Suica「2万円の壁」の行方は--QRやクレカ乗車などの『ライバル出現』でも続く進化を考察 - (page 3)

技術的には別の形に進化するSuica

 コロナ禍で通勤需要が減少し、特に“定期券”のビジネスが岐路に立っていることはよく指摘される。複数の交通事業者に聴き取りを行っていると、2019年以前の水準に対し、よくて7〜8割程度の回復しか見込めないというのは各社の共通認識で、相次ぐ運賃や定期券の値上げはそれを反映したものだ。

 Suicaの場合は「VIEWカード」によるオートチャージが利用の源泉になっている部分も大きかったが、定期券としての需要の減衰は、電子マネーとしてのSuicaの利用機会の減少につながる。ただ、JR東日本を含む10の交通事業者が今年2022年7月に出したプレスリリースでは、1日あたりの利用件数が1000万件を突破したことを報じており、コロナ禍に突入する直前の2019年8月の900万件の水準から、上昇ペースこそ落ちたものの、伸びていることが確認できる。

交通系ICカードの1日あたりの利用件数は1000万件を突破
交通系ICカードの1日あたりの利用件数は1000万件を突破

 JR東日本は同社の中期計画でたびたび触れているが、Suicaを使ったビジネス創出を事業基盤の1つに据えている。Suicaを使って人が移動することで、チャージされた電子マネーを乗り物や買い物で消費し、さらにはホテルやオフィスの入退館システムなど、移動に付随するさまざまなサービスを利用するための“鍵”として活用できないかと考えている。サービス自体の利便性向上はもちろんだが、利用機会が増えるほど、それを用いた周辺ビジネスが活発化するという流れだ。

 こうした循環を作るため、Suicaを活用したビジネスを構築するスタートアップ企業の支援に加え、エキナカのみならず、Suica利用可能エリア拡大が目標の1つになっている。エキナカの活用では、買い物額に応じたJREポイントでのポイントバックを行うなど、商業施設のSuicaを通じた活発利用を想定する。また2023年5月には、北東北3エリアの計45駅でのSuicaの利用をスタートするなど、Suica商圏を首都圏や大都市のみならず、地方都市にまで拡大しようとしている。

 エリア拡大の一助となっているのが、「改札機のクラウド化」だ。従来までSuica改札機の導入の大きなハードルだった、各駅ごとのローカルでの検札処理を簡素化し、クラウドによるセンター集中方式へと移行することで、コスト削減を実現している(ここでいう“クラウド”は“パブリッククラウド”ではないので注意)。駅ごとのローカル処理というのがSuicaのスピード処理の秘密ではあったわけだが、これをクラウドに移行しても問題ないほど通信技術が進化したというのが大きい。なお、前述のEMVオープンループやQRコード改札もこの「クラウド処理」が前提になっている。

 つまり、現状のSuicaは徐々に新方式であるクラウドに内部的には移管されつつあり、QRコード改札機が設置されるエリアの拡大は、それが徐々に浸透していくことを意味している。見た目上は従来通り”Suica”なのだが、その実は中身はまったくの別物へと変貌しつつあるのが現状の”Suica”だといえる。

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