だが、そもそもなぜ人型のロボットを作る必要があったのだろうか。わざわざ明るいオレンジ色の「アクアマン」のような形にしなくても、深海に対応した商用のロボットや深海探査機は既に存在する。
Khatib氏によると、形は機能に従うものだという。つまり、深海で難破船のような複雑な環境を探索したり、遺物や珊瑚礁といった壊れやすいものを取り扱ったりする機能だ。
「そうした環境になると、1本の腕や手では扱いきれなくなる。片方の腕を背中に回したまま、残る腕だけで何かしようとしたら、かなり大変なはずだ。だから、腕は2本必要なのだ。それから、動きながら自身の手を見ることも必要になる。これでもう、人間の上半身が条件になってくる。ただし、目指しているのは人魚であって、人間ではない。そのため、足は付けなかった」(Khatib氏)
2022年になって、Khatib氏と工学科の学生チームは再度OceanOneKを連れて地中海に向かい、さまざまな深度でテストを実施した。同氏にとって一番印象深かったのは、500メートルの深海まで潜り、そこに沈んでいるイタリアの蒸気船「フランチェスコ・クリスピ号」を調べたところだ。
Khatib氏はこう話している。「クリスピ号に近づいたのは、かつてないほど素晴らしい経験だった。ロボットの目を通して風景が見え、ロボットの手も見える。それを自分の手のように動かしているのだ」
スタンフォード大学に話を戻すと、筆者はプールサイドでコントロール機器の前に座り、OceanOneKを操縦してみた。目の前に伸ばしたロボットの手が見えていて、操縦する自分の手の開閉に合わせてロボットの手指も開閉するというのは、かなり現実離れした感覚だった。
だが、何より印象的だったのは、ウェットスーツを着込んでプールに飛び込んでからだった。水中で間近に見るロボットは、驚くほど人間らしく見える。(人間より長く息を止めていられる点を別とすれば)まるで、ダイバー仲間と一緒に泳いでいるようだった。
大学のレクリエーションセンターのプールなので、沈んだ難破船とはほど遠いが、OceanOneKが深海探査を大きく変える可能性は、ありありと想像ができた。500メートルの深度まで潜って歴史的な難破船を自分の目で見ることはできそうにないが、OceanOneKなら、自分の目で間近に見ているかのように、本物に近い体験を与えてくれるかもしれない。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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