キリンホールディングスのR&D本部キリン中央研究所は9月14日、ファンケルと静岡県浜松市の三者で、浜松市民を対象に2020年11月から実施していた「嗅覚機能・自律神経活動と気分・ストレスの関連性を探索する調査研究」の研究結果を発表した。
それによると、気分状態やストレス状態が悪い人ほど嗅覚感度が低下していると判明。また、ストレス抵抗性や自律神経活動が低い人ほど、特定の香りの同定能力(何の香りか分かる力)が低下していることをヒト試験で確認した。
同研究は、キリン・ファンケル共同のヒト試験で初の成果になるという。また、同成果は、8月22日から8月24日に開催された「2022年度 日本味と匂学会 第56回大会」で発表されている。
超高齢化や昨今の社会環境変化などに伴い、精神疾患患者が増加。メンタルヘルスの維持・向上が社会課題になっているという。日常生活の中で自身の気分・ストレス状態を把握し、早期に適切な対策をとることは重要だが、気分・ストレス状態の悪化は自覚しにくく、簡易的な客観指標が少ないことから、日常的に簡便に評価できる方法が求められている。
また、近年の研究では、気分状態の悪化やうつ病などの精神疾患と嗅覚機能が関連していることを示唆する報告が出てきているが、日本人を対象とした研究は十分ではないという。
そこで、同社とファンケルは「脳機能」に関する社会課題の解決を目指した共同研究を推進。また、浜松市、同市内の医療機関や大学、参画企業などと共に設立した「浜松ウエルネス・ラボ」を通じて、同市民の健康づくりに役立つ取り組みを2020年から展開している。
今回のヒト試験は、気分・ストレス状態の変化を簡便に評価できる方法を探索するとともに、浜松市民に自身の気分・ストレス状態を知ってもらうための機会をつくり、メンタルヘルスケアの啓発活動へつなげ、「予防・健幸都市浜松」の実現へ貢献することを目指して、2020年11月から開始した。
具体的には、2020年11月〜2021年7月にかけて、浜松市在住の40歳以上75歳以下の男女317名を対象に、嗅覚閾値検査(嗅覚の感度を調べる検査)と嗅覚同定検査(何の香りかを分かる力を調べる検査)にて、嗅覚機能の評価を実施。
気分状態の質問紙や自律神経測定器を用いて、気分・ストレス状態を評価した。その結果、憂うつな気分や不安な気分を抱えている人では嗅覚の感度が低いことや、ストレス抵抗性が低い人では「みかん」の香りを把握する能力が低いこと、自律神経活動が低下している7人では、「メントール」の香りを把握する能力が低いことを確認。これらの結果から、特定の香りを用いることで、日常的な気分状態を簡易に評価できる可能性が示唆された。
今回のヒト試験の結果を受けて、日常的な気分状態の評価に、特定の香りを用いた嗅覚機能検査が活用できる可能性が示唆されたことから、同社とファンケルは連携し、嗅覚機能検査のサービス化、気分・ストレス状態などをサポートする商品の開発を進めるという。
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