ワークアウトを記録し、ベッドに行く時間を知らせ、ドアを解錠し、電話をかける。このすべてを手首に着けた小さなスマートウォッチがしてくれると聞いて、心がときめくだろうか。そうでもない。
率直に言うと、最近のスマートウォッチはつまらない。批判しているわけではない。むしろ逆だ。スマートウォッチの登場から10年近くがたち、Appleやサムスン、Googleといった企業は、このデバイスが人々の生活に果たす役割を以前よりも深く理解するようになった。これは売上データにも表れている。Counterpoint Researchによると、第2四半期のスマートウォッチ世界出荷台数は前年同期比13%増だった。Pew Researchが2019年6月に実施した調査では、今や米国人の約5人に1人がフィットネストラッカーやスマートウォッチを使っていることが分かった。
最近のスマートウォッチは、例えば6年ほど前の機種と比べると用途が明確になり、利便性も向上した。しかしこうした進化は、裏を返せば毎年のアップグレードがもたらす変化が以前ほど明確に感じられなくなったことを意味する。筆者はこれを「Apple Watch Series 7」から「Series 8」に乗り換えた時に実感した。Series 8は、就寝中に手首の皮膚温を計測できるセンサーが搭載されたことを除くと、前年モデルとの差はほとんどない(しかも、このセンサーの価値を筆者はまだ実感できていない)。同じことはAppleだけでなく、サムスンやGoogleのスマートウォッチについても言える。
2022年に登場した新型スマートウォッチの多くは、ゆるやかな改良版のように感じられた。Apple、サムスン、Fitbitは新型のセンサーを搭載したが、デバイス自体の全体的な方向性や目的はこれまでの機種と変わっていない。
例えば、健康管理に重点を置いたスマートウォッチ「Fitbit Sense 2」には、新たに身体反応センサーが搭載され、一日を通してストレスの兆候を自動的にスキャンできるようになった。これは必要なタイミングでしかスキャンできなかった初代Senseと比べると進化と言えるが、ユーザーのストレスを検知するという目的自体は変わっていない。ただ、Sense 2の方がこの目的を効率的に達成できるようになっただけだ。
8月に発売されたサムスンの「Galaxy Watch5」は、前モデルよりも大容量のバッテリー、丈夫なサファイアクリスタルディスプレイ、そして(まだ十分には機能していないが)新しい皮膚温センサーを搭載している。しかし、これは「Galaxy Watch4」と比較した場合の大きな違いにすぎない。サムスンは「Galaxy Watch5 Pro」も発売した。このモデルは、さらに大型のバッテリー、チタン素材のボディ、そしてアウトドア派のための新機能を搭載しているが、それ以外の体験はほとんど同じだ。
全体として見ると、Galaxy Watch5とWatch5 ProはWatch 4からの飛躍的な進化というより、ゆるやかな改良という印象を受ける。米CNETのLexy Savvides記者がレビュー記事の中で指摘しているように、Galaxy Watch5は「スマートウォッチ界の新境地を開くもの」ではなかった。むしろ、健康指標の測定、ワークアウトの記録、スマートフォンとの連動といった機能を幅広く備えたバランスの良いAndroidスマートウォッチ、というGalaxy Watchのポジションを強固にしたにすぎない。
Apple Watch Series 8にも同じことが言える。最大の売りは新しい皮膚温センサーだが、その用途は今のところ限定されているようだ。Series 8と「Apple Watch Ultra」はどちらも皮膚温センサーを搭載しているので、過去にさかのぼって排卵日を推定できる。これは家族計画や健康状態全体の把握には役立つだろう。しかしそれを除くと、睡眠中も手首の皮膚温を測定できるという機能は、現時点ではほとんど有用性がないように見える。他の指標と組み合わせて、健康状態の分析に活用されている様子もない。また、同社の「ヘルスケア」アプリに表示される皮膚温グラフの解釈も基本的にはユーザーに委ねられている。
Apple Watchに追加された機能の中で、最も実用的と言えるのはセンサーとアルゴリズムの改善によって自動車衝突事故の検出が可能になったことだろう。しかし皮膚温センサーと同様に、衝突事故の検出も「健康と安全のためのデバイス」というApple Watchの価値を強化し、ここ数年の同社の方向性を際立たせているにすぎない。
数少ない例外は「Pixel Watch」とApple Watch Ultraの2つだろう。この2つはGoogleとAppleが新たな領域に挑んだ製品という意味で、純粋にわくわくさせてくれる。しかし、この2つでさえ、スマートウォッチの世界にまったく新しい何かをもたらしたわけではなく、逆にGoogleとAppleのラインアップに欠けていたものを補ったにすぎない。例えばPixel WatchはGoogleにとって初の本格的なコンシューマー向けスマートウォッチであり、Apple Watchに対抗できる最高のAndroidスマートウォッチだ。一方、Apple Watch Ultraは堅牢なデザイン、2周波GPSへの対応、内蔵サイレンなど、Garminやカシオのデバイスに対抗できる高機能なフィットネスウォッチと言える。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」