日本郵便とACSL「物流専用ドローン」お披露目--2023年度中に機体認証とレベル4飛行を

 日本郵便、日本郵政キャピタル、ACSLは12月6日、物流専用ドローンの新型機を発表した。3社は2021年6月に資本業務提携を締結し、ドローン配送の実用化に取り組んでいる。今後は、12月5日の改正航空法施行によるレベル4解禁を受けて、2023年度中の機体認証とレベル4飛行の実証を目指し、2023年度以降に実用化を狙う見通しだ。

(左から)ACSL代表取締役社長の鷲谷聡之氏と、日本郵便の専務取締役 兼 専務執行役員の金子道夫氏
(左から)ACSL代表取締役社長の鷲谷聡之氏と、日本郵便の専務取締役 兼 専務執行役員の金子道夫氏

物流専用ドローン新型機「5つのこだわり」

 日本郵便とACSLの協業は2017年にさかのぼる。最初の実証実験では、飛行中に不具合が生じてパラシュートで不時着するトラブルに見舞われたが、2018年には日本初のレベル3飛行に成功。2019年には個人宅へのドローン配送、2020年には郵便物配送、2021年には資本業務提携、と着実に歩みを進めてきた。

 
 

 12月5日、改正航空法の施行に伴い、レベル4(有人地帯における補助者を配置しない目視外飛行)が解禁となった。ACSL代表取締役社長の鷲谷聡之氏は「これまでは無人地帯での飛行だったが、これからは私たちの生活の近くにドローンを享受できるようになる。これは、大きな、大きな一歩だ」と挨拶した。

 また2022年は、ドローン業界にとって歴史的な年であるだけでなく、奇しくも郵便サービスが専用車両を使って輸送を開始した、記念すべき100年目だという。鷲谷氏は「郵便サービスにとっても節目の年に、専用車両から専用ドローンへと移行していく」と語りかけ、両社で手がけた物流専用機をお披露目した。

新型機お披露目の様子


 日本郵便の専務取締役兼専務執行役員の金子道夫氏は、「今日は、3社が提携した成果の1つとして、物流に特化したドローンの新型機を発表した。今後も新しい技術と物流の融合を図る取り組みを強化していきたい」と挨拶した。

日本郵便 金子氏
日本郵便 金子氏

 鷲谷氏は、「新型機のこだわりポイントは、大きくは5つある」と言う。第一に「デザイン」。生活に馴染むドローン、頼りになる空のパートナーとして、親和性や愛着を訴求した。

 確かにお披露目は、機体の“表情”が印象的な演出だった。「顔がついているドローンは、いまだかつてない。道路や民家の上空を飛行するドローンが、可能な限り、可愛らしく、愛くるしく、社会に溶け込んでいけるように」と鷲谷氏は想いを語った。デザインはTakumiYAMAMOTO氏が担当した。

 
 

 続けて、鷲谷氏は開発でこだわったポイントとして、「信頼性」「ペイロード」「飛行性能」「利便性」を挙げた。

 「レベル4を前提として設計し、認証も取得して、安全性や信頼性が担保された機体だから、生活環境に溶け込んでいく。また物流専用機としては、従来機体と比較して、ペイロード(積載重量)は2.5倍、航続距離は3.5倍を実現した。そして、物流の受取手、担い手の両方にとっての利便性や、運搬性にも考慮した」(鷲谷氏)

 
 
ACSL 鷲谷氏
ACSL 鷲谷氏

「郵便局間の輸送」も視野に

 発表会の後半は、鷲谷氏と日本郵便オペレーション改革部部長の西嶋優氏が質疑応答に応じた。そのなかで西嶋氏が明かしたのは、ペイロード2.5倍、航続距離3.5倍という、想定以上の仕上がりへの期待だ。

 「これまでは、郵便局から各家庭への配達を念頭に置いて、オペレーションを考えていたが、かなり長距離を飛べるようになったものだから、郵便局から30km離れた別の郵便局への飛行も可能になる。従来、検証を行ってきた配達に加えて、輸送にも活用していきたい」(西嶋氏)

質疑応答中の西嶋氏
質疑応答中の西嶋氏

 最初は、山間地域や離島間、あるいは千葉県房総半島など、なるべく人が少なく、道路では大回りになるが直線距離では近いようなエリアから、飛行する予定だという。西嶋氏は、「ドローン配送の一番のメリットは、地形や道路に左右されず、直線距離で移動できること」だと強調した。

 そのうえで、将来的には公共交通のように、移動の速さや、多少遅くても安いなど、配達サービスでも選択肢を提供するために、直線距離で移動できるドローンは非常に魅力的だという見解を示した。

質疑応答中の鷲谷氏
質疑応答中の鷲谷氏

 鷲谷氏は、機体の性能を向上できた理由を問われると、機体の形状はもちろん、空力シミュレーションを繰り返して工夫したことを明かした。

 「従来の機体は、ドローンが前後上下左右に移動するゆえに、プロペラと筐体が中心を軸にしてすべて対照になるよう設計していたが、物流ドローンは進行方向に向かって最適化することが重要。物流に特化して設計し、ボディは流線型にした。また、運べる重さを増やせるよう、機体重量や積載重量と飛行時間の最適なバランスを見出した。さらに、空力シミュレーションを行うことで、飛行中に生じた気流からより大きな揚力を得られるように工夫も施している」(鷲谷氏)

物流ドローンが前傾姿勢で飛行する様子
物流ドローンが前傾姿勢で飛行する様子

 今後、両社は2023年度中のレベル4飛行の実証実験を目指すという。ACSLは12月5日、レベル4前提で設計し直して、基盤やセンサーなども選定から見直した機体について、機体認証申請を完了しており、2022年度中の飛行を目指しているという。ここから得られた知見を、物流専用の新型機にもフィードバックし、同様にレベル4の認証を取得して、2023年度中にレベル4の実証実験を行う予定だ。目下、地形などを考慮しながら、飛行エリアを検討中だという。

 鷲谷氏は「実際に郵便の配送事業をされる方の動線や業務フローまで、日本郵便さんのチームと意見交換しながら、利便性向上に取り組んできた」と話す。レベル4が解禁された社会において、いかにドローンを実装するかを見据える。

 西嶋氏は「飛行中の通信など技術的な課題、荒天時などを含めた運用体制、費用対効果、この3つが実用化の鍵になる」と話しつつ、2023年度以降の実用化に意欲を示した。

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