「日本のドローンメーカーACSL」が万国郵便連合に加盟--鷲谷社長が語る意義と展望

 国産の産業用ドローン開発を手がけるACSLは2023年1月16日、世界のドローン関連企業で初めて、国連の専門機関である万国郵便連合(Universal Postal Union、以下、UPU)に加盟したことを発表した。本加盟は日本の民間企業においても初めてだという。

 Eコマースの劇的な増加や物流の国際化が加速し、新たな技術としてドローンが注目されている。そんな中で、国際ルールを整備する場に唯一のドローンメーカーとして日本の企業が参画する意義は大きく、日本の国産ドローンが国際的な評価を得た証とも言える。

 そこで本誌は、ACSL代表取締役社長の鷲谷聡之氏に独占インタビューを行った。「2022年12月9日に、スイスのベルンにあるUPU本部を訪問し、いろいろと意見交換してきた」という鷲谷氏に、UPU加盟の経緯や意義、今後の展望について詳しく聞いた。

2022年12月9日、ACSL代表取締役社長の鷲谷氏(写真左)がUPU事務局長の目時政彦氏(写真右)を表敬訪問したときの様子
2022年12月9日、ACSL代表取締役社長の鷲谷氏(写真左)がUPU事務局長の目時政彦氏(写真右)を表敬訪問したときの様子

「100年待っても、巡ってこない」

 万国郵便連合、通称UPUは、1874年に設立されて以降、約150年の歴史を誇る国際機関だ。1948年に国連の専門機関となり、現在は192カ国が加盟し、郵便サービスのグローバルネットワークの維持や、加盟国間における国際郵便サービスのルール制定などを担っている。

 従来は、各国の行政機関や日本郵便など、公的に郵便サービスを提供する事業者のみ加盟できたのだが、2022年7月1日より、UPU直下の諮問委員会(Consultative Committee)に、民間企業もメンバーとして加盟できるようになった。

UPUの外観(提供:ACSL)
UPUの外観(提供:ACSL)

 その直後、ACSLは加盟に動いた。「総務省の事業に日本郵便さんと参画したことがある経緯から、UPUの加盟に関する素晴らしいご提案をいただき、是非参加させていただきいと回答した」と鷲谷氏は振り返る。翌週にはUPU Consultative Committeeの座長であるWalter Trezek氏と鷲谷氏がオンラインで会談。12月のUPU本部訪問を経て、UPUの公式サイトでもすでに「日本の上場ドローンメーカーであるACSLがゴールドメンバーとして新たに加盟した」と報じられている。

 「国連の組織に民間企業が加盟できる機会、ましてやスタートアップにお声かけいただけるなんて、100年待っても巡ってこない。すぐに加盟したい旨をお伝えした」(鷲谷氏)

 UPU公式資料によると、Consultative Committeeへの民間企業の新規加盟は、国の担当省庁や郵便事業体からの推薦状を得る必要がある。つまり、希望すれば誰でも加盟できるわけではなく、郵便サービスに関連する事業を行う企業が、各国の行政機関の許可のもとで参加できるという仕組みだ。

 鷲谷氏は「ちょうど2022年1月、UPU事務局長に日本郵便の常務執行役員だった目時さんが就任されたタイミングで僕らが参加できたことも、かなり意義深い」と付け加えた。

UPU本部で目時氏と談話する鷲谷氏(提供:ACSL)
UPU本部で目時氏と談話する鷲谷氏(提供:ACSL)

ACSL“抜擢”の「2つの理由」

 日本郵便が手がける新たな技術の活用はドローンに限った話ではない。なぜドローン、そしてACSLだったのだろうか。

 ACSLは2013年の設立以来、ドローンの自律制御システムを研究開発してきた。2017年には画像認識(Visual SLAM)を活用した自律制御技術を商用化するなど、一貫してハードとソフトの両輪での成長を目指している。2018年12月にはドローン専業企業として初めて東証マザーズ市場へ上場。現在も画像処理、AIエッジコンピューティング技術を使った自律制御技術の開発に注力している。

 日本郵便とは、まず2018年11月に国内初となる「レベル3」飛行を実施、さらに郵便局間輸送に対して機体を提供して、ともに成功させた。

 東京都奥多摩では、国交省から「補助者なし・目視外飛行を行う承認」を取得してドローンを飛行し、地上を走行する配送ロボットとの連携を図るなど、日本郵便が行うさまざまな実証で協働してきた。その上で、2022年12月には、3社共同で物流専用ドローンの新型機を発表し、2023年度中の国内初レベル4飛行を目指している。

2022年12月6日にお披露目された物流専用ドローン新型機
2022年12月6日にお披露目された物流専用ドローン新型機

 鷲谷氏は、「ACSLがUPU加盟にお声かけいただいた理由は2つあると考えている」と語る。

 「1つは、公的郵便サービスを手がける日本郵便さんと、単発でのドローン実証ではなく、ドローン配送の実現に向けて資本業務提携を結んで、機体の共同開発も含めて郵便サービスの発展に向けてしっかりと取り組んできたこと。

 もう1つは、UPUもドローンには新たなテクノロジーとして常に注目していること。彼らは過去に英国で離島間ドローン物流の実証を行ったときには、まだ時期尚早でスタンダダイゼーションに発展することはなかったけれども、期が熟したいまこそ、本格的に取り組みたいという意向が高まっていることだ」(鷲谷氏)

 これまでの日本郵便との取り組みの積み重ねと、技術の成熟、国際物流に求められる新たな技術の活用とそれに伴うルールメイキングの必要性が “うまくハマった”と、手応えを滲ませた。

 ちなみに、鷲谷氏は日英バイリンガルでUPUでのプレゼンや議論においても語学障壁が全くない。ACSLの開発部隊も、クリス・ラービCTOを筆頭に外国籍エンジニアが多く、社内の使用言語は日英デュアルだという。「僕らがインド、アメリカ、シンガポール、ASEANとグローバルに事業展開していることも、UPU加盟につながった一因かもしれない」(鷲谷氏)

UPU本部で会社紹介や取組実績などをプレゼンする鷲谷社長(提供:ACSL)
UPU本部で会社紹介や取組実績などをプレゼンする鷲谷社長(提供:ACSL)

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