「テクノロジーが世界を変えている。人工知能は可能性をもたらす新たなフロンティアだが、その発展には不安もついてまわる」。サンフランシスコ美術館のディレクター兼最高経営責任者(CEO)であるThomas P. Campbell氏が、かつてこう語っていた。2020年、人間と人工知能が出会う場の急速な発展をテーマに、「Uncanny Valley: Being Human in the Age of AI(不思議の谷:AIの時代に人であることの意味)」という展覧会が開かれたときのことだ。
AIがビジュアルアートを生み出し、曲を作り、さらには詩や映画の脚本まで書くとなると、そうした不安はあおられる。そして、倫理や著作権に関する懸念が、アーティストの間だけでなく法律関係者の間でも問題視されている。AIアートは何もないところから生まれるわけではないからだ。人間が創造した既存のアートを吸収し、再構築することで成り立っている。機械が作り出すアートが進化すると、そうした人間、つまり実際のグラフィックデザイナー、イラストレーター、作曲家、写真家などは、職を失ったりしないだろうか。
9月には、AIが生成した絵が賞を獲得し、一部のアーティストから不満の声が上がった。「われわれは、芸術性の死が目の前で繰り広げられるのを目撃しているのだ」と、あるTwitterユーザーはツイートした。
5歳のときから熱烈なコミックス読者だったCoulson氏も、AIアートによって生じる複雑な問題について思案しているが、長年にわたって愛してきたコミックスのアーティストを、Midjourneyのようなツールが置き換えることはないと考えている。「(私が愛してやまない)天才アーティストたちは、ドラマチックな構成とダイナミックな語りに対して特別な目を持っている。機械学習がそれに太刀打ちできるとは、到底考えられない」と、同氏はSummer Islandのあとがきで書いている。「だが、私のように絵心がない者から見ると、ビジュアル化ツールには興味が尽きない」
その一方で、Coulson氏はMidjourneyをThe Bestiary Chroniclesシリーズの立派な共同制作者として扱ってもいる。著作者として表紙に名前を掲載しているほどだ。コミックスのアーティストは、物語を着想してから、それを絵として描いているかもしれないが、AI支援の画像では、ストーリーをもっと積極的に動かしたり、方向性を転換したりする可能性も秘めている。そのくらい、制作のワークフロー全体が劇的に変わるということだ。Coulson氏は、こうした人と機械の連携をジャズの即興にたとえている。
「人間のアーティストが相手だったら、『巻頭ページを100通り描いてくれ。その中から一番いいのを選ぶかもしれない』などという注文は絶対にしない。だが、Midjourneyだったら、24時間365日、何枚でも喜んでそれを吐き出し続ける。それから、われわれが画像を選別して、ストーリーを組み立て始める。ほとんどコラージュのような作業で、その過程で隙間を埋めていく」(Coulson氏)
ここではAIアートが主役だが、画像を各ストーリーの最終形にどう組み込んでいくか、その決定は人間に委ねられる。Campfire Entertainmentのチームは、プロンプトに入力するキーワードを色々試し、Midjourneyの複数の出力から最終的な画像を慎重に選定した。「Photoshop」で部分的に微調整も加えるが、ほとんどは機械が出力した作品が生かされる。
例えば、Campfire Entertainmentのチームは、スタイルのプロンプトに「オリーブグリーンとセピアとティールブルーの3色プリントを水彩用紙に」と指定して出てきたリッチな効果が気に入ったので、画像に絵画風の効果を与えるときには頻繁に使っていた。The Lessonでは、(イラストレーターの)「J.C. Leyendecker作品風の未来の地下壕」と指定すると、レトロフューチャー的な世界滅亡後の理想的な隠れ家ができあがった。
「ヒロインを作り出すときには『ヒッチコックブロンド』というフレーズも使った。そうすると大抵、女優のGrace Kellyのような人物が描き出された」と語るCoulson氏。確かに、ひと目で分かるGrace Kelly風の女性だ。耳の位置も正しいし、鼻がふくらんだりもしていない。
「この数カ月のAIによる画像生成技術の進歩は飛躍的で、目を見張るほどだ。しかも、この技術は向上していく一方だ。私たちの想像よりはるかに速いペースで」(Coulson氏)
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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