オーディオ業界で長い歴史を持つゼンハイザーは、2022年3月に大きな転換期を迎えた。コンシューマーエレクトロニクス部門の開発、製造、販売をスイスの補聴器メーカーであるSonova(ソノヴァ)へ売却し、移管。新体制でのスタートを切った。オーディオハイブランドとして知られるゼンハイザーがこれからどんな進化を遂げるのか。また、長くオーディオファンに親しまれてきた高音質、高品質のものづくりはどのように継承されるのか、Sonova AG GVP Consumer HearingのMartin Grieder(マーティン・グリーダー)氏に聞いた。
――まず、ゼンハイザーのコンシューマーエレクトロニクス(CE)部門を買収したソノヴァについて教えてください。
ソノヴァは、スイスのシュテファに本社を置く、聴覚ケアソリューションを提供する会社です。補聴器、人工内耳、ワイヤレス通信製品などを扱っていて、創業は1947年。世界100カ国を超える拠点で1万7000人以上が働いており、フォナック、ユニトロンといったブランドを展開しています。
――確立した補聴器ブランドを持ちながら、イヤホンやヘッドホンといったゼンハイザーブランドはどう取り扱っていくのでしょう。
ゼンハイザーが持っている技術には今後も変わらず投資し、技術力を強化していく計画です。それに加えて、ゼンハイザーのブランド名でヒアリングソリューションのビジネス拡大にも努めていきたいと考えています。ブランドを置き換えるのではなく、ソノヴァが手掛ける製品をゼンハイザーブランドで発売することも考えています。
ゼンハイザーブランドは、人気が高くみなさんご存知ですよね。しかし、フォナックやユニトロンブランドを耳にしたことがある人は限られます。ゼンハイザーという認知度の高いブランド名を使うことで、私たちが今まで扱ってきたブランドでは得られなかった、新たなユーザーを獲得していきたいです。
――全幅の信頼を寄せるゼンハイザーブランドですが、ほかのヘッドホンブランドにはない魅力と言えば。
ブランド力の強さですね。過去75年以上に渡り、高品質、高音質を世に広く知らしめてきました。独自のトランスデューサー技術も高い人気を誇り、みなさんゼンハイザーと聞いたら高品質かつ、音質に優れているというポジティブなイメージを持ってくれるでしょう。
中でも、クリアな高音質再生はずば抜けていると思います。私自身、以前は別のブランドのイヤホンやヘッドホンを使っていましたが、ゼンハイザーのモデルを聴いてみたら、今まではとは比べ物にならないくらい音質がいい。ゼンハイザーの製品は、アイルランドの工場で一貫生産していますが、トランスデューザーを始め、技術的な強みは見逃せません。
――日本のオーディオファンについてはどう捉えていますか。
日本は非常にいいマーケットですね。日本のファンたちは品質に厳しく、多くのリクエストをくれます。これに対し、私たちは背筋を正して、より良いものを作り上げていかなければならない。真摯な姿勢で向き合える市場だと捉えています。
日本のユーザーは、ほかの国のユーザーでは気が付かないような細かな問題に気が付き、それを指摘してくれます。指摘を受けて調査してみると、皆さんが言っている通りということが本当に多い。今までもそれによって改良や改善を加えてきました。今後もそうした意見にはしっかりと耳を傾けていきたいと思っています。
――ユーザー調査などもやられているのですか。
米国、中国、日本などでユーザー調査を実施することはあります。そのほかにも日本法人からフィードバックは受けていますし、開発チームから意見があがってくることもあります。そうしたあらゆるチャネルから皆さんの意見を吸い上げることで、より良い製品づくりにいかしていきます。ただ、日本で評判が良ければグローバルでもうまくいくことが多いですね。そういう意味ではバロメーターのような市場だと感じています。
――ソノヴァにゼンハイザーブランドが加わることで、どんな相乗効果を期待していますか。
オーディオはもちろん、ヒアリングソリューションジャンルにおけるゼンハイザーブランドでの展開が生まれてくると思います。ソノヴァは長く聴覚ケアソリューションビジネスをしてきました。そうした従来のチャネルの中で、ゼンハイザーブランドの商品も展開していけるようになります。一方で、ソノヴァは世界に約4000店舗の小売り店を持っていて、ここでゼンハイザーの製品を扱えるようになる。これによって販売のチャンスは大きく広がってくると思います。
技術面では、ソノヴァのスピーチエンハンスメント技術、装着感、センサーといった優位性と、ゼンハイザーの高音質技術を組み合わせることで、今までにない製品の広がりが期待できるのではないでしょうか。
そのほかにも、人事、財務、IT、オペレーション、調達などは2社で取り組むことで、より効率化ができます。効率化が進めば資金にも余裕が出て、R&Dなどの投資に回せる。成長、テクノロジー、オペレーションと複数の側面からシナジー効果が期待できると思っています。
――人材についてはいかがでしょうか。
買収と聞くと、スタッフが減らされたり、望まない人事が行われたりと考えられるかもしれませんが、今回のパートナーシップに関して、そういう心配は一切ありません。むしろ、ゼンハイザーの将来を考え、ソノヴァとしては、今後オーディオに重点的に投資していく方針です。
ゼンハイザーの開発部隊はドイツのハノーバとシンガポールを拠点にしていますが、その拠点を残しつつ、ソノヴァのスピーチエンハンスメントやアルゴリズムを開発しているチームは別にあり、両社を一緒にはしていません。エンジニアは今まで働いていた環境にとどまりつつ、さらに、ソノヴァのコンシューマ部門向けの開発も請け負ってもらいます。ゼンハイザーとソノヴァの技術の強みをいかせるよう、エンジニアの新規採用もすすめているところです。
――オーディオ、聴覚ケアソリューションの両面で新たな商品の登場が期待できそうですね。一方で、日本は高齢化社会になり、補聴器は重要なツールになっていますが、「なくしていまいそう」「つけ心地が悪い」といった理由から、普及しないという現実もあります。その辺りをどう考えていますか。
ゼンハイザーブランドのヒアリングソリューション製品を出していくことで、まさにその課題を解決していきたいと考えています。
現在、補聴器は耳の中に入れる「耳あな型」と、耳の後ろに装着する「耳かけ型」、イヤホンと本体を別体にした「ポケット型」の3種類しかありません。しかしこれ以外のニーズも必ずあると感じています。
同時に、普通に音楽などは聞こえるけれど、人混みや周囲が騒がしい場所などでは、人の声が聞こえづらいという人もいます。そういう人には、スピーチエンハンスメントを使って話したい人にマイクを向けて、言葉をしっかりと聞き取るような機器が必要です。
同じように、テレビを見る時だけ聴力を補って欲しい人もいる。その場合は、テレビとペアリングするようなワイヤレスイヤホンで十分に対応できますよね。今までは補聴器をつけるか、つけないかという選択肢しかありませんでしたが、状況に応じて選ぶ幅が広がれば、より身近にヒアリングソリューションを使ってもらえると思います。
――今後そのような新商品が出てくるということでしょうか。
イヤホン、ヘッドホンまで含めて、近い将来、みなさんがあっと驚くような商品が出てきますので、ぜひ注目していただきたいと思います。
――先程、今まで使っていたイヤホンからゼンハイザーに変えたというお話がありました。最後に今使用している製品を教えてください。
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