シャープ、急速な円安進展で大幅減益--白物家電は国内外ともに伸長

 シャープは、2022年度上期(2022年4~9月)の連結業績を発表した。売上高は前年同期比3.3%増の1兆2579億円、営業利益は93.8%減の24億円、経常利益は79.9%減の102億円、当期純利益は75.7%減の103億円となった。

2022年度上期連結業績概要
2022年度上期連結業績概要

 シャープ代表取締役副社長 執行役員の沖津雅浩氏は、「米州やアジアのブランド事業や車載向けディスプレイなどの注力分野が伸長して、売上高は前年同期を上回った。だが、営業利益、経常利益、最終利益は、急速な円安の進展と、ディスプレイ市況の悪化により、大幅な減益になった」と総括した。

シャープ 代表取締役 副社長執行役員の沖津雅浩氏
シャープ 代表取締役 副社長執行役員の沖津雅浩氏

 上期の為替影響は、営業利益で205億円のマイナスとなったほか、連結化した堺ディスプレイプロダクト(SDP)が前年同期比201億円減となった。

 2022年度第2四半期(2022年7~9月)の売上高は前年同期比14.7%増の6958億円、営業利益は前年同期の206億円からマイナス36億円の赤字、経常利益は前年同期の252億円から、マイナス72億円の赤字、当期純利益は前年同期の208億円から、マイナス165億円の赤字となった。第2四半期は増収となったものの、すべての項目で赤字になる厳しい内容になっている。

2022年度第2四半期連結業績概要
2022年度第2四半期連結業績概要

 一方、2022年度(2022年4月~2023年3月)通期業績見通しの修正を発表した。売上高は据え置き、前年比8.2%増の2兆7000億円としたが、営業利益は前回公表値から400億円減の前年比70.5%減の250億円、経常利益は510億円減の前年比89.6%減の120億円、当期純利益は450億円減の前年比93.2%減の50億円とした。

2022年度連結業績予想
2022年度連結業績予想

 第2四半期の業績悪化と通期見通しの下方修正にあわせて、経営幹部の給与の削減、賞与の返上を決定した。給与削減では、2022年11月~2023年3月まで、CEOの30%減額を最大に、役職に応じて5%削減までの削減を行う。対象となるのは、本部長以上の役職者や、関係会社の社長が対象で、数10人規模になる。また、賞与では常務以上が12月賞与を全額返上する。その他の経営幹部も減額になる。

 シャープの沖津副社長は、「2022年度の黒字化を必達する姿勢を示すためにも、役員報酬や経営幹部の給与、賞与をカットし、経営陣が先頭に立ってこの難局を打開する」と、通期黒字化の達成に向けた意気込みをみせた。

 上期のセグメント別業績では、ブランド事業の売上高は前年同期比6.2%増の7030億円、営業利益は59.8%減の157億円。そのうち、スマートライフの売上高が前年同期比10.8%増の2481億円、営業利益は31.1%減の168億円となった。「第2四半期は、白物家電事業が国内外ともに伸長し、大幅な増収となった。とくに、アジアを中心に、エアコン、洗濯機、冷蔵庫が大きく伸長したほか、欧米やアジアで、調理家電が大幅に売上げを伸ばしており、海外の白物家電事業は、25%を上回る増収になっている。国内についても、エアコン、洗濯機が伸長し、大幅な増収となった。また、急速な円安の進展の影響を受けたものの、海外を中心にした売上げ増加と、白物家電の高付加価値化が進んだことで、第1四半期に比べると増益となり、 利益率も改善している」と振り返った。

上期セグメント別売上高
上期セグメント別売上高
上期セグメント別営業利益
上期セグメント別営業利益

調理家電などは国内生産検討も

 シャープでは、白物家電の新製品の切り替えにあわせて、価格転嫁を行っており、年内にはほぼすべての製品の値上げが完了することになる。「上期に新製品に切り替わった家電は先に価格転嫁が進んでいる。9月から新製品に切り替わった洗濯機では、高機能モデルの場合、2021年は30万円台後半だったものが、2022年は40万円を超えている」という。

 だが、国内で利益を創出している白物家電の多くが、ベトナム、タイ、中国で生産しており、円安の影響を大きく受けている。1円の円安で営業利益に9億円のマイナス影響が出るという。「為替影響をコストダウンや売価上昇、経費削減で多少は打ち返したが、成果は限定的であった」とした。為替変動によって、第2四半期だけで営業利益に約70億円のマイナス影響があったという。

 国内生産への回帰については、「大型白物家電やMFPについては、国内回帰は考えていない。だが、調理家電やスマホなどでは、日本国内のEMSで生産することでメリットが生まれるのであれば検討をしていく。やるとしても、新製品に切り替えるタイミングになり、年明け以降になる。だが、日本で新たな生産拠点に投資をすることは考えていない」と述べた。

スマートライフ
スマートライフ

 なお、エネルギーソリューション事業は、国内の家庭向けや海外のEPC(設計、調達、建設)が伸長したという。

 8Kエコシステムの売上高は前年同期比7.0%増の2954億円、営業利益は29.0%減の81億円。「第2四半期は、ビジネスソリューション事業が約2割の増収となり、増益も達成。なかでもMFP事業が、欧米や日本、アジアなど世界の各地域で2桁増の売上げ伸長となったほか、スマートオフィス事業やインフォメーションディスプレイも、欧米を中心に大きく売上げを伸ばした」という。また、「テレビ事業は、市況悪化の影響を受け、中国や欧州の売上げが前年同期実績を下回ったが、高付加価値化が進展している国内や、米州、アジアでは増収になった」としたものの、「テレビ事業では、欧州などで抜本的な事業構造の見直しを進めており、これに伴う費用が発生している」という。

8Kエコシステム
8Kエコシステム

 ICTは、売上高が前年同期比1.6%減の1594億円、営業利益が前年同期の31億円から、マイナス93億円の赤字に転落した。「PC事業は、市況悪化の影響を受けた欧州や中国で売上げが減少したものの、国内の個人向けPC、法人向けPC、ソリューションなどが伸長。通信事業では、環境変化に合わせたスマートフォンのラインアップの見直しを行うとともに、非スマートフォン商材を強化した効果があった」という。だが、海外生産、国内販売が中心となるスマホおよびPCは、円安の進展により、赤字となっている。

ICT
ICT

 一方、デバイス事業の売上高は前年同期比2.1%減の5944億円、営業利益は前年同期の96億円から、マイナス49億円の赤字に転落。そのうち、ディスプレイデバイスは、売上高が前年同期比6.9%減の4066億円、営業利益が前年同期の93億円の黒字からマイナス123億円の赤字となった。エレクトロニックデバイスは、売上高が前年同期比10.4%増の1878億円、営業利益が前年同期の3億円から、74億円に拡大した。

エレクトロニックデバイス
エレクトロニックデバイス

 「ディスプレイデバイスは、ディスプレイ市況が厳しかったことに加えて、中国ロックダウンによる生産の停止や、顧客需要が減少したことが影響。堺ディスプレイプロダクトを連結化したことや、想定以上に大型パネルの価格が下落したことなどにより赤字となった。エレクトロニックデバイスは、顧客の新製品発売に向けて、速やかにデバイスを供給できたこと、前年同期は新型コロナウイルスによる生産への影響があったことの反動がプラスになった」という。

ディスプレイデバイス
ディスプレイデバイス

鴻海が生産検討するEV「車載用ディスプレイなど売り込み」のチャンス

 一方、2022年度(2022年4月~2023年3月)通期業績見通しの修正については、「円安の進展に伴う想定レートの変更、堺ディスプレイプロダクトの連結影響、ディスプレイ市況の悪化などを織り込んだ」と説明。「足元では、サプライチェーンの混乱が徐々に収束の方向にあり、下期にはパネル価格が好転する兆しにあることなどがプラス要因になる。だが、インフレや為替変動による需要の減速、エネルギーコストの上昇、さらなる円安の進展などをリスクに見ている」と述べた。

 セグメント別の業績見通しは開示していないが、スマートライフでは、白物家電において、ASEANや台湾、米州を中心とした海外事業の拡大や、国内事業の高付加価値化を図るとともに、エネルギーソリューションでは、高出力モデルなどの新製品の販売拡大、欧州での再生可能エネルギーの需要を獲得することで、スマートライフ全体では上期に比べて増収を想定。一定の利益率を確保するという。

 また、8Kエコシステムでは、ビジネスソリューションでは、欧米でのオフィスへの回帰需要の獲得や、ディスプレイ機器事業の強化による利益率の改善、テレビ事業での「AQUOS XLED」や大型モデルの販売拡大に取り組むという。だが、テレビ事業は、欧州での構造改革に取り組み、生産拠点の人員削減、販売拠点での固定費削減などにより、ほぼ横ばいになる。

 「XLEDテレビは、5インチ刻みで製品をラインアップし、画像、音質なども進化させている。業界に先駆けてミニLEDの良さを訴求していく。最上位にXLED、次にOLED、そして液晶という形で市場を形成したい。シャープのシェアをあげていくことができるだろう」とした。

 ICTでは、通信事業において、スマートフォンのコスト構造の見直しや、モデルミックスの改善を推進。PC事業では、ソリューション事業の強化や欧州における構造改革、米州や豪州の収益改善に取り組むという。

 また、ディスプレイデバイスでは、PCやタブレット、車載、VRの注力3事業における販売拡大により、中小型パネル事業が増収増益となり、利益率も大きく改善する見通しだという。「大型パネル事業の事業環境は、下期も厳しいと見ているが、PC向けの中型ディスプレイを量産できる体制を年内にも構築し、市場の状況を見ながら生産量を増やしていく。3年間で中小型ディスプレイの生産を拡大する方針を打ち出しており、引き続き、堺ディスプレイプロダクトの構造改革を進めていく」とした。中型ディスプレイの生産開始に向けて、上期に42億円の投資を行っている。

 また、エレクトロニックデバイスでは、カメラ事業での既存顧客需要の取り込みや、非スマートフォン事業の展開を図るとともに、センサー事業でのOne SHARPによる販売拡大、IoTやヘルスケア関連領域での新規開発の加速などに取り組む考えを示した。

 なお、鴻海グループではEVの生産を検討しているが、「車載用ディスプレイ、レーザー、カメラなどは採用されるチャンスがある。売り込みをしていきたい」と述べた。

 シャープでは、経営の考え方として、「開源節流」を掲げ、新たな事業を創出し、売上げを伸ばす「開源」と、無駄を撲滅する「節流」に取り組んでいる。

 2022年度下期の取り組みとして、開源では、海外事業の拡大、高付加価値商材やサービスの展開、新製品や新規事業の加速などを進める一方、節流では、コスト構造の抜本的な見直し、不採算事業の構造改革、人員適正化、役員報酬および経営幹部の給与、賞与カットを行う。

 シャープの沖津副社長は、「足元は、非常に厳しい事業環境にあるが、『開源節流』の取り組みを進め、下期の業績を着実に改善させる。赤字の事業については、今年度中に黒字にする。利益率が高いものについては、さらなる向上を図る。2023年度以降の業績の回復を加速させるため、さらなる構造改革も進めていく」と述べた。

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