サッポロホールディングス(サッポロHD)は10月26日、朝日インタラクティブ主催の「CNET Japan FoodTech Festival 2022 日本の食産業に新風をおこすフードテックの先駆者たち」に登壇。「サッポロ発のアプリサービス始動。フードテックで家族の『食』を、よりあたたかく」をテーマに、7月4日に正式版として公開したアプリ「うちれぴ」のサービス内容とビジネスモデルについて講演した。
うちれぴは、サッポロHDの新規事業として誕生した、家族の食事をテーマとしたスマートフォン向けのアプリサービスだ。「食品メーカーのこだわりレシピを約2万件掲載し、ごはんの献立を家族と相談したり、感想を送り合ったり、それらの情報を家族だけのレシピ帳とし思い出として記録していくサービス」(経営企画部 新規事業準備室・リーダー 濱田結花氏)と説明する。
うちれぴプロジェクトは、2019年に行われた社内ビジコン「サッポロビジネスコンテスト」で事業挑戦権を得た企画からスタートした。現在は、サッポロHD経営企画部 新規事業準備室が担当部署となり、3人が担当として取り組んでいる。その中で、サッポログループ各社および小売流通チェーンの営業担当部門の協力を得ているほか、グループ外からビジネス・サービス戦略企画でフラー、アプリマーケティング戦略でビーマップの協力を受け進めている。
2021年にローンチしたベータ版サービスの軸は、「食材の家庭内在庫管理機能」と「家族コミュニケーション機能」の2つ。前者は、レシート撮影または手作業でリストに登録して食材を管理し、そこからレシピを提案する。後者は、その日のごはんやその感想を家族内で共有する機能となっていた。
「ベータ版サービスでは、約1年半の稼働でユーザーは4万4300人に到達。特に『家族コミュニケーション機能』をリリース後には、ウィークリーアクティブユーザーも1万人を達成し、アプリとしての市場ニーズが確認できた」(濱田氏)ことを踏まえ、2022年7月に当該機能を軸に開発した正式版アプリを公開した。リリースの際に、「家族の食を通じて、よりあたたかい世界に」というビジョンと、「『食事に込められた思い』をつなぎ、家族ごはんに笑顔を増やす」というミッションを定めた。
「ごはん作りは、作る人ひとりが担うものではなく、食べる家族全体でコミュニケーションを取りながら進めていくもの。うちれぴを通じて、家族がごはん作りに関わっていくことができる。その上で、家族の気持ちが集まるおうちのレシピ集「うちれぴ帳」に日々のごはんを記録し、その記録を日々の献立に悩む時間の軽減につなげ、家族のかけがえのない時間を増やしていく。それがうちれぴが提供できる価値」(濱田氏)
まずは、ごはんを作る際にホーム画面でレシピを検索して決定する。その際に選ばれたメニューがお盆型のインターフェースに一品ずつ表示され、献立を作っていく流れだ。その際に、家族コミュニケーションの場となる「ごはんトーク」機能で、ごはんに関する相談や会話をチャット形式で行いつつ、食べた後の感想を選択式で登録できる。それらの情報は最終的に、「うちれぴ帳」というオリジナルのレシピ帳に記録されていく。
検索から選べるのは、約30社の食品メーカーが公開する約2万件のレシピだ。各レシピは、「各社とも自社商品のよさを最大限引き出せるように作りこまれているので、おいしくて失敗もないと好評」(濱田氏)という。
うちれぴは、家族のごはんアプリとして食に関した一気通貫のプラットフォームの構築を目指している。食にまつわる企業と連携し、買い物から料理までをつなぎ、ごはん作りを便利にしていく。「食に関する個々の体験をつなぐことで、より便利なごはん作りや心地よいスマートライフの提供を目指している」と濱田氏は語る。
買い物の際には、食材の購入情報をうちれぴと連携し、購入情報からレシピ提案をする。調理の際にはスマート家電と連携し、うちれぴ内のレシピを調理家電に送り、スイッチを押すだけでスムーズに調理を行えるようにする。
在庫管理機能では、ユーザーから手入力の負荷が大きいという声が多いことから、2022年中に店舗での購入情報をうちれぴアプリと連携する機能を実装する。「スマホで冷蔵庫にある在庫や家にある食材が把握できるので、買い忘れや買いすぎを防止でき、フードロスの削減にもつながる」(濱田氏)とした。
うちれぴとしては、今後異業種連携による各種ソリューションの構築を検討していく。具体的には、「うちれぴに蓄積したデータの活用」「うちれぴユーザーに対するアンケート・インタビュー」「SNS等を通じたレシピ等に関するプロモーション支援」「購入チャネルとの相互送客」「広告」「有料会員」などを実施・検討している。
中でもデータ活用については企業からの興味も大きい。「食材の購入やレシピ閲覧等の個々の情報はPOSデータやレシピ検索から得られるが、購入から食べた後までの情報をつなぐデータはなかなか得られない」と、濱田氏はうちれぴの強みをアピールする。
それらの構想を実現すべく、今後は異業種連携を進めていく。2023年度以降、アプリのサービス特長を生かした各ソリューションを順次実施していく計画とのこと。濱田氏は、「うちれぴのサービスに興味を持った人は、ぜひ連絡してほしい」と呼びかけた。
セッション後半では、主催者および参加者から寄せられた多くの質問に登壇者3名が回答した。まず、アクティブユーザー率が高い点については、家族のコミュニケーション機能がユーザーの心をつかんだと、経営企画部 新規事業準備室・マネージャーの保坂将志氏は分析する。「日本の家庭の大きな課題として、料理の作り手に負担が偏ってしまい、作ってもらう側が無関心になりがちなところがある。そこに対して当初の構想段階から、まず食べる側が今日のごはんに興味を持つところから始まり、さらには自分も料理してみようという行動変容を促すことまで検討していた。正式版ではそこから更に、家族がワイワイしながら今日の献立を決めていき、食卓で笑顔を作れるようにしたい」(保坂氏)
内部からの評価に関しては、うちれぴはサッポロHDのメインの事業ドメインとは異なるサービスだが、ステップアップを重ねるたびに社内におけるプレゼンスが上がっていったという。「当初は事業化を懸念する声も目立ったが、経営陣からはオープンイノベーションやESG経営の視点で評価されるようになり、この1年で社内の協力者も増えた。ただし事業化に近づいていくにつれてビジネスとして評価されるようになるので、直近では収益面を考えるウェイトが高くなっている」(保坂氏)。
コンテンツに関して、うちれぴにはさまざまな食品メーカーとの連携のもと約2万件のレシピが掲載されているが、人気のレシピは意外性があるものだという。「ユーザーは、日々のマンネリ脱却の観点で新しいレシピに挑戦したいという思いを持っている。でも失敗はしたくない。その問題を、メーカーが自社製品をおいしく食べてもらうために開発したレシピが解決してくれる」(経営企画部 新規事業準備室・アシスタントマネージャー 河内隼太郎氏)
またレシピ掲載やサービス連携で、競合他社がサッポロHDと組むメリットに関して河内氏は、競合する部分と共創できる部分があると説明。「メーカーのレシピにはとても価値があり、ユーザーの皆様が見たいと思ってくれるコンテンツなので、それをうちれぴがつなぐ。ユーザー、メーカー、うちれぴ三方良しの関係を構築し、生活者の体験を豊かにすることをご理解いただき、好意的にレシピを提供していただけている」と明かした。
調理家電との連携については、現段階ではシャープのウォーターオーブン「ヘルシオ」および水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」と、同社の「COCORO KITCHEN」というウェブサービスを通じて連携している。また、「生活者はそれぞれが好みの調理家電を持っており、皆様へ広くより良いサービスを提供していきたいので、さまざまなメーカーと組んでいくことも必須だと考えている。API連携も可能なので、オープンな形で組んでサービスを構築していきたい」(保坂氏)と話す。
うちれぴチームでは、コンテンツ・ハードの両面で、外部に対して積極的なパートナーシップを構築していく方針だ。
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