子が披露された。沿岸部は構造物が多く音響が反射してしまうため、音響通信にとっては沖合よりもハードルが高かったが、水中ドローンのカメラ映像は、たまにノイズが出るものの思ったほどの遅延はなく、操縦者は「慣れは必要だが、操作可能な範囲内だ」とコメントした。
ちなみに現場は、海中の濁りが強く、視程1〜2mと、点検作業は難しそうな印象も受けたが、それは有線か無線かに関わりなく、カメラ性能や、取得した画像の鮮明化など、別の技術の話になってくるだろう。
本技術の確立を受けて、NTTとドコモは、「5G Evolution & 6G powered by IOWN」の超カバレッジ拡張を実現する非地上ネットワークに本技術を適用して、海中までカバレッジを拡張する検討を開始したという。
陸上のモバイル通信では一定のエリア内に多数のデバイスが接続して利用できる。将来的には、これに倣って、海中でも複数の水中機器と通信できるよう、また複数のエリアを機体が自由に移動しながらもシームレスに通信できるようにすることで、湾内など一定海域のエリア化も目指すという。
目下の課題の1つは、小型化と軽量化だ。本実証で使用された機材は、機体の下に取り付けた音響装置だけで70kg、機体と合わせると約100kg。人力で運ぶのにはかなり負担が大きくなるため、本実証ではクレーンから機体を吊り下げて海中に下ろしていた。DiveUnit300をはじめ、昨今の水中ドローンは、クレーンを使わなくても船から下ろすことができる取り回しのよさが魅力のひとつだ。クレーン船が不要になれば、運用コストの大幅な低減につながり、船舶からのCO2排出削減にも貢献できる。
今後は、今回のような技術実証から、利用事業者をまじえて実用化を見据えた実証へと、段階を移す。通信速度や画像解像度など、「どのレベルのスペックだと、どんな領域で、実用化の可能性があるか」探りながら、適正サイズや重量、ビジネスモデルの検討も併せて進めるという。ユーザー企業が参画した取り組みについても、引き続き注目したい。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」