パナソニック インダストリーは11月11日、開発中の「人工嗅覚システム」をテーマにしたプレスセミナーを開催した。メタバースの本格普及を控え、五感の中でデジタル化が進んでいないフロンティア領域とされる、嗅覚に取り組んでいるという。
嗅覚のデジタル化が進んでいなかった背景として、においの特質性が上げられる。「におい物質の種類が膨大で、人の呼気にはにおい成分が1000種類以上存在する。またにおいを構成する物質濃度が非常に薄く、検知しづらい」と、パナソニック インダストリー 技術本部センシングソリューション開発センターソサエティソリューション開発2部主任技師の中尾厚夫氏は説明する。
パナソニック インダストリーでは、5月に独自技術で開発したセンサを用い、東京大学との共同研究によって、呼気による個人認証に成功。16種類の高分子材料と導電性カーボンナノ粒子で構成される人工嗅覚センサを介して呼気センシングし、得られたデータ群を人工知能による機械学習を通して分析することで 20人の個人認証を97%以上の高精度で達成。難しいとされる嗅覚センサの実用化に向け、踏み出している。
嗅覚センサは人間の嗅覚のメカニズムをAIやトランスデューサなどに置き換えているもの。人間は鼻腔からにおい分子を吸引し、嗅覚受容体で分子を捉え、嗅細胞にて電気信号に変換し、変換した情報を脳に送り、記憶と商号することでにおいを識別している。このメカニズムをニオイ分子の吸引はファン(ポンプ)、嗅覚受容体は感応膜、嗅細胞はトランスデューサ、大脳の記憶はAIに置き換えているとのこと。
「AIによるパターン認識によりにおいを識別しているため、においの多様性までカバーできることが特徴。単一のにおいしか検知できないガスセンサなどとは異なる」(中尾氏)と進化点を挙げる。
パナソニック インダストリー 技術本部センシングソリューション開発センターソサエティソリューション開発2部部長の瓜生幸嗣氏は「他社でも同様のシステムを開発していると思うが、私たちの最大の特徴は感度」と高感度であることを強調する。
人工嗅覚センサは、一般的なヒトの鼻よりもさらに高感度なものになっており、だからこそ、ヒトには不可能な個人認証にも成功できたとのこと。実用化については「数年以上かかる」としているが、将来的には、呼気を吹きかけるだけで日々の体調の変化がわかったり、においで個人を特定したり、においのキャンセリング性能をもたせることでパーソナルスペースを確保するなど、あらゆる領域に活用を考えているとした。
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