グーグルは、Androidスマートフォンの新製品「Pixel 7」シリーズを発表した。
グーグルが自社ブランド「Pixel」を売りとしているのがデバイス上でのAI処理だ。オリジナルのチップ「Tensor」を開発し、グーグルが得意とするAI処理をクラウドではなくデバイス上で行うのだ。撮影した写真から邪魔なモノを消す「消しゴムマジック」や、リアルタイムでのテキスト起こしなど、デバイス上で瞬時に処理できるが、他メーカーとの差異化ポイントとなる。昨今のスマートフォン市場を見ていると「ハードウェアとソフトウェアの融合」がさらに重要になっているのがよくわかる。
アップルは、9月に発売した「iPhone 14 Pro」において「Dynamic Island」という機能を盛り込んできた。画面上にインカメラや顔認証するためのデバイスが内蔵されており、一見すると大きな穴が空いているように見える。Androidメーカーであれば、この穴をできるだけ小さくしたり、画面下に埋め込んだりするなどの涙ぐましい努力をするのだが、アップルはここに通知や表示機能を盛り込み、音楽再生などの起動中アプリを簡単に切り替えられるといった、新しいユーザーインターフェースを作り上げてしまった。
アップルはDynamic Islandについて「ハードウェアとソフトウェアの境目をなくす」としている。OSを手がけるアップルだからこそ、ハードウェアの弱点をメリットに変えることができる、というわけだ。
グーグルはPixelにおいて、TensorとAndroid OSを組み合わせることで独自のポジションを築こうとしている。今回のPixel 7シリーズにおいても、メッセージを音声で入力する際、その内容に関連する絵文字を自動的に提案してくれたりする。また、音声のメッセージを受け取った際、音声の中身を解析して、テキストに起こしてくれる。さらにレコーダーアプリも複数の人が喋っていても、発言者をそれぞれ識別するようになるという。
これらの機能は表向きは、Tensorだから実現した機能とグーグルではアピールする。
Android OSとTensorの組み合わせで差異化するグーグルだが、一方で、ほかのメーカーにAndroid OSを提供する立場も持ち合わせている。Android OSによって、サムスン電子やソニー、シャープ、さらにAndroid OSをベースにしたOSでOPPOやXiaomiなどもスマートフォンを開発している。
彼らからすれば「Pixelで提供している機能を私たちにも解放すべき」と思っているのではないか。グーグルとほかのAndroidメーカーで競っていても仕方ない。共通の敵はアップル・iPhoneなのだから、Androidとして機能強化できる部分はほかのメーカーにも解放して、徒党を組んで「打倒アップル」を目指すのが理想であるのは間違いない。
グーグルがPixelで独自機能をアピールすれば、結果として、Androidスマートフォン陣営のなかでユーザーを奪い合うだけであり、Androidのシェアを広げることにはならないからだ。一見すると、別にTensorじゃなくても、クアルコムの「Snapdragon」でも同様の機能を盛り込めるような気もしなくもない。
また、グーグルとして、Android陣営が本気でアップルを倒しに行くつもりがあるのなら、オリジナルのチップであるTensorをほかのAndroidメーカーに供給してもいいのではないか。Pixelはグーグルが頑張っているものの、販売シェアとしてもものすごく小さいものでしかない。Tensorの生産枚数もたかが知れているのではないか。Androidメーカーの悩みとして「Snapdragonの調達コストが高い」というのが共通認識となっている。高性能、モデムを内蔵した信頼性もあり、なかなかほかのチップを採用するのが難しいのだが、いかんせん「値段が高い」とされている。
グーグルがTensorをほかのAndroidメーカーに供給するようになれば、それだけ生産量も増えるので、さらに量産効果が発揮され、チップは安価になるだろう。いっそのこと、TensorをほかのAndroidメーカーに供給し、AI機能がほかのメーカーでも使えるようになれば、ユーザーからのAndroidに対する見え方も変わってくるのではないか。
ただ、Tensorをほかのメーカーに供給すれば、一方でPixelの「ウリ」がなくなってしまう。
「プラットフォームの魅力を高めるべきか」それとも「ハードとソフトを融合し、独自のAndroidで差異化するPixelを売るべきか」。今回のPixel 7を見ると改めて「Android OSを提供するプラットフォーマー」と「Pixelを売るメーカー」という2つの相反する立場があるが故、どっちつかずの悩ましい戦略となってしまっているように感じた。
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