官民連携で食の社会課題解決を目指す--農水省がフードテックビジネスコンテストを開催する狙い

 10月24日から11月2日にかけて、CNET Japan主催のオンラインイベント「CNET Japan FoodTech Festival 2022 日本の食産業に新風をおこすフードテックの先駆者たち」が開催された。フードテックの先駆者たちが連日登壇したなかで、本稿では初日に行われた農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 企画グループ エキスパート(フードテック) 片瀬透氏のセッション「『フードテックビジネスコンテスト』で食の社会課題を解決--農林水産省『フードテック官民協議会』の取り組み」の様子をお届けする。

(右下)農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 企画グループ エキスパート(フードテック) 片瀬透氏、(左上)CNET Japan 編集長 藤井涼
(右下)農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 企画グループ エキスパート(フードテック) 片瀬透氏、(左上)CNET Japan 編集長 藤井涼

 セッションの冒頭で片瀬氏は、「近年、世界的な人口増加等によって食糧需要が増大し、健康志向や環境志向など消費者の価値観も多様化している」と世界の食糧事情を説明。それに伴い、「多様な食の需要に対応し社会課題を解決するために、フードテックを活用した新たなビジネス創出への関心が高まっている」(同氏)と市場動向を解説した。

 農林水産省(以下、農水省)の調べでは、世界の食糧需要は2050年に58億1700万トンと2010年比で1.7倍に膨れ上がり、国連食糧農業機関(FAO)の報告書「Edible Insects」によると、2050年に90億人を養わなければならなくなるとのこと。そのような状況を踏まえ、政策面でも2020年、EUがFarm to Fork戦略にて代替肉や昆虫食など代替タンパク質を重要な研究開発分野と位置付け、2021年には農林水産省が発表した「みどりの食料システム戦略」において、持続可能な食料システムの構築のため、フードテックの展開を産学官連携で推進することとされた。

 市場でも、フードテック分野でのスタートアップ投資が世界的に年々増加し、AgFunder社の調査によると2021年は約5兆6千億円と大きく成長している。国内のフードテック市場も拡大が予測されており、「今後の成長が期待される市場だ」と片瀬氏はいう。

世界と日本のフードテック市場予測
世界と日本のフードテック市場予測

 ただし日本のフードテック投資は515億円にとどまり、世界で見ると上位15か国にも入っていない状況である。ただ、一方で有望なフードテックベンチャーも誕生しつつあるという。代表的な例として片瀬氏は、大豆を用いた代替肉を作る技術を開発し、増大するたんぱく質需要に対応する「DAIZ」、イエバエを使って飼料を作る「ムスカ」、AIを活用した自動調理ロボットを開発する「TechMagic」、3Dフードプリンターで味や硬さを調整して食欲がそそられるような介護食を作る技術を研究する「山形大学」、血圧や体重等を踏まえ、個人の目標に応じてAIベースで最適な食事メニューを提示する「ウェルナス」の5件の取り組みを挙げると共に、「他にも、ここで紹介しきれない多くのビジネスの芽が息吹き始めている」と国内フードテック市場の見通しの明るさをアピールする。

部会活動と推進ビジョンの策定を行うフードテック官民協議会

 そのような状況を受けて農水省では、2020年10月にフードテック官民協議会を発足。協議会への入会は個人単位であり、「現在、食品企業、ベンチャー、研究開発、関係省庁から約1000人が参加している」(片瀬氏)とのこと。官民協議会の取り組みとしては、テーマごとに設けた作業部会やコミュニティサークルで各領域の課題解決、新市場の開拓に向けた議論や活動を実施。それらの活動の報告の場として、全ての会員を対象とした総会や提案・報告会を年に3回開催しているという。

 具体的な活動としては、現在8つの作業部会を運営。テーマは、「昆虫ビジネス研究開発」「細胞農業」「サーキュラーフード推進」「食生活イノベーション」「SPACE FOOD」「スマート育種産業化」「Plant Based Food普及促進」「ヘルス・フードテック」の8つであり、それぞれが協議会会員発で、企業や団体に所属される方々が運営する形となっている。「作業部会への入会に関して会費はなく、ぜひ多くの方々にご参加頂きたい。その他にもフードテックには、AI・ロボット、スマートキッチン、3Dフードプリンター、保存技術・包装資材、完全栄養食など様々な領域がある。官民協議会では新たなワーキングチーム発足を考えているので、我こそはと思う方は是非声を掛けてほしい」(片瀬氏)

現在協議会内は8つのテーマに基づく作業部会が設置されている
現在協議会内は8つのテーマに基づく作業部会が設置されている

 このほかにコミュニティサークルとして、細胞培養の体験やコミュニケーションの場となる「細胞農業」と、フードテック情報提供メディアを運営する「FOOD TECH Lab」の2つが設置されている。

 また、協議会では、フードテックの育成・活用を通じて実現する未来を記載した「フードテック推進ビジョン」と、実現したい未来と実現するための実行計画を記した「ロードマップ」を策定する。

 フードテック推進ビジョンの骨子案では、「持続可能な食糧供給の実現」「食品産業の生産性向上の実現」「個人の多様なニーズを満たすことができる豊かな食生活の実現」を日本発で実現することを目指し、そのためのプレイヤーの育成とマーケット創出に向けた課題と必要な取り組みについて言及している。ロードマップで取り上げている具体的な分野は、「植物由来の代替たんぱく質源」「昆虫食・昆虫飼料」「細胞培養食品」「ゲノム編集食品」「情報技術による人の健康実現」等となっている。

 推進ビジョンとロードマップの案は、現在協議会のホームページに掲載されており、2023年2月に行われる協議会で決定される予定となっている。

「未来を創る!フードテックビジネスコンテスト」

 協議会では現在、フードテックの認知度向上と新ビジネスの創出を目指したフードテックビジネスコンテスト「未来を創る!フードテックビジネスコンテスト」を開催し、個人や企業に対して広く食に関する社会課題を解決するビジネスアイデアを募集している。

 同コンテストは、応募者の多様性を図るため「アイデア部門」と「ビジネス部門」の2テーマに分けて実施する。応募内容は、前者では解決すべき社会課題を設定し、それを解決するためのアイデアを募集。後者では、解決するための事業計画が設定されていて、他で事業化されていないアイデアとなっている。応募資格は、前者が個人とサークル。後者は法人格を有する団体・企業及びそれらに属するプロジェクトチーム、個人事業主となる。審査基準は、新規性や実現可能性、将来性、課題解決力で、本選では人物や熱意も審査の対象となる。

 「アイデア部門においては、新規性、課題解決力を重要視する。ビジネス部門では、事業計画や想定顧客など実現可能性を詳細に記載して頂きたいと考えている」(片瀬氏)

フードテックビジネスコンテストの応募概要
フードテックビジネスコンテストの応募概要

 公募については11月21日までで締め切っており、1次審査は書類審査で11月30日に結果を発表。2次審査は動画審査で、2023年1月11日に結果発表となる。通過者は2月4日に本選審査となるピッチ大会に参加、通過者は審査員からのアドバイスを受けることができ、受賞者に対してはVCとの交流会も予定されている。「表彰は5組程度を想定し、本選受賞者については、インセンティブとして農水省実施の補助事業審査時に加点措置を設けることを検討している」(片瀬氏)という。

フードテックビジネスコンテストの概要
フードテックビジネスコンテストの概要

 農水省では同協議会の活動以外にも、フードテック支援事業を強化している状況である。本年から、「フードテックを活用した新しいビジネスモデル実証に対する支援事業」としてフードテックビジネスに対する支援事業を開始(令和3年補正予算、令和4年度予算)。ほかにも、フードテックに関する農水省の支援事業情報サイトを立ち上げて、新しい市場の拡大を図っている。

 「チャレンジにおいてはファーストペンギンとして険しい道が待っているかもしれないが、難題を解決した先には大きな市場が待っている」と、片瀬氏は市場への参入を促す。

フードテックビジネスの海外展開を目指す政府戦略

 プレゼンテーション終了後に、フードテックビジネスコンテストを中心に多くの質問が寄せられた。まず、どのような企業の応募を求めているかという問いに対しては、「特に条件は問わず、募集領域に関してもワーキングチーム活動を行っている8つの領域に限らず広く求めている。我々が気付かない部分もたくさんあるはず」と片瀬氏は回答。また審査員に関しては、「バックグラウンドは違うが各領域のそうそうたる方々。参考になる意見ももらえるはず」と、応募にあたってのメリットを示す。

 フードテックビジネス自体の方向性に関しては、日本独自のビジネスを海外に展開していくことの重要性を片瀬氏は訴える。「内閣府でも海外ビジネスの展開に力を入れている。今後日本人の生産力を高めていくにあたっては、人口減少の面からも事業を海外に展開していくしかない。国を挙げて対応していくことになるので、積極的に支援をしていきたい」(片瀬氏)

 また最後に、円安等で食品が値上がりしている状況をフードテックで解決できないかという足元の課題を踏まえた質問が寄せられ、片瀬氏は「解決してくれる企業が続々登場することを願っている。コンテストにもそれを実現するアイデアが寄せられることを期待している」と回答し、セッションを締めくくった。

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