水中ドローンとローカル5Gを組み合わせて、養殖業の生産性向上を目指す取り組みが、広島県江田島市で始まった。レイヤーズ・コンサルティング、NTT ドコモ、NEC ネッツエスアイ、東京大学(大学院情報学環中尾研究室/教授:中尾彰宏氏)は、 1月27日にオンライン記者会見を開き、同市内の牡蠣養殖場において海中状況可視化システム構築の調査検討を開始したことを発表した。
これは、総務省の「地域課題解決方ローカル5G等の実現に向けた開発実証」の一環で、期間は1月末から2月中旬を予定。ローカル5Gを活用して、陸上から水中ドローンを遠隔操作し、取得した高精細映像をリアルタイムに伝送することで、海中状況の可視化を図る。
牡蠣への付着生物や養殖場海底における堆積物を把握するほか、水温、塩分濃度、溶存酸素など水塊の状況をリアルタイムに可視化し、過酷な海中作業の担い手である潜水夫の労働環境改善や、海面養殖における生産性低下に歯止めをかけたい構えだ。
今回、使用する水中ドローンは「BlueROV2」(BlueRobotics製)と「FIFISH V6 Plus」(QYSEA製)の2機種で合計3台。陸上にいるオペレーターが、5G経由で船上に設置した送信機に機体制御指示を出し、そこからケーブルを伝って水中ドローンに指示が送られ、実際に機体が動く仕組みだ。同じように、カメラで取得した高精細映像データもケーブルおよび5G経由で陸上へリアルタイム伝送される。
取り組み体制は、総務省より本件を落札したレイヤーズ・コンサルティングが全体の調整を行い、ローカル5Gシステムの技術開発は東京大学、ローカル5Gシステム(基地局および移動局)環境の提供はNECネッツエスアイ、キャリア5G環境の提供はNTTドコモがそれぞれ担当した。広島県と東京大学は、情報通信技術に係る技術交流や学術交流の促進を目的とした連携協定を締結しており、全国的にも生産量トップを誇る牡蠣養殖において、まずは実験に着手したという。
水中ドローンを遠隔操作し、水中で取得した高精細な映像データをリアルタイムに伝送するためには、高速大容量、低遅延の5Gが必要になるが、まだ基地局が少ない。今回は、牡蠣養殖場沿岸にある能見ロッジにローカル5Gの基地局を設置し、半径500m程度の範囲で、海上におけるローカル5Gの通信品質を確認する。また、キャリア5Gとの共存環境における相互への影響を確認して、実運用に向けた考察も行う予定だ。
ローカル5Gの周波数は4.5GHz帯を使用した。水中ドローンのカメラで取得した高精細な映像を伝送するため、東京大学中尾研究室がカスタマイズし、アップロード性能を200Mbpsまで引き上げたという。中尾教授は「一般事業者が5Gを免許制で活用できるようになったことには大きな意義がある」と話したうえで、ローカル5Gの利点をこのように説明した。
「Wi-Fiはアンライセンスで乱立しているため不安定だが、ローカル5Gはライセンス制で通信が安定する。認証やセキュリティ面で、管理運用上のリスクが低い。また今回のように、アップリンク帯域を最適化するようなカスタマイズが可能なため、地域課題の解決を効率よく図ることができ、一次産業へのICT適用が進むなど革新の道が拓かれる」(中尾教授)
レイヤーズ・コンサルティングは、「農業、林業、水産業などの一次産業は、テクノロジーを活用したデジタルトランスフォーメーションの促進によって、有望な市場になると見ている」という。これまでの新規事業コンサルティングで培った「アイデアからプライシングまで」の知見を生かし、本実証を実際のビジネス化まで持っていきたいと意気込む。
水中ドローンを活用したセンシングは、人間が潜ったり水温計を部分的に設置するより、広範囲に渡り効率よくデータを取得できる。牡蠣のへい死(死滅)の主原因である「貧酸素水塊」の発生場所を迅速に特定し、そのエリアでのモニタリング映像から効果的な対策を検討し、迅速に対策を講ずることで牡蠣の生産性向上を図るという。
NECネッツアイは、「自治体独自のネットワークに、地域課題を解決するためのさまざまな自治体サービスを乗せていく、それがゆくゆくはスマートシティにつながっていく。また、ローカル5Gを活用すれば、もっと効率的な働き方を構築できる。これまでモバイルキャリアで培った知見を生かして、ローカル5G運用基盤となるプラットフォームサービスを提供していきたい」と、今回の参画の狙いを説明した。
また同社では、陸上養殖を手がけるネッツフォレスト陸上養殖株式会社を立ち上げており、「海の困りごとを解決しつつ、海中の状況を可視化するノウハウを、陸上養殖にも生かしていきたい」という。牡蠣のみならず、海苔、真珠、魚類など、幅広い技術転用も見込む。
将来的な展望としては、遠隔監視のみならず、たとえば重機を用いた清掃や、牡蠣イカダの移動といった遠隔制御による作業、さらには魚群探知など、水中ドローン×5Gのさまざまな可能性について言及された。
しかし、水中は電波が届かないためGPSを活用した位置測位ができないなど課題も多い。中尾教授は「自己位置推定は、本実証の内容には含まれていないが、今後取り組んでいくべき新たな課題だ」と話す。現場の声を尋ねると、30代など若手漁業者からの反応は上々とのこと。まずは牡蠣養殖での成功実績を示し、この取り組みがさらに拡大、高度化することに期待したい。
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