UPU加盟の意義を聞くと、鷲谷氏は「UPU本部での議論で、すごく面白いなと思ったことがある」と切り出した。ドローン物流は各国の郵便事業体がさまざまな実証を行っているが、「ドローンが郵便事業で国境をまたぐとき」のルールメイキングは、まさにこれからなのだ。
例えば、南米大陸の北に位置するカリブ海。7000もの島から構成されるカリブ諸島は、10カ国以上にまたがる。今は船で国際郵便物を運んでいるが、ドローン物流で国境を飛び越えて届けたほうが早いケースは多く、脱炭素への要請からもドローン活用へのニーズは高い。
「ドローンを飛行させるときに関連する航空法、電波法など、各国間で異なるレギュレーションを、国際物流としてどう標準化していくかは、今後大きなテーマになってくると思う」(鷲谷氏)
また、Eコマースが激増するなか、現在の国際郵便の仕組みでは、各国内で決められた国際郵便を取り扱う物流拠点を経由して、正規のルートに従って配送しなければならず、結果的には陸路でかなり遠回りすることが多い。
「ドローンは、国境があるようでないような、新しい技術。ドローンを使ったオンデマンドデリバリーを本当に実現しようとすると、やはり既存ルールの見直しが必要になる」(鷲谷氏)
機体メーカーであるACSLがUPUに加盟する意義について、鷲谷氏はこのように整理して述べた。
「UPUに加盟する意義は、大きくは2つある。1つは、これからできるルールを、ドローンが普及しやすいようなものとして作れるようになること。例えば、先ほど話したカリブ海の国際ドローン輸送が認められてルールができれば、僕らからすると市場がアンロックされるということで、これは各国のドローンメーカーにとって意義深いことだと思う。
もう1つは、新たなルールを検証していくときに、実証実験や検証プロジェクトが走る。そこに参画することで、その地域や国の郵便事業体との繋がりを深めて、僕らの事業に還元していくこと。前者は労力はかかるがドローンの普及を邪魔しないようルールを作ることで事業拡大の素地を整える、後者は売上に直結していくという、2つの意義がある」(鷲谷氏)
さらに鷲谷氏は、「日本のドローンメーカーがUPUに参画する意義もかなり大きい」と強調した。着眼点は、「ドローンはGPS座標で飛行する」という点だ。
欧米ではメイン通りに沿って左右に番地が振られているため配達業務もシンプル。一方、日本は一定の区画ごとに、一見するとランダムで非合理的に番地が振られているところに配達するため、配達業務が煩雑になりがちだ。しかし、日本郵便はどの配達員も間違いなく時間通りに配達でき、区画内の番地が更新されても、その配送クオリティを維持できるという、膨大なノウハウを持っている。しかも、途中で箱が壊れたりすることもない。
そして、GPS座標で飛行するドローン配送には、欧米的な通りに沿ったルート飛行よりも、日本的な区画概念のほうが効率的でマッチするという。鷲谷氏は「だからこそ日本がリードすることに意義がある」と話す。
「いまの実証は1対1の配送なので、ピンとこないかもしれないけど、多数配送するようになると区画ごとに飛ぶということになってくるので、日本郵便さんの知見がすごく生きてくると思う。国際ドローン物流においても、日本郵便さんの知見をグローバルスタンダードに生かしていきたい」(鷲谷氏)
今後の具体的な活動について、まず直近では、Consultative Committeeで設けられている6つのワーキンググループのうち、「FREIGHT AND TRANSPORT(貨物輸送)」に参画したいと考えており、自動運転など他の新技術を提供する企業と議論を整理していくなかで、ドローンについてリードしていくという。
また、2023年春にUPU本部で開催される4年に1度の「大会議」に合わせて、新興国をはじめとする他国の郵便事業体に向けて、日本の取組を発信するためのシンポジウムを、同じタイミング同じロケーションで実施したい意向だ。
将来的に、他のグローバルドローンメーカーがUPUに加盟する可能性もゼロではないが、郵便事業体との取組がない限り、今後もUPU加盟は考えにくいという。「FAA(アメリカ連邦航空局)や、ICAO(国際民間航空機関)のように、航空機のルールを定める機関の議論に、ドローンメーカーが加わるというのは、自分たちの規制に関わることなので参加して当たり前だと思うが、飛べるようにするだけじゃなく社会実装していくために必要な標準化にもきちんと関与していくことは、産業を創るために不可欠なアクションだと考えている。UPUはICAOとも意見交換ができる立場。ACSLは、上場企業としてグローバルでも責務を果たしていきたい」(鷲谷氏)
中長期的には、カリブ海やASEANなど島嶼地域などでの、国際ドローン物流の実証実験への参加を目指すという。新たなルール策定のリード、国外における事業の新たな基盤づくりも、着実に進める構えだ。
もしかすると、かつてUPUがドローン物流の実証を行ったイギリスなども、実証の候補地としてあり得るかもしれない。鷲谷氏は、「Consultative Committeeのドローンへの思い入れも強い印象だ。さっそくUPUでのドローンに関する取組の資料やリンクを共有いただけている」と明かした。
最後に、鷲谷氏自身が飛ばしたいエリアを尋ねてみた。「フィリピンなど津波や台風の被害で本当に困っている方のところへ、ドローンで物資を届けるのは社会的な意義も大きいので絶対にやりたい。一方で個人的には、エーゲ海に浮かぶサントリーニ島で、日本郵便さんの赤い機体を飛ばして、あの風景にドローンが溶け込んでいる絵を発信したいなと思う。世の中、一般の方々のドローンに対する認識や印象をもっとガラリとよいものに変えていくことも、ドローン業界全体で取り組むべき喫緊の課題ではないだろうか」(鷲谷氏)
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