テレワークが広まるにつれて、「ワーケーション」という言葉も随分浸透してきました。ただし、ワーケーションには大きく2つの壁があると思います。業務的にテレワークに適しているかどうかという壁と、家族構成的にテレワークに適しているかどうかという壁です。
そこで今回の体験レポートでは、共働き夫婦と2歳の息子が、「保育園留学」という仕組みを使って北海道で3週間のワーケーションに取り組んだ記録をお届けします。
まず、我が家についてご紹介しましょう。私は東京都在住でPR会社を経営しています。会社といっても気楽な一人会社で、東京を中心に、名古屋、大阪などの企業や大学の広報をお手伝いしています。事実婚の夫はIT会社に勤務しながら個人事業主としても複数の案件を抱えるウェブエンジニアです。2人とも、日常的にテレワーク中心の働き方をしています。そして、私たちの息子は2020年生まれの2歳で、生後5カ月から都内の保育園に通っています。
冒頭に“2つの壁”の話をしましたが、「夫婦ともにテレワークできる仕事だけど、小さい子どもがいるから難しい」と考えるご夫婦も多いのではないでしょうか。ある程度の年齢の子どもなら「一人で遊んでいてね」で済むかもしれませんが、未就学児となると話が違います。共働き夫婦向けのワーケーションプランとして、子ども向け体験プログラムなどを用意しているケースもありますが、我が家のように2歳児となると親から離れての参加は難しく、一時的な託児サービスにも限界があります。
もともと旅行好きカップルである我が家は、私の出張先に家族を呼び寄せたり、土日と金曜または月曜で旅行に行ったりという形で、度々ワーケーションに出向いています。しかし、どちらか片方がオンライン会議に入ったり、集中したいときは、もう片方が子どもとお散歩に行ったりと、二人同時に集中して仕事をするのは難しいというのが現実でした。結局、相手への罪悪感と子どもかわいさから、仕事は程々に旅行モードに突入してしまいがちでした。
そんな私たちが飛びついたのが保育園留学という取り組みです。これは、食と暮らしに関する事業を手がけるキッチハイクさんが北海道厚沢部(あっさぶ)町と始めた取り組みで、2022年12月末日時点で、北海道厚沢部町、熊本県天草市、新潟県南魚沼市、岐阜県美濃市の4つの地域で受け入れを行っています。
簡単に説明すると、自治体が用意した住宅に家族で1〜3週間暮らし、日中は子どもは地元の保育園に通い、親はワーケーションをする。夜や休日は旅行のように非日常の暮らしを楽しむというものです。利用者側のメリットだけでなく、受け入れ側にも、関係人口の構築や、経済的メリットがあります。
2022年9月末から10月中旬までの3週間、私たちは厚沢部で暮らしました。「あっさぶ」という地名を初めて聞くという方も多いと思います。函館から北に自動車で1時間くらいの場所になります。東京からなら飛行機とレンタカーで向かう方がほとんどだと思いますが、旅行好きな私たちは、自家用車で東北道を北上して、岩手県一関市で一泊してから津軽海峡フェリーで北海道入りしました(なお、帰りは苫小牧からフェリーで茨城県大洗港まで一気に帰りました)。
厚沢部に着くと、地元での暮らしをサポートしてくださるスタッフに3週間滞在する家まで案内してもらい、地域情報やゴミ出しのルールなどの簡単な説明を受けて、厚沢部の暮らしがスタートです。
まず、一般的な平日1日の流れをご紹介します。
お迎え以降は、公園で遊んだり、買い物に行ったり、外食に行ったり、温泉に行ったりして、大体23時くらいには就寝、という生活をしていました。仕事が忙しいときは16時半以降もどちらかが仕事をして、どちらかが公園で子どもと遊ぶなどして、お互いをフォローしました。
通常のワーケーションと違い、日中は子どもが保育園にいるので、親は揃って仕事に集中できます。真新しい環境で、仕事もはかどりました。東京では9時半から18時半までが保育園の時間なので、働ける時間としては1時間減ってしまいましたが、「せっかく北海道に来ているんだから、お昼は地元のものを食べたいし、夜は子どもと遊びたい」という思いで、集中して仕事をすることができました。インターネット回線もワーケーション用に整備されていたので、オンライン会議なども全く問題ありません。家を借りているので東京からの郵便物や宅急便も通常通り受け取れます。
お昼時になると、休憩と称して地元散策です。近くの道の駅や、地元の人が通う定食屋、ガイドブックにも載る名物カレー屋さんなどを巡りました。
また、地方の魅力のひとつに、「温泉」があります。我が家は3人揃って温泉が大好きなのですが、厚沢部も、車で30分以内の地域に複数の温泉があり、保育園のお迎えの後は、大体地元の温泉に行ってから、外食をしたり、家で自炊したりしていました。
厚沢部自体は内陸の町ですが、車で西に5分ほど行けば、江差(えさし)町、乙部(おとべ)町など、海の町です。海の幸は、やはり絶品でした。厚沢部にある、「Google Maps」に何も投稿されていないようなローカルな居酒屋なども開拓しましたが、これも非常に美味しかったです。「地元の人しか行かない居酒屋を開拓できる」というのは、短期の旅行では味わえない魅力かと思います。
もちろん、自炊もしていました。所変われば食も変わります。地元の人にいただいたお野菜や、近所の美味しいお肉屋さんで買ったラムを使ったジンギスカン、スーパーで見かけた珍しい魚など、キッチンでも地域の魅力を存分に楽しみました。
そして、お楽しみの休日です。私たちは3週間厚沢部にいたので、その間に2度の土日、計4日の休日がありました。ある時は、厚沢部を起点に北ルートでぐるっと渡島(おしま)半島を回り、江差町、乙部町、せたな町、今金町、長万部(おしゃまんべ)町、八雲町、森町を回りました。道中、地元の方が教えてくれた川の中に湧く温泉に立ち寄ったり、海女さんたちが営業する飲食店で巨大なホッケを食べたりしました。
またある時は、南ルートで、江差町、上ノ国町、松前町、福島町、知内(しりうち)町、木古内(きこない)町、北斗市、函館市などを回りました。松前城や、青函トンネル記念館など、地元の名所をじっくり回ることができました。このほかにも、七飯(ななえ)町の牧場で生まれたての子牛を見たり、搾りたての牛乳を飲んだりしました。鹿部(しかべ)町では名物のたらこ丼や間欠泉を見ました。このあたりの地理に詳しい方ならピンと来るかもしれませんが、滞在中、渡島半島にある自治体はすべて回ったことになります。
もちろん、厚沢部町の魅力に触れるプログラムも用意されています。私たちは家族で地元農家さんのところでアスパラ刈りや、草木染の体験をさせていただきました。こういった体験を通じて厚沢部町の魅力を知り、地域の人達とふれあい、保育園留学が終わった後も継続的に関係性が続く工夫がされています。
このように、私たちのワーケーション体験は大満足の内容となりました。写真で見ると、食べたり遊んだりしてばかりですが、仕事もしっかりはかどりました。私はこの期間中に決算も迎えましたが、テレワークでも特に問題なく、複数の案件を抱えながら新規案件の受注もできました。遠隔ではありますが、記者発表会の運営支援などもできました。
最後に、保育園留学が子どもに与える影響についてまとめて、この記事を締めくくろうと思います。
以前から子どもの教育方針については色々と考えることがありました。これからの時代は、形だけの学歴よりも、地頭の良さや経験値の抱負さ、意思の強さなどが問われる時代だと思います。では、子どもにしてあげられることは何だろう、と思って導き出した答えが、「年齢や性別、国籍を問わずたくさんの人に会わせること」と「日常とは異なる環境を多く経験させること」でした。ワーケーション体験を超えて、東京の保育園とは全く違う環境に滞在させる保育園留学は、私にとって教育上の理想でもあります。
「2歳児の記憶に残るの?」なんてことを聞かれることもありますが、この原稿を書いている横で、息子は写真を見ながら「牛さんに会ったねー!」「僕、ここの公園だーいすき!」「またみんなで遊ぼうねー!」としきりに言っています。
また、日常ではできない経験は、確実に息子を成長させています。新しい環境に行くと、自分のことを説明したり、人の話を聞いたりする機会が増えます。保育園留学に行ってから、息子の会話の内容も、単語の羅列から、順序立てたり、説明をしたりするようになった気がします。これは、新しい環境で自分のことを話す機会が増えたからなのではないかと思っています。大好きな先生や、新しいお友だちもたくさんできました。
すっかり保育園留学の仕組みにハマった私たちは、実は保育園留学以外でも、地方の自治体さんにお願いして地元の保育園に通わせていただく取り組みを開始しています。2022年は、福島県西会津町に2週間滞在しました。2023年も、同じく西会津町と、北海道の室蘭市さんのお世話になることが決まっています。また、保育園留学の方でも、熊本県天草市に行くことが決まっています。厚沢部も、2023年後半に再訪問できればと考えています。
これからも、ビジネスに全力投球しながらも、親子揃って日本全国、そして世界中を越境して回りながら、さまざまな人や文化、価値観に触れていきたいと思っています。私たちの体験が、小さなお子さんのいるご家庭のワーケーションの参考になれば幸いです。
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