続いて、接合菌を用いて食肉などの熟成を行える「エイジングシート」を開発するミートエポック代表取締役社長 跡部美樹雄氏のピッチを紹介しよう。
接合菌は「うま味向上」「高抗酸化」「低温活性」の3つの特徴を持っており、「食品流通業界に革命的な価値を創出する」と跡部氏はアピールする。
2014年にエイジングシートを開発し、肉への活用から魚への転用に進み、現在はプラントベースや内臓、ホルモンにも活用しているという。
跡部氏は肉や魚がおいしくなくなる理由として「劣化」と「腐敗菌」の2つを挙げた。
「劣化は時間経過による酸化で変色・生臭みが出て、さらに腐敗菌が付けば腐ってしまう。食材で重要なのは『鮮度』で、これは『ATP(アデノシン三リン酸)』という言葉に置き換えられる。ATPが分解されるとうま味である『イノシン酸』に変化する。ATPが高い、つまり鮮度が高いときには食感は強いがうま味が弱い。時間が経過するとうま味と食感がクロスする部分が生まれるが、これを『K値(鮮度の指標)』と呼ぶ」(跡部氏)
このK値で食べるのが最もおいしいとされているが、それを超えると臭みが出て食感が悪くなってしまう。「このK値を先延ばしするのが、明治大学との産学連携で開発した『エイジングシート』と『オイシート』」(跡部氏)という。
エイジングシートとオイシートは「寝かせてうま味を上げる『熟成』、消費期限の延長、劣化軽減が可能になる『保存』の2つの機能を持つ」と跡部氏は語る。
「熟成では、菌(シートに付着する接合菌)で菌をブロック。酸化の抑制と腐敗要因の腐敗菌を排除し、接合菌の成長過程で食材をおいしく変化できる。おいしさの要因の1つが『ドリップ』だ。ドリップは臭みの元になるが、それを接合菌が食べることで臭みを抑制し、さらに菌糸から抗酸化物質が出される。それらが毛細管を伝って中に入っていくことで、酸化防止、変色させない劣化軽減が可能になる」(跡部氏)
同社はうま味を上げる熟成に向く日本の接合菌と、劣化軽減・酸化防止など保存に向く米国の接合菌の2種類を保有しており、素材によって使い分けているという。
「プラントベースにおいては、発酵豆を作ることでチーズや疑似肉、ペースト、調味料、ミルクなど、付加価値の高い商品を作ることが可能になる。その大きな理由はタンパク質をアミノ酸に分解することで、最大で56倍、平均でも20倍アミノ酸が増加する。うま味と甘みが向上して低塩化が可能になり、効果的な栄養吸収ができるようになる」(跡部氏)
REDD 代表取締役 クリエイティブディレクターの望月重太朗氏は「地域の価値と地域の文脈を食でつなぐデザイン」の事例を紹介した。
「東京アスパラ」という名前のアスパラガスを生産している練馬区大泉町の白石農園では、「切り下」と呼ばれる茎の部分が年間約800キロ廃棄されているという。これを加工して「翠茎(すいけい)茶」と名付けたお茶にして販売するというプロジェクトを2021年からスタートし、約50万円程度の投資で実現したと望月氏は語る。
「農業と福祉(福祉作業所)の連携にデザインを混ぜ込んだ、新しいお茶作りのモデルを作って展開した。背景として練馬区の福祉作業所(就労継続支援B型)は、全国平均と比べて3分の2ほどしか工賃を支払っていないという福祉の課題があった。しかし実際には工作物などさまざまなものを作れる。このリソースを生かさない手はないので、福祉の単純作業の現場ではなく地域のファブリケーション(製造)ネットワークであるととらえ、座組を作った」(望月氏)
アスパラの茎の加工はかたくり福祉作業所が、お茶の加工は調理場を持つ社会福祉法人あかねの会が担当し、商品開発と販売はREDDが担当する。
「切り下の部分は廃棄物だからタダで使うというのではなく、値付けして利益をかたくり福祉作業所に支払い、既存設備を利用するあかねの会には工賃を支払う。新しい仕事があれば連携相談し、さらなる仕事が発生するような座組を組んでいる。全体の流れとしては、生産する農家から福祉作業所を通じてREDDが扱うことでファブレス化し、1次商品の収益と、6次化商品の収益が発生するモデルを一つの形として作った」(望月氏)
この取り組みをフレームワーク化して、新しいお茶の実験も進めているという。
「機材を一つのパッケージにして農家に持ち込み、練馬にいる農家のチームとともに葉物野菜やハーブなどをお茶化して、どういったものが活用できるかに取り組んでいる」(望月氏)
最後は、シーベジタブル 共同代表の友廣裕一氏が登壇し、海藻の大きな可能性について紹介した。
海藻というと昆布やわかめ、海苔などさまざまだが、日本の沿岸海域では約1500種類もの海藻が自生しており、「すべて毒がなくて食用になると言われている」と友廣氏は語る。
そこで、今まで食用として生産されていない海藻を陸上と海面で養殖するというのがシーベジタブルの事業概要だ。
以前は食用にされていたものの、とれなくなった海藻はかなり多いと友廣氏は語る。
「天然で採取している海藻は量がまとまらないため、ある浜だけで食べられているが、隣の浜では食べられていないなど、局所的な海藻食文化がある。環境が変化してとれなくなるとその食文化がなくなってしまう。あと、本当はおいしいが、誰も食べてこなかった海藻などもあり、そういうものを主に作っている」(友廣氏)
シーベジタブルには年間200日以上海に潜って海藻の分類調査を行い、どこに何の海藻が自生しているかを熟知しているメンバーがおり、さまざまな場所から海藻を採取してくる。共同代表の蜂谷氏は種苗の培養の専門家で、それらの海藻から種を取り出すことができるという。設備の専門家や水質分析の専門家などもおり、陸上や海面で養殖を行っているという。
「海面の場合は全国の漁師と連携しながら、当社が苗を作って預けて、作ってもらったものを買い上げる形で広げている。今まで食べられていなかった海藻の場合は、保存方法や料理方法の開発なども行っている。そのほか、今まで世界になかった『海藻×発酵』というテーマで、大豆を使わない醤油や味噌など海藻主原料の調味料開発も進めており、今年から販売を開始する予定だ」(友廣氏)
現在シーベジタブルでは、高知県室戸市を皮切りに全国5拠点まで拠点を増やし、青のりの陸上養殖を行っている。「種を作る技術がうちの一番の強みだが、安定して種を作ることで浅い水槽で地下海水を使った陸上養殖がほぼ通年で行える」(友廣氏)
現在、日本沿岸の海中で海藻が減少していることが大きな問題になっていると友廣氏は警鐘を鳴らす。
「海藻がなくなると魚やイカなどがとれなくなる。しかし海藻を育てても食べられてしまうのですごく難しい。そこでわれわれがやっているのが海面養殖だ。海藻を食べる生き物が来ない条件の中でロープで育てたり、カゴに入れて育てたりしている。海藻の量が増えていくことで海の生態系が豊かになり、家庭には今までなかったおいしい海藻が家庭に届き、漁師のなりわいも作っていく、といったことをしている」(友廣氏)
海藻は栄養素がたくさん含まれており、「青のりは鉄分の量がほうれん草の約64倍あると言われている」(友廣氏)という。
「今後は加工品や薬品、サプリメントなどをいろいろな方と連携しながら作っていきたい」(友廣氏)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力
「もったいない」という気持ちを原動力に
地場企業とともに拓く食の未来